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第九十七話 見つけた!

何と、ティーエンたちの後ろには、避難してきた人々が歩いて来ていた。先頭を歩くティーエンは苦笑いを浮かべている。


「あの……」


「領主様……」


一体何事かと思って口を開きかけたところに、一人の女性が俺を呼びながら、ガックリと膝を折る。その彼女に倣うように、後ろにいた人々も同じように膝を折った。


「私たちのために、あのようなすばらしい家をご用意くださいまして……本当に感謝の言葉もございません」


人々が口々に俺に礼を言ってくる。俺は戸惑いながら、ティーエンに視線を向ける。


「いえね、サンドイッチを配って歩いていたら、皆、口々に私に礼を言うのですよ。この建物を作ったのは私ではない。礼なら領主様に言ってくれといいましたら、皆、私の後を付いてきてしまいましてね……」


「ま、まあ、窓の部分に穴が開いたままの、風通しが良すぎる部屋ですが、気に入っていただけてよかったです。ただ皆さん、これからですからね。これからが皆さん、本当に助け合っていかないといけないと思います。詳しくは夜の炊き出しのときにでもお話したいと思います。まずは、部屋に戻られて、炊き出しの準備ができるまで待っていてください」


「本当に……本当に……何てお礼を言えばいいか……これで私の子供は、雨露に濡れないで済みます。それだけでも本当に助かります……」


女性たちが口々に礼を言う。俺は照れながらも、何か問題があればいつでも言ってくださいと言いながら、彼女たちを一旦部屋に帰らせた。


そんなやり取りをしている間に、炊き出しの準備は順調に進んでいて、辺りには美味しそうな匂いが立ち込め始めた。ルカを筆頭に、ドニス夫婦、クーペ夫婦が見事な連携で、片っ端からご飯を炊いていっている。そのとき、俺の頭の中にクレイリーファラーズの声が響き渡った。


『変態野郎は帰ったのですか?』


一体どこから話しかけているのか……。俺が忙しくしているのは見えているはずだ。てゆうか俺、今、ティーエンたちと話をしているよね? その話は、後でもいいよね?


そんなことを考えながら俺は彼らとの話を続ける。先ほど聞き取った五百人分のデータを整理しなければならない。その担当を決め、いつまでに仕上げるのかという話と、避難してきた人々と、どのように連携していくのかの話をしていると、再びクレイリーファラーズの声が聞こえてくる。


『無視しないでください。変態野郎は帰ったのですか? 姿が見えませんから帰ったのでしょ? 帰ったのならガッツポーズをして下さい』


……罰ゲームか? 何でこの会議の最中にガッツポーズなどせにゃならんのだ。流れ的におかしいだろう。そんなことに関わってはいられない。ええと、俺が毎日ここに来てもいいんだが、やっぱり俺が来ると雨のような要望が寄せられるか? じゃあ、しばらくはティーエンが要望をまとめてくれ。で、最低、週に一度は俺もここに来ることにしよう。そうだな、一人で来るより、この中の誰かと一緒がいいよな。


『ガッツポーズは? まだいるのですか? どこにいるのですか? どこです? どこよ?』


あまりにうるさいので、俺はその声を払いのけるようにして、右手を俺の真横に持っていった。


「後ろ? 後ろにいるの? 嫌っ! 嫌ぁぁぁ!」


ヤツは俺の右斜め後ろの位置から全力疾走でこちらに向かってきた。そのとき、ちょうど打ち合わせが終わり、炊き出しの準備もできた。ティーエンたちは避難してきた人々を呼びに再び散っていった。


「シーズの、あの変態野郎はどこです? 嫌だわ、また私の豊満な乳を揉みしだかれるのは嫌だわ!」


「……ゲスい表現を使うんじゃないよ。てゆうか、そんなに大きくないだろうが。シーズはとっくに帰りましたよ」


俺の言葉に、クレイリーファラーズはキョトンとした表情を浮かべる。だがやがて、その表情は見る間に怒りのそれへと変わっていった。


「騙したのね!」


「騙しては、ない」


「何で、ガッツポーズをしなかったのですか!」


「罰ゲームを執行されるような敗北は犯していない」


「このっ……バァ~カっ!」


口を大きく開けて俺を罵っている彼女の、何とまあ、ブサイクなことだ。俺が親なら絶対に泣く。てゆうか、小学生か。いや、今どきの小学生でもやらないような振る舞いだ。そんな彼女を俺は完全に無視する。


「ご領主様……」


不意に男の声が聞こえたので、思わずその声の方向に視線を向ける。そこには、見目麗しい男性が控えていた。


「お初にお目にかかります、私はウォーリアと申します。この度は、素晴らしい家をお与え下されただけでなく、食糧までお恵みを下さり、感謝の念に堪えません。このご恩は一生をかけてでもお返しいたします」


「いえ、そんな……いいですよ」


「そうは参りません。ご領主様は私の命の恩人でございます。いかがでございましょう。私は、服を作る職人を致しております。この度のお礼に、是非、ご領主様の服を私に作らせてはいただけませんでしょうか。不肖の身ではございますが、持てる技術のすべてを注ぎまして、勤めさせていただきます」


「いっ……いや……」


「いいですね! よろしくお願いします」


俺の代わりにクレイリーファラーズが返事をしてしまった。予想外の出来事に、俺は目を見開いて固まる。


「ありがとうございます。服の生地はサマゲの街で調達しておりますので、ご心配なく」


「いつから作りますか? 明日は大丈夫ですか? でしたら、明日からお屋敷に来てください」


「承知しました」


ウォーリアはさわやかな笑みを浮かべながらお辞儀をし、俺たちの許を去っていった。


「ちょっと、アンタ……」


「やっと見つけた!」


「へ? 何が?」


「フェルディナント……やっと見つけたわ。私のフェルディナント……」


その言葉に、俺の眉間には深いシワが刻まれた。

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