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第五十五話 やることなすこと目白押し

「ええと……ちょっと待ってくださいね」


俺は困り果てていた。一体何から手をつけたらいいのかがわからない。優先順位を付けて、重要度の高いものから先に片付けていくのだ……という理屈はわかる。だが、どれも重要に思えるものは、どうしたらいいのだろうか。


今、俺は一通の手紙を手に持ちながら、目の前に並んだ四人の村人たちと応対している。


「ご領主……」


そんな中、ハウオウルがやって来てしまった。俺は思わずため息をついてしまう。


「先生……いい話ですか、悪い話ですか?」


俺のその言葉に彼は、ちょっと驚いたような表情を浮かべる。


「ご領主……忙しそうじゃの。いや、そうではないかと思って、様子を見に来ただけじゃ」


彼の言葉に俺は、心底ホッとする。今の俺は5つのミッションについて、決断することを迫られている。詳しく言うと、こんな感じだ。


①村長の畑のジャガイモをどうするのか?

②その村長の畑が丸焦げになっている。これにどう対処したらよいか?

③村長が納めるべき税についてどうするか?

④昨日から探している村長の姿が見当たらない。捜索隊を出すべきか?

⑤手紙の送り主であるオウトから、王国中で作物が壊滅的な被害を受けており、飢饉が発生する恐れがある。豊作だったラッツ村に人々が避難する可能性がある、という連絡


この村に避難民が流入してくる? ということは、それを受け入れる体制を整えなければいけない。いや、でも、それにはまだ日があるだろう。村長の畑は……というか、村長の姿が見えないのは、色んな意味でアカンことじゃないか? それよりも、畑を先に何とかしないとまた、あの臭いが……。ええと……。


頭の中がグチャグチャになりそうになりながら、俺は一つ一つ丁寧に指示を出していく。まず、村長の畑については、村人たちで手分けして調べてもらうことにし、同時に、村長の行方を捜すよう指示を出した。税については、村長の行方がわかったときだ。彼の場合、納めるものがジャガイモだけであった。つまり、税については大量のそれが納められることになる。これまでは、彼からの提案で、物納ではなく、金貨で納税を行っていた。いくら不作になろうとは言え、最低限の税は納めねばならない決まりだ。彼の場合、村人の中では断トツに広い土地を任されているため、その税額はかなりものだ。まあ、これは、今年納められないというのであれば、来年まで待ってもいい。何なら、月々のローンで返済してくれてもいい。マ〇ダ銀行のようにトイチの利息を取るつもりもないし、多少支払いが遅れても、きちんと報告さえしてくれれば、「村長ハン、困りまんなぁ。借りた金は、キッチリ返して貰わんと」と言いながら、金目の物を無理やり持っていく……などということもするつもりもない。


俺は集まった村人たちに、まずは畑の様子を確認し、まだ焼け残っているジャガイモがあれば掘り出して、一か所に集めるようにと指示を出した。彼らは一礼をして、足早に屋敷を後にする。その後に続いて俺も、屋敷を出ていこうとすると、ハウオウルが驚いたような顔で口を開いた。


「どちらに行かれるのじゃ?」


「ギルドです」


「ギルド?」


「ええ、クエストを出すのと、相談がありますので」


「儂もお供するぞい」


「ええ、そうしていただければ、助かります」


俺はハウオウルを伴ってギルドに急ぐ。途中、村長の畑が丸焼けになっていたことをハウオウルから聞かれたが、朝起きて見てみたら、あんな感じになっていました……などと言ってお茶を濁しておいた。まさか、あそこまで焦土となっているとは俺も思いもよらなかった。下手に能力があるとわかれば、この先、どんな厄介ごとに巻き込まれるのか分かったものではない。


そんなことを考えていると、すぐにギルドに到着する。俺はギルド長に面会したいと受付に告げる。虎獣人だろうか、美しい受付嬢が奥に入っていき、しばらくすると俺たちを案内してくれた。


「……クエストの件は、承知しました。ただ、避難民については、我々の領分ではありません」


「いえ、ギルドに避難民を受け入れてくれと言っているのではありません。もし、大量の避難民が村にやってきた場合、様々な問題が予想されます。住居、食糧……トイレや風呂といった生活に関すること、治安関係のこと……やらねばならないことが多く出てくるでしょう。そのときは、ギルドを通じてクエストを出しますので、冒険者はもちろん、避難民にも希望者がいればクエストを紹介してあげて欲しいのですよ。クエストですから、もちろんお金は払います」


ギルド長は不思議そうな表情を浮かべながら、首をかしげる。


「……そういうことであれば、承知しました。ただ、こう言っては何ですが、まだ来もしない人々について、そこまで考える必要も、ないかと思うのですけれど」


「そう思うのは、わかります。俺も以前はそうでしたから」


「どういうことでしょう?」


「いえね、子供の頃に大地震に遭遇したのですよ。そのときにえらい目に遭いましてね」


「ダイジシン?」


「まあ、ちょっとした天変地異のようなものです。突然のことで何の準備もできていなかったために、しばらくの間、かなり苦労をしたのです」


「ハア……」


ギルド長はわかったような、わからないような表情を浮かべている。ともあれ、ギルドには早速、村長捜索のクエストを出し、すぐに実施してもらうようにお願いをして、俺たちはそこを出た。だが、屋敷に向かう途中、俺たちは驚きの光景を目にしてしまい、しばらくはそこから動くことができなくなった……。

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