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第四十四話 説教

朝からイヤなものを見た。うん、おそらく今日が今年一番の最悪の一日なのだろう。


朝起きると、俺は顔を洗うために部屋の扉を開けた。それと同時にワオンが飛び出していく。ここ最近はいつも彼女を抱き枕のようにして寝ているのだ。レアなドラゴンらしく、その体を纏う羽毛はモフモフとしていて気持ちがいい。そんな彼女はほぼ、俺が起きるのと同時に目を覚ます。


「にゅー」


ワオンが不思議そうな声を上げているので、何の気なしに彼女の方向に視線を向ける。その先には、ハンモックで爆睡するクレイリーファラーズの姿があった。


パカンと口を開け、下着姿一枚の格好で、しかも両足をハンモックから投げ出している。つまり、両足全開の状態で眠っているのだ。その下のテーブルの上には、朝までかけていたと思われる毛布が落ちていた。俺はため息をつきながら毛布を拾い、それを彼女の体にかけてあげる。


そして俺は顔を洗い、朝食の準備に取りかかる。メニューは相変わらずスープだかシチューだかわからない食べ物だが、昨日、ティーエンが王都から届いたというチーズをパンに乗せて食べてみた。あらかじめチーズを少し火であぶってトロリとさせ、それをパンに乗せただけなのだが、これはこれで美味しいものだった。ワオンも満足してくれたようだ。


ちなみに、ワオンの食事は俺たちと同じものを出している。基本的に人間が食べるものは全て大丈夫らしい。その上、虫や魔物でも……つまりは、何でも食べるらしいのだ。当然、魔物などはそのまま食べるのと俺が料理したものとでは自ずと味が違うため、あまり食べようとはしないが、虫などは小腹がすいたときなどは食べているようだ。美味そうに俺の料理を食ってくれるのはうれしいのだが、果たして彼女は野生に帰れるのだろうか……そんな心配が頭をよぎったりもする。


そんな中、チーズの焼ける香りにおびき寄せられたのか、クレイリーファラーズが目を覚ました。顔がむくみまくっている。彼女は無言でダイニングに降りてきて、そのままフラフラと顔を洗いに行く。そして、しばらくするとむくんだ顔のまま椅子に腰を下ろし、そのままテーブルに突っ伏すようにして倒れた。


「う……頭痛い」


完全に二日酔いじゃねぇか。俺は無言で立ち上がり、コップに水を注いで彼女の前に出してやる。すると、そろそろと手が伸びたかと思うと、コップをゆっくりとつかみ、そのまま自分の口元までズルズルと引きずっていく。そして、パカッと口を開けたかと思うと、コップを倒してテーブルに突っ伏したまま水を飲み始めた。何とお行儀の悪い……。


「ふぅ~頭いたぁい」


ボサボサの髪のままゆっくりと頭を振るクレイリーファラーズ。昨夜は一体どのくらいの酒を飲んだのだろうか。おそらく相当量の酒を飲んでいるに違いない。ただ、その話を聞くと長くなりそうなので、俺はゆっくりとその場を離れようとする。


「昨日、何を食べたんですか?」


突然、声をかけられた、俺はゆっくりと振り返る。


「串カツを揚げて皆で食べましたよ」


「串カツ?」


「肉や野菜を串にさして、それを油で揚げたのですよ」


「私の分は?」


「あるわけないでしょ」


「なんで! ……ツツツ。まあ、いいです。今日のお昼か夜に作って下さい」


「断る」


「え?」


「アレを作ろうとすると自然薯を掘り起こさなければなりません。それは人手がかかります。自分で掘るのは正直、面倒くさいですしね。あ、クレイリーファラーズさんが自分で掘るのなら、考えてもいいですが……。あ、肉がないな。なので、野菜の串揚げならば作れますね。食べたければ自然薯を自分で掘って下さい。酔い覚ましにちょうどいいですよ」


「あなたねぇ……」


いつものように激高するのかと思いきや、彼女はそのままテーブルにベチャっとうつ伏せに倒れた。相当酒が残っているらしい。


「天巫女ちゃんが、そんな泥にまみれる訳にはいかないでしょう……ああ、気持ち悪い……何とかしてくださいな、この二日酔い。そう言えば、フルーツジュースを飲めば治りが早いと言いますよね。タンラの実とハチミツとミルクを混ぜて、ジュースを作って下さいな」


俺は無言で彼女に近づき、そしてやさしく左手を握る。


「……え? えっ!? ちょっと! 何しているんですか! やめてください! やめて! やめて!」


クレイリーファラーズの絶叫が響き渡る。それはそうだろう。俺は彼女の左腕を掴み、右手に細い針を持ち、その先端を彼女の左手指に突き刺そうとしていたのだから。


「爪と……指の……間に針が刺さると、とんでもなく痛いらしいんですよね。その痛みで二日酔いなんざ、一瞬で飛びますよ?」


彼女は俺の手を振りほどくと、慌てて距離を取り、ものすごい目で俺を睨みつけた。


「天巫女に何ということを! 天罰が下りますよ!」


「は? 神様から左遷された天巫女が何を言っているんだ? 毎日ダラダラした生活をしやがって! 挙句に二日酔いだからジュースを作れだぁ? おととい来やがれってんだ!」


ぐぅぅぅぅ~


張りつめた空気の中、間抜けな音が鳴り響く。言うまでもなく、この音の主はクレイリーファラーズだ。


「ごめんなさい、謝りますから。謝りますから、朝食を食べさせてください」


あまりの話の展開に、俺はしばらく固まったまま、言葉を発することができなかった。

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