第三百六十話 作ってみたけど……
俺は片膝をついてクレイリーファラーズに視線を向ける。それに気づいたのか、彼女もゆっくりと顔を上げて上目遣いで俺を見た。
「一体何度目のやり取りだ、これ? いい加減に学びなさいよ」
「……そこは、許してやる。食事もオヤツも今まで通り。焼き鳥とからあげ大盛り、おイモ特盛もよくわかったっていう話じゃ?」
「さよなら」
「じょ、冗談です! 冗談です! これから先は、二度と同じ過ちを犯しません! よろしくお願いいいのおおおおおおん」
「……言えてないじゃないか。いや、マジでこれから先は食事は作らないからな。焼き鳥? からあげ? 自分で作れ」
「わかりました」
「うん? えらく聞き分けがいいじゃないか」
「取引をしましょう」
「取引だぁ」
「レンガの作り方を教えるから、食事と焼き鳥とからあげとおイモは作って。量は仕方がないので、今まで通りでいいです」
「仕方がない、って言った?」
「言った? あれ~ぇ? 言ったとか、言っていないとか……」
「勝手に……何だよ」
「お願いだから。天巫女ちゃんが土下座することなんて、ありませんよ」
「あなたの場合は例外じゃないですか?」
「……レンガの作り方を知りたくはないのですか? ここらで手を打っておいた方がいいんじゃないですか?」
「それは、俺のセリフだろう」
「どうです? レンガの作り方」
「わかったよ。聞こう。だが、詰まらない内容だったら、食事も焼き鳥も……」
「わかっていますよ。私が今まで、こうした場面で、詰まらない、嘘を、言ったことが、ありますか? ほら、この目を見てください、この目を!」
「……貴様の目の玉は、一体どこを向いているんだ?」
「で、どうなんです?」
「いいよ。わかったよ、話しなさいよ」
「レンガの作り方は、土を焼いて固めるというのが一番簡単な作り方です。そこに、粘土や鉄分などを加えると、さらに強度は増します。まあ、あなたの場合は、土魔法がLV5になっていますし、火魔法も使えます。魔力量も相当あるので、それなりのレンガが作れると思いますよ」
「なるほど。土を焼いて固める、か」
俺の話を聞きながら、クレイリーファラーズはよっこらしょと立ち上がり、パンパンと裾を払った。
「はい。これで取引終了です。明日はラッツ村に帰るのですよね? 帰ったら早速、焼き芋を作って下さい」
「さっきまで土下座をしていたのに、よくすぐに切り替えることができるな」
「みんなそう言いますね。他の天巫女連中もよく驚いていました。私に言わせれば、土下座は最高のツールだと思います。土下座するだけで相手は恐縮しますし、大抵のことはそれで許されますから、ここ一番のときに使うには、最高のツールですよ」
そう言って彼女は踵を返すと、スタスタと自分の部屋に戻っていった。俺はその後ろ姿を見送りながら、この天巫女にプライドというものはないのだなと変に感心すると同時に、焼き鳥とからあげとイモが、彼女にとっては何としても守らねばならないものなのかと考えると、少し彼女が哀れに思えた。
◆ ◆ ◆
そして夜、俺は部屋のバルコニーに出て、土魔法の錬成でレンガを出してみることにした。本当は部屋の中でやりたかったのだが、ヴァッシュが部屋を汚してはいけないというので、バルコニーにやって来たというわけだ。
ヴァッシュはワオンを抱っこしながらじっと俺を見つめている。ワオンは彼女の腕の中が心地いいのか、目がトロンとしてしまっていて、今にも眠りに落ちそうだ。俺は目を閉じて、土を焼いてレンガを作るイメージを膨らませる。
土……粘土層というか、粘りのある土……。少し、鉄分も混ざっている。それを、火魔法で高温に焼いて、固めて……。四角い形にして……出す。
……ゴン。
「にゅっ!?」
何とも言えぬ鈍い音がした。その音に驚いて、ウトウトしていたワオンが起きてしまった。彼女はキョロキョロと周囲を見廻している。その頭をヴァッシュがやさしく撫でている。
足元に視線を向ける。俺に知っているレンガよりも一回り小さく、赤ではない、黒い長方形の物体が落ちていた。手に取ってみると、思ったよりも重い。ずしりとした感覚だ。
金属とはまた違う手触りだ。表面は意外にもツルツルしている。土魔法を発動させてこの物体を調べてみると、何だか色々な数字が浮かんできた。要は、土の密度がめちゃめちゃ高く、そして、耐熱性も最高のものであるらしい。念のために、これと同じものを三つほど出してみた。魔法というのは一度発動させると、それはすぐに身に付くものらしい。いや、これは俺の神様からのギフトだからなせるのか。ともあれその物体は、最初のときとは打って変わって、簡単に生み出すことができた。
四つ重ねるとかなり重い。結構両腕に力を込めなければとても持つことができない。ヴァッシュが興味深そうに一つ掴んでみたが、一言、重いわね、と言って俺の許に返してきた。
とりあえず、明日の朝、ドワーフのサエザルにこれを見せて、もし、気に入らないようならまた、別のドワーフを探してもらえばいい。さあ、そろそろ、寝るとするか……。
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