表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
327/396

第三百二十七話 久しぶりの我が家

「おお……お帰りなさいませ、ノスヤ様」


思わず振り返ると、屋敷の中からヴィヴィトさん夫婦が出てきていた。二人とも満面の笑みを浮かべている。


「お帰りを……首を長くして待っておりました」


「すみません、ちょっとあちこちと視察しながら帰ってきたものですから、遅くなりました」


俺の言葉に、ヴィヴィトさんは笑顔で頷く。


「ささ、お疲れでございましょう。どうぞ中へ」


ヴィヴィトさん夫婦を手で制しながら、俺は再び屋敷の前に集まってきた人々に向き直る。


「皆さん、ただいま帰りましたー! また、色々とお世話になると思いますが、これからもよろしくお願いしますー!」


「ノスヤ様―!」

「ノスヤ様ぁー!」


俺の言葉に皆、思い思いの反応を返してくれる。気が付けば周囲は大歓声に包まれていた。中にはおめでとうと言っている者もいて、俺が西キョウス地区の統監になったことが、この村にも伝わっているようだった。


そんな皆の声に包まれながら、俺たちは屋敷に入った。


「おお……」


思わず声が漏れる。いつもの、見慣れた屋敷の光景だが、何とも言えぬ懐かしさを感じる。同時に、心からホッとした感覚に包まれる。ああ、我が家に帰ってきたのだという思いが湧き上がってきた。椅子に座ると、その感覚はさらに強くなった。


急激にお腹が減ってきた。その様子を察したのか、レークが嬉しそうに口を開く。


「すぐに夕食にしましょうか?」


ああ、頼むよと言うと、ヴィヴィトさんの奥さんとレークがキッチンに消えていく。パルテックが後を追おうとしたが、二人は今日は休んでくださいと言って彼女を押しとどめていた。


「帰ってきたな……」


誰に言うともなくそんな言葉を呟きながら屋敷の中を見廻す。そんな俺にハウオウルもパルテックも優し気な眼差しを向けてくる。


「さあ、のんびりはしていられないわよ」


ヴァッシュが口を開く。彼女は真剣な眼差しを向けてきた。


「これから西キョウス地区統監としての仕事が待っているわ。そうなると、このお屋敷では色々と不便なことも出てくるだろうから、新たに統監の館を作った方がいいかもしれないわね」


「姫様、今日はもうそのくらいで……。姫様もお休みくださいまし」


パルテックが呆れながら口を開く。それに釣られるようにして、ハウルオウルも口を開いた。


「そうじゃな。今日くらいはゆっくりと体をおやすみなされ。ご領主にはこれからいろいろな仕事が待っておるが、奥方もこれからいろいろな仕事が待っていますぞ。それに、お二人のダンスは大評判をとっておる。これから先、何度も踊ることになるじゃろう。そのために二人でよく練習しなければな」


ああそうだ。ダンスのこと、すっかり忘れていた。思わずヴァッシュを見ると、彼女は望むところだと言わんばかりの表情で頷いている。これは……お手柔らかに願いたいものだ。


「ところで、俺たちが王都に行っている間に、何かありませんでしたか」


「いいえ。特に大きな問題はございませんでした。作物の生育状況も問題ありません。よろしければ明日にでも、ご覧になってはいかがでしょうか」


俺の問いにヴィヴィトさんが返答する。明日、取り敢えず村を見て廻ることにした。


程なくして夕食が運ばれてきた。肉とパスタとサラダといったメニューだ。一口食べて、思わずはぁぁぁと声を漏らす。美味しい。貴族たちの屋敷で色々なごちそうを食べたが、やっぱり俺はこういう素朴な味が好きだ。


俺の様子を見て、レークとヴィヴィトさんの奥さんは顔を見合わて笑みを交わしている。皆、口々に美味い美味いと言いながら料理を楽しんでいる。ワオンも尻尾を振りながら、いつも以上に食べている気がする。幸せな時間だ。


食事が終わると、今日は休もうということになり、レークらが手早く後片付けをしてくれて、皆、家路についた。皆が帰ると、早速俺は寝室に向かう。


「……ちょっと、先にお風呂に入ってよ」


部屋に入るなりベッドに横たわった俺に、ヴァッシュが口を開く。彼女はワオンを抱っこしながら俺を眺めている。


「うん……。もうちょっとこのままでいさせてくれ……。ああ、やっぱり自分のベッドはいいなぁ。落ち着く」


「本当にあなたって変わっているわね」


「そうかな?」


「屋敷に集まった人たちにお礼を言っていたでしょ? 貴族はあんなことをする人は少ないわ」


「ああ……そうなんだ。でも……」


「でも、なによ」


「何か、お礼を言いたくなったんだよ」


ヴァッシュは不思議そうな表情を浮かべた。これは、俺にしかわからないことだ。元々俺は人づきあいが苦手で、自分から他人と関わろうとしなかった。でも、今日集まってくれた人たちは皆、俺を見て嬉しそうな顔をしていた。それを見ていると俺も嬉しくなった。ここにいる人たちをもっと笑顔にしたいと思った。そう考えていたら、自然にお礼の言葉が口をついて出たのだ。全然喋れなかった俺が、ここまで喋れるようになった……。そんな自分の変化に驚きつつも、嬉しくなったのだ。


「とりあえず、お風呂に入って着替えてちょうだい。そのあと私もお風呂に入るわ。……ねえ、ちょっと」


ノスヤはすでに静かな寝息を立てていた。それを見たヴァッシュは思わず天を仰いだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ