表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/396

第二十四話 クエスト

「魔法ぉ?」


ハンモックに揺られながら、眠そうな目を俺に向けながら、クレイリーファラーズは面倒くさそうに口を開く。


「ええ。火魔法を覚えたいんです」


「どうして火魔法なのですか?」


「いや、料理をするときに、いつも火を起こすのが面倒くさいんですよ。冬の間は暖炉に火がいつもあったのでよかったのですが、今は常に火があるわけではないので、必要になったときにその都度火を起さなきゃいけないんですよ。ディガロを使ってもいいのですけれど、あれだと威力がありすぎるのですよ。確か、火魔法って、魔力ですぐに火を起こせますよね? そんなにレベルの高いものでなくていいので覚えたいんですよ。今後の役にも立つと思うので」


「そうですね。がんばってください」


「いや、どう頑張ったらいいのかがわからないので、聞いているんですが?」


「火魔法ねぇ……。どうだったかしら……ふぁぁぁぁ」


この野郎、大あくびをぶっこいてやがる……。最近ではまさしく、食っちゃ寝の生活を送っている。別にメシを作るわけでもなく、掃除をするわけでもなく、上げ膳据え膳の生活になりつつある。これはいけない。今後のこともあるので、俺は意を決して、彼女に小言を言おうと口を開いた。


「わかりました。自分で何とかします。あなたがそういう態度なら仕方がありませんね。では今後は、一切おやつは作りませんので。……どうしました? そんな目を見開いてもダメです。だってそうでしょう? 世の中ギブ・アンド・テイクじゃないですか。……わかりませんか? 持ちつ持たれつというのが基本だと思うのですよ。助けてもくれない人に、どうして俺がおやつを作らなきゃいけないんですか。欲しければ自分で作ってください? ほら、ヴァーロがあるでしょう? お腹がすいたら、あれを食べておけばいいじゃないですか。はい、ご苦労様です。さて、今日は、サツマイモの白煮でも作りましょうかね……。何です? 腕つかまないでください。離していただけますか? は、な、し、て、く、だ、さ、い」


「……ごめんなさい」


「なに? 何だって?」


「ごめんなさい!」


そこまで言うと、彼女はものすごい速さで起き上がり、ハンモックの上で正座をする。これは……? 反省しているつもりなのだろうか? 相変わらずのジト目で俺をじっと睨んでいる。


「で、火魔法を覚えるのはどうすれば?」


「まあ、一番手っ取り早いのは、魔法使いに教えてもらうことですね」


「その魔法使いはどこに?」


「ギルドがありますでしょ? そこにクエストを出すのです」


「クエストぉ?」


「この村の領主に、火魔法LV1を取得させる……みたいな依頼を出すのです。それを見た冒険者の中で、火魔法が使える人がいれば、その依頼を受けてくれる人がいるかもしれません」


「ほう、なるほど」


「まあ、この村は平和ですし、魔物もそんなに強くないですから、高ランクの冒険者はめったにやっては来ないのですが、それなりに魔法が使える人はいるでしょう。気長に待つつもりで、依頼を出してみてはいかがですか?」


「わかりました。そうしましょうか」


「ちゃんと教えましたよね? ですから、オヤツ、作ってくださいね!」


「……わかりました。今日のところは作りましょう。では、ギルドへの依頼、お願いしますね」


「どうして私が!?」


「ほら、俺、ここの領主ですよ? 領主自らがギルドに行って、おおそれながら、僕ちゃんの家庭教師を募集しておりまして、どなたか来ていただけませんか……って言うのって、何か違う、って感じしませんか? いや、俺はいいんですよ? でも、ギルド側からはどう思いますかね? あそこのお宅には確か、クレイリー何とかさんという方がおいででしたよね? あの方は何をしているのでしょうか? なんて思われませんかね? それが村中に広まって、あの人は……みたいなねぇ? そんな噂が立たないかなーと心配したのですよ。いや、それでもいい、問題ない。ドンと来い……というのであれば、全然いいのです。俺が行きます。ええ、行かせていただきますとも。ただ、ギルドに行くのは初めてなので、いろいろと手続きについて時間がかかるかもしれませんね。と、いうことは、俺が帰ってくるまで必然的にオヤツはお預けになりますが……」


「もういいです! 私が行きます!」


「すみませんね。よろしくお願いします。あ、クレイリーファラーズさんが帰ってこられたら、オヤツが食べられるようにしておきますね。今日は多めに作りますね」


彼女は無言で出かける準備をしている。そして、いそいそと屋敷の玄関に向かって行ったが、ピタリと足を止め、クルリと振り返る。


「あなた、女性にモテないでしょ!」


「は?」


「女性は、優しい男性が好きなのです! あなたは少し、女性の扱い方を覚えたほうがいいですよ!」


「その、怒った顔、世界で一番かわいいですよ」


「はっ!? いっ……行ってきます」


クレイリーファラーズは顔を真っ赤にしながら、いそいそと屋敷を出ていった。



彼女は、それから30分もしないうちに帰ってきた。機嫌は既に直っていた。その様子にちょっとした不気味さを感じたが、特に何も言わず、サツマイモの白煮を二人でおいしく食べた。ちなみに、多めに用意したサツマイモの大半は、彼女の胃袋に収まったことは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ちょろいんだったか、、、w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ