表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/396

第十六話  左遷の訳

「さっきから神様をかなりディスっていますけれど、大丈夫なんですか?」


クレイリーファラーズの意識を俺から逸らせるために、神様の話題を振ってみる。その作戦は功を奏したようで、彼女は再び首を元の位置に戻し、今度は眉間に皺を寄せながら、口を開いた。


「いいのです。どうせ私たちのことなんか見てはいませんよ。あのジジイは、自分の失敗を直視することができないのです。基本的に面倒くさいことは人任せですし、都合が悪くなると逃げます。そういった意味で、私たちのことを見ると自分の失敗を思い出しますから、特に何か問題がなければ、あのジジイが私たちを監視することはありません」


「あの……それって、神様としては……」


「最悪です。あのジジイは自分のやることに反対せず、何も言わない人を重用します。何かミスを指摘したりする人は遠ざけられますし、あまり言いすぎると逆ギレします」


「そんな人が神様をやっちゃいけないのでは?」


「ただ、人並み以上に優しいところはありましてね。変なところで情に厚いところがあるのです。ジジイが神様で収まっていられるのも、それがあるからです。でも、やさしさはあるけれども、強さがない。そのためにイヤなことから逃げることを選択するのです」


なるほど。まあ、人はいいけれど何か痛い所を突かれると逆切れするタイプか。まるで子供のようだ。俺が言う資格はないが、俺だったら、そんなヤツとはできるだけ付き合いたくはない。


それに、このクレイリーファラーズの性格も、間違いなく神様には合わないだろう。相手への気遣いなしに、言いたいことをズバッと言ってくるし、その上に、この毒舌だ。完全に水と油の相性だ。彼女が俺の専属のような形で天界を追われたのも、分かる気がする。


「なるほど……。でも、ずっと二人でってなると、何だかなぁ……ですね。間違いなく俺たち、夫婦だと思われますよ?」


「あ、それは大丈夫です。私、姿を消すことができますから。それに、村人には一切私の姿を見せていませんので、表向きは、あなた一人で暮らしているように見せることはできます」


「マジっすか?」


「ただ、このお屋敷、ベッドが一つしかありませんからね。当然そこには私が寝ます。あなたは……」


「ちょっとちょっと!」


「仕方がありません。あ、毛布は余っていますから、それは使ってもらって結構です」


「ええー?」


何じゃそれは。ベッドの代わり……と言ってもこの屋敷に見当たるものがない。ふと視線を移すと、何やら大きな網のようなものが目に入った。


「これは?」


「ああ、きっとこれは獣を狩るときに使うものですね。まだ、新しいですね。村の人々は使わなかったのでしょうね」


「なるほど!」


俺はそのネットを広げ、ちょっと思案する。そしてテーブルの上に乗りながらそれを、天井から吊るしていく。


「おおーハンモックができた。そこに暖炉がありますよね? 冬は寒くなると思いますので、ここだと暖かくして眠れそうだ。俺、ここでねーよおっと」


そう言いながら、ゴロンとハンモックに横になる。おお、意外とこれ丈夫だな。そんなことを考えながら、俺はチラリとクレイリーファラーズを見る。相変わらず無表情でジトっとした目を俺に向けたままだが、何となく、もの言いたげな様子だ。


「……一度、寝てみます?」


「……」


俺がハンモックから起き上がると、彼女はしばらく佇んでいたが、一切表情を変えないまま、ゆっくりとその上に乗り、ゴロンと横になった。


「どうです?」


「……」


ゆっくりとハンモックを揺らしながら聞いてみるが、彼女は全く喋らない。だが、しばらくするとゆっくりと目を閉じて、その揺れに体を預けるような雰囲気を醸し出し始めた。


「こうやって揺れていると、何か、いい感じじゃないですか? ちょっと……」


「グッ……グガガ……」


「クレイリーファラーズさん?」


……寝ている。いびきをかいている。


俺はゆっくりと彼女に毛布を掛ける。これで、ベッドに寝られる。俺は手早くダイニングを片付けてベッドに向かおうとすると、ふと、暖炉が目に入った。中には薪がくべられていた。これに火を点ければ、温かいのではないか。特に寒さを感じはしないが、男の子の好奇心というやつで、ここに火をつけてみたくなった。確か、暖炉の火を見ると癒される……そんなことをネットで見た記憶があるのだ。ちょっと、やってみたい。


ダイニングを探してみるが、火をつける道具が見当たらない。そうなると、何とかしたくなるのが人情というものだ。ふと、大きな布袋が目に入った。中を見てみると無造作に入れられた黒い刀の柄があった。確か、神のクリスチャン・ディガロと呼ばれる、魔力を具現化してくれるものだ。そうだ、これで火を起こせないか。そんなことを考えながらディガロを取り出し、それを暖炉に向けてみる。


「火……火……炎……炎……出ろっ!」


ドゴォォォォ~~~~!!


ものすごい火柱が暖炉に向かって上がってしまった。俺はどうしていいのかが分からずに、掴んでいるディガロを小刻みにゆすってみるが、当然火は消えない。息を吹きかけてみるが火は消えない。ヤバイ、炎が屋敷に燃え移ってしまう……。


「アイルジャーノ」


頭の上から落ち着いた声が聞こえる。その瞬間、炎は先ほどの暴れっぷりが嘘のように消え失せた。思わず声のした方を見ると、クレイリーファラーズがハンモックに寝そべりながら、俺を見ていた。


「アイルジャーノ、と唱えると、消えます。覚えておいてくださいね。あ、火は消さないでください」


そう言って彼女は、ふあああと大きなあくびをして、再び横になり、また、いびきをかいて眠りに落ちた。


「何だかなぁ」


俺はボリボリと頭を掻き、ため息をつきながら、ベッドに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ