紺碧の空
前人未到の巨峰の連なりである、長大なリュウコツ山脈。
その支峰がラルウ山だ。
標高約二千八百メートル。八合目くらいまでは、なだらかな山だが、そこから山頂に向けては急に切りたった崖になる山の姿をしている。
その麓にあるのが、ラルウ王国。かつて、金鉱によって栄えた国だ。
ラルウ王国の金鉱は『露天掘』だ。つまり、大規模な金鉱が地表近くに存在していたことを示している。
その地面から垂直に掘られた採掘場跡は、今ではリュウコツ山脈から流れ出る伏流水が滾々と湧き出る直径百メートル、深さ五十メートルほどの円筒形の人工池になっている。
そこから放水路が掘られ、そこから流れ出る水が、痩せた土地に糊口をしのぐ程度の農産物をもたらしているらしい。
金の採掘で湧き立っていたころの市街地は、金鉱掘の際に出る廃棄物の岩や砂利、通称『ズリ』の積み重なった山が崩落して土砂崩れを発生させ、壊滅したそうだ。
新市街地は、新しい資源である湧水を利用する位置に細々と形成されている。
やせ地に強い芋類の畑と湧水を利用したニジマスの養殖場を作ったのは、先代のラルウ王である、カールスバーグ・ブラスコーであったという。
国民が自給自足できるように、こうした施設を私財を投入して作り、市民に交じって鋤鍬を振るい、凋落する国を嘆く国民を勇気づけたそうだ。
その無理が祟ったのか、カールスバーグ王は若くして亡くなり、その跡を継いだのが、現王のゴードリィ・ブラスコー王。弱冠十九歳の若者だった。
彼をベルズのような先代の王に使えていた幕僚が支え、なんとか国家としての体裁を保っている。
「技術こそが、ラルウ再生の途である」
この言葉を旗印に、失いかけた職人たちの誇りを奮い立たせ、連発銃開発の偉業を成し遂げたのはゴードリィ王だった。
夜明け、ラルウが見えてきた。
山間の鄙びた集落の様に見えるそれは、とても小さかった。
やがて日はのぼり、ラルウ山が朝日に輝く。
緑に覆われた優しげな姿の山ではない。むき出しの岩肌を見せる荒々しい外見の山だった。
ラルウ山の麓と山頂の高低差は千八百メートルあるそうだ。つまり、麓のラルウ王国は標高千メートルにある事になる。
空気が澄んでいる。そして身がひきしまるほど、寒い。
見上げれば、弟が夢見ていた紺碧の空がそこにはあった。
私は、ラルウに来た。弟の魂魄とともに……
金鉱によるゴールドラッシュは昔の話。
今では、残された無形の財産である『技術』と、金脈が枯れた事を示す湧水だけが支える国がラルウ王国と言う国だ。
人口はわずか千五百ほど。ナカラの地方都市にもはるかに及ばない規模の『国』である。
人口比率は高齢者が多く、典型的な過疎地域であった。
ただし、自給率は高く、商品単価がたかい工芸品の輸出によって外貨も獲得できるので、小さいながらも辛うじて国家としての体裁は保てているようだ。
かつて三万人以上の人々が住み暮らしていた旧市街地は、無計画な金鉱の産業廃棄物『ズリ』の集積である、通称『ボタ山』の崩壊によって壊滅し、新・市街地は大幅に縮小された人口規模に合わせて、湧水を利用しやすいように区画整理されている。
もしも、鳥となってラルウ王国を俯瞰すれば、北側がラルウ山の急斜面、南側は疎林帯、西側が湧水と放水路によるニジマスの養殖場、東側にダテツ街道とジャガイモ畑という位置関係が見て取れるだろう。
防備の点から見れば、西側の放水路と、その放水路から枝分かれした、農業用水路が天然の堀となって南側と東側を守っている形になっている。
北側は、ラルウ山の斜面なので攻め口としては的確ではなく、柵と土塁が作られているだけのようだった。
市街地はこれらの中心にこじんまりと固まっていて、行政庁を兼ねた王城もそこにある。
王城というよりは、地方自治体の村役場といった規模の建物で、全体的に安っぽい雰囲気の建物だった。




