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第二話

 やがて時は流れ、その機会(チャンス)がやって来た。

 反董卓連合に遊軍として参加した劉備一家であったが、虎牢関にて呂布と対峙することとなる。

 連合軍の誰しもが呂布の登場に息をのみ逃げ腰となったが、関羽だけは呂布の旗の下にいる男に釘付けとなった。


 秦誼だ!


 常に冷静であった関羽であったが、カッと頭に血が上り気付けば馬の腹を蹴って敵軍の正面に単騎で駆け出していた。

 それに呼応するように、関羽の弟分である張飛も分けも分からずその後を追う。遅れたのは劉備であるが、これもまた駆け出した。


 連合軍も、三人の行動に驚いたが関羽が斬り込んだことで、敵の前線が出鼻を挫かれたとばかりに乱れが生じたと思い、総大将の袁紹は声の限り叫んだ!


「敵は乱れた! 呂布何するものぞ! 首を取って名を上げよ!」


 その号令は全軍に伝播し、わああ! わああ! と総攻撃である。あちこちで戦闘が始まった。

 しかし関羽は、ただの一点突破であった。呂布の配下である秦誼を討つ! 異常ともとれる行動に、張飛は関羽の背中に声をかけた。


「一体どうしちまったんだ義兄(あにき)よお!」


 関羽は正面を向いたまま答える。


「仇を見つけた!」


 それだけで張飛には充分だった。


「そうかい。だったらオイラは義兄(あにき)のために露払いをいたしましょう!」


 そういうと、張飛は自慢の一丈八尺の蛇矛を振り回して敵兵を突く、吹っ飛ばす、薙ぎ倒す。

 敵兵は蜘蛛の子を散らすようになり、関羽と張飛の回りだけまるで無人の野である。


「な、な、なんだあれは!?」


 それは味方からも敵からも聞こえる声。だが駆ける。関羽は秦誼を目指して。

 敵兵はまるで蜂から逃げる子供のよう。たった二人に大混乱だ。敵将たちも動揺した。

 くだんの秦誼もようやく気付く頃には関羽はすぐそばまで迫っていた。


「げ、げぇ! 長生!!」

「秦誼! ここで会ったが百年目! 覚悟せい!」


「わわわわわわ」


 秦誼はもはや前後不覚である。関羽の形相、その剣幕に慌て、手も足ももつれながら馬を返すと、虎牢関の関門目指して逃げようとする。

 関羽はその背中を追い、張飛はそれを先回りして関羽と挟み撃ちせんと馬を大きく回らせて関門へと向かう。


 その張飛の眼前には敵将が立ちはだかった。張飛は馬を止めて声を張り上げる。


「命知らずめ! 我が名は燕人(えんひと)張飛である! 今は仇討ちの真っ最中。野暮はやめて貰おう!」


 それを聞いて敵将は不適に笑って大喝する。


「どちらが命知らずか! 燕の田舎武者め! 我が名は呂奉先(りょほうせん)なり! 恐ろしくなったら取って返して逃げ帰れ!」


 張飛は、ははぁこれが三つ姓をもつ呂布かとなって、本気の蛇矛の構えである。

 呂布は自分の名を聞いてもこいつ逃げないと面白くなり、馬の手綱を強く握る。

 一瞬の間をおいてほぼ同時に馬の腹を蹴る。両馬一斉に嘶いて駆け出し、互いの距離を縮めていった。


 呂布の戟は頭上で一回転して張飛の首を狙って振り薙がれる。それを張飛は蛇矛で弾いて引っ込めつつ、呂布の喉元を狙って突き出した。

 呂布はそれを紙一重でかわして笑いかける。


「ほほう! 貴様、口だけでないのだな!」

「当たり前よ! こちらは用事があるんだ。さっさと勝負を決っせん!」


「うつけ! この戦場で(それがし)と殺り合う以外になんの用事がある!」


 ゲイン! ゲイン! と互いの得物のぶつかり合う音である。

 味方も敵も、この名勝負に息を飲むばかり。

 張飛も呂布も互いに譲らない。

 しかし、わずかなほころび。それは一騎討ちでは致命的である。


 呂布の戟が張飛の肩をかすめる。張飛は体勢(バランス)を崩して落馬しそうになるところを呂布が黙って見ているわけはない。

 引いた戟を、張飛の腹めがけて突きだす。これを張飛が防御できる術はない。勝負ありである。


 ガィィィーーーン!!


 大きな金属音。呂布の戟は弾かれ、張飛は無事である。手綱を引いて身体を起こして見てみると、呂布の戟を弾いたのは関羽の大刀であった。


「なんだ貴様!」

「義兄!」


 呂布は関羽を睨み付けるが、関羽もそれに睨み返す。


「この関雲長、勝負を所望!」

「聞いたこともない。大事な一戦に水をさす下郎め! 下がれ!」


 こうなると呂布は二人を相手取りの戦いである。関羽も張飛も後年は万兵に値すると言われた人物である。さすがの呂布も汗をかきはじめる。

 その乱戦の中で張飛は関羽に問う。


「義兄、仇は!?」

「馬鹿野郎。義弟の命より大事なものがあるか!」


 それに張飛は涙を浮かべる。


「すまねえ、義兄」

「そんなことより、さっさと片付けるぞ!」


「おう!!」


 ゲイン! ゲイン! バシバシ!


 呂布は汗を拭く暇もないが、未だに隙がない。両方に疲れが見え始めたところにもう一将が大剣を携えて馬を駆って来た。


「関羽! 張飛! 加勢するぞ!」


 二人の兄貴分である劉備である。さすがに三人も相手は出来ないと、呂布は隙を狙って関門に向かって駆け出した。


「く。張飛! 勝負なしだ!」

「何を! 臆病者め!」


 呂布の背中を追って駆け出す張飛。それを関羽と劉備が追いかける。


「待て! 呂布! ここで逃げたら貴様の名が笑われるぞ!」

「うつけ! 貴様を討ったところで名は上がらんからな」


 この呂布の馬は名馬であり、あっという間に差が付けられ、関の中に逃がしてしまった。


 これを見ていた総大将の袁紹は、機は今なりと叫んだ。


「敵は敗走したぞ! 関を盗り、追い討ちをかけよ!」


 味方の士気(テンション)は一気に上がり、とうとう難攻不落といわれた虎牢関を奪取することができた。


 しかし肝心の秦誼は捕り逃すこととなった。秦誼は呂布の旗下にいるようだったが、呂布は武勇に優れ、また国軍を操れる董卓(とうたく)の部下なので、おいそれと近づくことができない。

 千載一遇の機会(チャンス)を逃したのは自分のせいだと張飛は悔やんだが、当の本人である関羽は、生きていればまだその機会が訪れるだろうと義弟張飛を慰めるのだった。

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[一言] >「げ、げぇ! 長生!!」 出たーーー!!!!(大歓喜)
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