心はいつもあなたの側に・後
公爵家執務室には財務担当バルタザール・ワーティナーベ、魔法担当ブレナン・サティヴ、政務担当コンラッド・シズィティがいます。騎士団長のグレアム・ヨスィルダは皆を守るように窓際の位置に立っています。
他には書記官とそれぞれの部下。そして父と母、セバスチャンとエルザ、わたくしの侍女のブランカも同席していました。
執務机に着いた父の手前にあるソファにわたくしと母が並んで座り、ブランカはわたくしの側に控えています。家臣たちはそれより奥の執務用テーブルを囲んでいました。セバスチャンとエルザは扉の側に立っています。
本来ならここにいるべき人物が足りません。
「お父様、カールはどうしましたの?」
父は虚を突かれたようにまばたきをしました。
「カールなら、この時間は朝の鍛錬だが……」
「それは知っています。どうしてカールをここに呼ばないのですか」
わたくしはアイーダ家のことしか知りませんが、朝食前の一時間は朝の鍛錬を行います。男子なら体を鍛え、女子はマナーのおさらいやダンスのレッスンになります。これは、体を動かすことで朝の目覚めをすっきりさせ、頭の働きを良くする効果があるそうです。他の家も行っているのかはわかりません。アイーダ公爵家の伝統ですわ。
そんなわかりきったことを聞いたのではありません。なぜカールを呼ばなくてはならないのか、と娘に意見されて眉を寄せた父に、たたみかけるように続けました。
「カールはアイーダ公爵家の次期当主ではありませんか。このようなお家の大事、国家の大事に次期当主をはぶくのは賢明とは思えませんわ」
「カールはまだ子供だ。子を守るのは父である私の役目だ」
父の瞳には決意がありました。胸にズシンと響きます。それを堪えて首を振りました。
「子供ではありません。カールはもう十三歳です」
十三歳、というところで父が目を細めました。思い出したのでしょう。
ターニャが家を飛び出して自立を目指したのは十三歳です。平民のターニャと公爵家の跡継ぎを一緒にするなと言いたいでしょう。ですが、もはや子供といえる年齢ではありません。
「あと二年でカールは学院に入学しますわ。その時他家の者に事情を聞かれ、外されていたから何も知らないと答えるのでしょうか? アイーダ公爵家の次期当主は現当主にその器にあらず、信頼されていないと謗られましょう。お父様がわたくしとカールを守ろうというお気持ちはわかりますわ。ですがそれではカールはどうなるのでしょう? もし、アイーダ公爵家を乗っ取ろうと企む者がカールの婚約に嘴を出してきたら……」
「もう良い」
父が手を出して制してきました。その顔には苦渋が滲んでいます。
「セバスチャン、カールを呼んできてくれ」
「はい」
セバスチャンが執務室を出ると、父は椅子に背を預けて天を仰ぎました。
父はとても愛情深い人です。幼かったわたくしを見捨てず、カールの教育も教師任せではなく、父の客人とも面会させたり、心身共に鍛えようとしています。当主の背中を見せることでそこから学び取る機会を与えているのです。
ですが同時にやさしすぎる一面も持っています。家や国の醜い部分を子供に見せようとしたがらない――ヘンドリックとの一件もそうでした。わたくしとヘンドリックの確執をご存知のはずの父が何も言わずに見守っていたのは、子供同士の些細なすれ違いで終わらせようとしたのでしょう。陛下や王妃の懇願もあったのでしょうが、王家の暗部を見せず、傷の浅いうちにただ『初恋』の終わりということで済ませようとしたのですわ。
そしてわたくしとターニャの仲を認めてくださった。それは父のやさしさ、甘さです。
ですがわたくしは思うのです。守られてばかりでは、戦う術は得られない、と。
ターニャの側にいればわかります。あの方は様々な経験を得て今の強さを得ました。強くなければ本当のやさしさを持ち得ることはできないのです。
母を見ます。母は苦しそうな顔をしていますが、目が合うとうなずいてくれました。これまで口を挟まなかった母にも思うところがあるのでしょう。
「父様、大事な話とはなんでしょうか?」
やってきたカールはここが執務室だからか、いくぶん緊張しているようでした。わたくしに気が付くと顔を綻ばせます。
「姉様、お帰りになっていたのですか!」
嬉しそうに手を広げたカールを立ち上がって抱きしめ、席に着くように促します。
「お座りなさい、カール。あなたの将来にも関わる大事な話です」
わたくしたちの体面になるソファに座って事のあらましを聞いたカールは、怖がるどころか目をキラキラと輝かせました。
「さすがは姉様とターニャです。お二人ならいつか大きなことを成功させると思っていましたが、まさか聖魔法を解き明かすなんて……。姉様とターニャは最強ですね!」
無邪気に喜んでいる場合ではないのですが、悪い気はしません。やはりわたくしとターニャは最高のパートナーなのですわ。
「カール。カールは今の話を聞いてどう思って? あなたの考えが聞きたいの」
「僕は、ターニャの商会で魔法カードを先行販売させるのが良いと思います」
カールの言葉はわたくしの考えを肯定するものでした。父やバルタザールは目を見張っています。
「どうしてそう思うのだ?」
父の問いに、カールは小首をかしげて考えるように答えました。
「まず聖魔法の術式ですが、これの特許をタナカ商会が取得するのは不可能でしょう。一商会の独占を国が許可するはずがありません」
これにはムッとしましたが道理です。聖魔法の術式は国が管理すべきものでしょう。
「おそらく国はタナカ商会から買い取ろうとするでしょう。ですがターニャのことですから、献上してしまうと思いますよ。ただし、条件付きで」
「条件?」
「聖魔法カードの独占販売権ですか?」
父とバルタザールが同時に声を上げました。カールはというと、なぜそんな発想になるのかわからない、という顔をしています。
わたくしも、利益しか考えない二人にため息が出ました。
「お父様、よく思い出してください。ターニャさんが特許を申請するのは職人を守るためですわ。むしろより世間に広めたいものに関しては特許取得後に製法を公開しているではありませんか。その特許とて他社に取られて悪用されないためで、きわめて安価での公開です。しかも望めば直々に指導にも行っています」
特許には公開と非公開のものがあります。
非公開は主に魔術式に関するもので、製造工程が複雑すぎて職人の調練が大変だったり、開発に費用と時間が必要な物も含まれます。タナカ商会では腕時計や万年筆、温度で色が変わる絵本もそうですわね。
公開特許は製法を売買できます。自社だけではなく他社でも販売することでより安価に、世間に広めることができます。薄利多売ですわ。紙やシロップ、消毒用アルコールにポンプボトル、他にも魔法に関係ない生活に密着した日用品のほとんどが公開されています。
特許の取得は開発者の権利を守ると同時に、悪用されぬよう目を光らせることができるのです。
タナカ商会ができるだけ安価で販売しているのに、タナカ商会の特許を使った商品を不当な値段で販売していれば、抗議ができるのですわ。また、悪質な改造なども認められていません。
ですからタナカ商会のみならず、何かしらの開発に成功したらまず特許を申請します。タナカ商会は残念ながら商品第一号となるピーラーの特許を逃してしまいましたが、これだけ世間に広まっていれば充分でしょう。
このように重要な特許ですが、聖魔法の術式となるとさすがに国が介入してくるのは避けられません。どのみちそうなるのなら、ターニャはより優位な条件を付けて献上してしまうはずです。
「独占販売権ではないとすると……?」
「……自由、か?」
首を捻るバルタザールに対し、父は苦虫を潰したような顔になりました。
「思えばターニャさんは、王室御用達になることにこだわりはないようでしたわ」
わたくしの言葉に父がこちらを向きました。
「王室御用達になれば箔がつきます。ですが、メリットといえばそれくらいでしょう。むしろ新商品ができるたびに王室に献上するのはデメリットと思っていそうです」
「陛下がお喜びになれば良い宣伝効果になりますが?」
「ええ、そうですわね。貴族に対しては、良い宣伝になりましょう。ですがその分、価格も貴族に見合ったものにしなければなりません。タナカ商会が目指すところとは道が違いますわ」
「姉様の言う通りだと思います。タナカ商会は安価で便利な庶民の味方です。うちに持ってくるのは貴族向けの商品ですから気づきにくいですが、ターニャは誰もが気軽に購入できる商品のほうに力を入れていますよ」
カールはやけに自慢そうに言いました。はて、公爵家令息のカールは商人を呼ぶことはしても店に行ったりはしないはずですが……。
疑問が顔に出たのか、カールが少し恥ずかしそうに頬を染めました。
「トーマの受け売りです。折々の挨拶で教えてくれました。公爵家の後継だからこそ足元を見て欲しいと言っていました」
「ああ……」
母がうなずきました。そこにはカールの成長を喜ぶ母親としての思いがあるようです。
公爵家というのは貴族ではトップクラス、これ以上はありません。上を望むことは王位簒奪を意味します。だからこそ、下々の者の生活をトーマは教えてくれたのでしょう。生活密着の商会らしい考えです。
「そのタナカ商会が聖魔法の術式なんて、国に縛りつけられるとわかりきっているものを後生大事にするとは思えません。自由と引き換えに手放したほうがずっとお得です。聖魔法に固執して、姉様に何かあったらと思えばこそターニャは手放すはずです」
「まあ」
カールったら、よくわかっていること。唇が緩まないようにと引き締めたら、それを見た母とカールに笑われてしまいました。
「自由……。そうなると、旅行免状と商業証書ですな、条件は」
「そうだな」
バルタザールが納得顔で呟きました。
旅行免状は他国に渡る際に必要な本人証明書です。これがないと国境を越えることができません。
商業証書は他国で商売をするのに必要な証明書になります。他国の商人組合に加入する権利を得るわけです。
ターニャは商会長ですから商業証書になりますが、たとえば旅商人のように国をまたいで商売する者にはまた別の旅券商証が必要になります。これは店を持たずに商売する人向けになりますわね。
これらの制度は税金が関係しています。商人組合は国家機関ですから、そちらに登録するのです。
「だが、国家機密ともいえる聖魔法の術式を解明したターニャにそれを許しますか? 国が囲っておきたいはずです」
ブレナンが話を戻しました。
「だから販売してしまうのだ。すでに一度販売した物を国が止めたら反感を招く。ああ、そうだ。メトバール伯爵家はターニャの無償奉仕に感謝していような。貴族も庶民もタナカ商会の味方だ」
疲れたように父が言いました。それだけではありません。聖魔法を得たい他国の突き上げも厳しいものになるでしょう。
あの時、学院でジェロームの治癒を行ったことにこんな意味があろうとは、わたくしは想像しませんでした。ただぐったりと横たわるジェロームの命の灯が消えてしまう前に、とそればかりで……。目先のことしか考えられないようでは、わたくしもまだまだ未熟でした。
「……オデットの一味はどうなさいますか? 彼らが何をしたいのか読めませんが、はっきり言って邪魔です。いっそのこと公爵家騎士団で討伐しますか」
さらりと言ってのけたコンラッドですが、目が本気ですわ。
「お父様、なぜ警備隊に討伐命令が出ないのでしょう? ヘンドリック・ポターは元王族とはいえ、オデットも彼も処刑するべきでしょう」
「…………」
以前のわたくしであれば処刑なんて恐ろしいと思ったでしょう。ですがもはや彼らを許すつもりはありません。彼らはターニャの命を狙ったのです。それに、オデットを放置しておけばまた誰かが人質にされるかもしれないのです。早急に逮捕なりするべきです。
「……オデットの光属性は消失したと公表されているが、実際には失われていない。投獄されていたのは他国の干渉をやり過ごすためだろう。私は国政に関わっていないから本当のところはわからんが、聖女候補として他国に譲渡するつもりだったらしい」
「譲渡!?」
息を飲みました。あのオデットを他国に譲渡? 我が国の評判を貶める行為としか思えませんわ。
「本当ですの? いかに聖女候補といえど、あの娘では騒動の火種にしかなりませんわよ」
母が身を乗り出して辛辣なことを言いました。わたくしも同意見です。オデットを聖女候補として扱うのは間違いです。
「まだ噂だ、私にもわからん。……が、有るか無しかで言えば、有りだ」
「なぜでしょう? 今の王都を見ても欲しがる国があるのでしょうか?」
わたくしも信じられませんわ。父は長いため息を吐きだしました。
「……私たちは聖魔法カードを研究していたのを知っている。その成功もだ。しかし他国からすれば貴重な光属性だ。犯罪者であろうと研究材料に喉から手が出るほど欲しい国はある。舌先三寸で人心を操る能力があるなら、それを利用して邪魔な派閥を瓦解させる工作員としても使えような。金に目が眩む小娘などいくらでも使い道はある」
父の言葉に背筋が凍るような心地になりました。
父がこうまで言うということは、一度は考えたことがあるのでしょう。無表情のバルタザール、ブレナンはともかく、コンラッドが微かにうなずいたのを見て怖くなりました。
アイーダ公爵家にも裏工作を行う専門部署があるのは知っていましたが、父に言われると現実味があります。人をまるで物のような、そのような扱いをしているなんて。いいえ、国家とは、貴族とは、そうした部分もあるのです。だからこそわたくしはカールを呼んだのではありませんか。公爵令嬢のわたくしが目を反らしてはいけないのです。
「では、オデットはこのままですか」
「案外王家は痺れを切らしたアイーダ公爵家が始末するのを待っているのかもしれん。そうすれば責任はこちらにあるからな。いい加減、財布の紐を握られているのは息苦しかろう」
揶揄するように父が言いました。アイーダ公爵家は王家の財布。皮肉げな父の口元に、あえてそう言わせているのだとわかりました。
ふむ、とコンラッドが顎を撫でました。
「ならばここはターニャを優先しましょう。聖魔法カードを製造、販売していると仮定して、全面支援しますか。販売方法を工夫しないと物が物だけに大混乱になりますよ」
「お嬢様、聖魔法カードの材料は何を使いましたか?」
ブレナンの質問に、思い出しながら答えます。
「ターニャさんと作ったものは、学院にあった材料を使いましたわ。カードの両面には魔力紙、そこにカードの魔法属性を示すマークと呪文には通常のインク。ただしマークには魔力の量によって威力がわかる加工がしてあります。魔力によって色が変わる魔法インクですわ。内部には魔力属性を安定させる術式のカードを、これも魔力紙です。術式は金を熔かしたものをインク状にして書きました。そして聖魔法の術式ですが、土台となるのは強魔力紙、術式は金のインクです。これを定着液で貼り付けて一枚のカードにしてあります」
魔力紙は魔力に耐えられる性質を持った紙のことです。羊皮紙は別ですが、植物からできる紙は魔力に弱く、魔道具などに使うと燃えてしまうのです。強魔力紙はそれより厚手の紙で、より強い魔力にも耐えられます。
魔法インクは魔法の属性によって色が変わるインクです。どちらもタナカ商会の開発商品ですわ。わたくしの絵本でもわかるとおり、ターニャは紙やインクに強い思い入れがあるようです。
この魔力紙とインクで作られた絵本は、今や貴族や裕福層なら一冊は子供のために購入しているでしょう。子供の魔力調整練習にぴったりですもの。楽しみながら学ぶ。ターニャは遊び心を忘れない人なのです。
わたくしがこっそり優越感に浸っておりますと、バルタザールたちは額を突き合わせて話し合っていました。
「金はともかく他はそれほどですね」
「学院にあるものなら領地でも用意できます」
「待て。あくまで試作品だろう。本格的に販売するならもっと性能と耐久性の高い材料を使うだろう。ターニャのことだからおそらく凝ったものになるはずだ」
ターニャのことだから、には同意ですわね。どこかの時点でストップがかかると予想しているなら、付加価値を出すためにも一目でタナカ商会の商品であるとわかるようにするはずです。
「お父様、それに皆様も。難しく考えることはありませんわ」
笑いながら言えば全員の目がわたくしに集まりました。
「たった一言、こう伝えれば良いのです。――好きなようにやれ、と。それだけでターニャさんは何もかも了解してくださいますわ」
「信じているのね?」
母はまだ固い表情です。アイーダ公爵家の命運がかかっているといっても過言ではない商品を、我が家の一員ではないターニャが握っているとなればそうでしょう。
「もちろんですわ、お母様。ターニャさんがわたくしのためにならないことをしたことは、ただの一度もありません。お客様に笑顔を届ける。それがタナカ商会ですもの」
ターニャの行動が証明しています。心はいつもわたくしの側に。ええ、でしたらわたくしは、ターニャの心が傷つかないように守りましょう。
ひと通りの打ち合わせを終えて、やや遅い朝食をとっている時でした。
ドォン!
爆発音がして食堂の窓ガラスがビリビリと揺れました。
「何事でしょう?」
魔法による攻撃のようですが、それほど魔力は感じませんでした。なのに爆発は大きそうです。
「方角からすると、市街地の端のようですね」
窓際に寄ったセバスチャンが外を見ながら言いました。市街地の端なら鳥籠の館ではありませんわね。タナカ商会の本店も大通りにありますから違います。
「こんな時に嫌なこと」
母が眉を顰めました。父がうなずき、カールは不安そうに窓を見ています。
たしかに、こんな時にどこが攻撃されても民衆の恐怖を煽るだけです。鳥籠の館と無関係とは思えません。
「ポターでしょうか?」
ヘンドリック、と名前を呼ぶ気にも、敬称を付ける気にもならずにそう言うと、母が困ったようにうつむきます。ヘンドリックが冬の離宮を脱走した時もこのような爆発がありました。
報告は、すぐに来ました。
「失礼いたします」
公爵家騎士団長グレアム・ヨスィルダが緊迫の表情で駆けつけてきたのです。
一家団欒の席ですので執事のセバスチャンが報告を受け取り、父に伝え、父からまたセバスチャンがグレアムに言葉を届けます。
グレアムが父を見て、わたくしを見て、また父を見ました。ずきりと胸が痛くなり、嫌な予感が襲ってきます。
「報告いたします。鳥籠の館から出た二名がターニャ・カー氏の自宅を襲撃。爆発炎上した模様。現在は魔法による消火活動中です。実行犯二名は捕縛しました」
目の前がぐにゃりと歪みました。ターニャの自宅。学院を脱出した彼は今どこにいるのかわかっていません。まさか。まさか……。
「クラリッサ!」
父の声にハッとすると、父と母が顔を覗き込んでいました。カールもいます。見ればわたくしは椅子から落ち、グレアムに背中を支えられていました。
「わたくし……」
意識を失っていたのでしょうか? よくわかりません。
「お嬢様、大丈夫です。捕縛した者によるとターニャの自宅は無人だったそうです。実行犯はターニャがいないことに気づき、腹いせに魔法を放って反撃されたのです。あの程度の魔法でなぜあそこまで爆発したのかわからないと言っておりました」
「そう……ですか」
ターニャの行方は未だに摑めませんが、爆発に巻き込まれていないのなら良いのです。ゆっくりと体の感覚が戻ってきました。全身が冷え切っていることにようやく気づきます。
グレアムの手を借りて、なんとか椅子に座りなおしました。
「失礼しましたわ。あの程度で意識を失うなど、とんだ失態でした」
「クラリッサ、無理はしなくていいのよ。ターニャは無事だったとはいえ、自宅が爆発など……」
「いいえ、お母様」
いたわってくださる母を遮り、腹に力を入れます。
「自宅ということは、こうなることを見越して事前に何かしらの罠を仕掛けておいたに違いありません。ターニャさんのことですもの」
窓を見やれば、空の色に煙が混じっていました。
「あれこそは、反撃の狼煙ですわ……!」
相手が誰であろうとも一歩も譲るつもりはない。ターニャの意志のように感じられました。
親にとって子供はいつまでも子供なんです。でも子供だって色々見てるし大人になっていっている。
カールは政治的なことはまだですが、次期当主教育を受けています。ただ、アイーダ公爵家は政治の家ではないんですよね。財布を握ってほどほどに引き締める役割です。
そして放置されるオデットとヘンドリック。
次からまたターニャに戻ります。




