聖女一行は『テンプラ』を貪る3

「ニーナ様、スルキスのテンプラもどうぞ！」

「キール、一人で食べられるよ！」

　にこにこしながらスルキスという魚の天ぷらを差し出すキールに、何度目かの『一人で食べられる』を私は述べる。

　だってこの子、断らないとずっと『あーん』しようとするんだもん！

　私、結構いい年齢の成人女性ですからね！　聖獣が甘やかしなのはわかっているけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。

　それに……キールにも、もっと天ぷらを食べてほしいし。

　ここまで私にかまっていると、キールの食べる量は自然と少なくなってしまう。せっかくご当地ものを食べてるのに、そんなのもったいないよ！

「……ニーナ様」

「うっ」

　キールのお耳がしゅんと下がり、大きな目が悲しそうに伏せられる。

　うう。『きゅーん、きゅーん』とか、そんな哀愁漂う効果音がキールの頭の上に見える気がするよ……！

「このテンプラ、今が適温ですよ？　衣さくさくとしていて、とっても美味しいと思います。ニーナ様にこれを食べてほしいです」

「ううっ。でも『あーん』じゃなくても……」

「『あーん』が、いいです。ニーナ様への奉仕は、僕の喜びなんですから」

　絶世の美少年にしょんぼりとしながら言われてしまえば、首を縦に振るしか選択肢はない。

　だって、とんでもなく可愛いんだもん！

　こんなに可愛いわんこの厚意を、無碍にできようはずがない……！

「し、仕方ないなぁ……！」

　大きく口を開いてみせれば、満面の笑みで天ぷらを差し出される。黄金色の衣を纏ったお魚を口にすると、さくりというたまらない音を立てながら衣が解けた。

「うまっ！」

　スルキスは淡水に生息する小ぶりなサイズの白身魚だ……と屋台のご主人が教えてくれた。脂の少ないさっぱりと上品なお味の白身は、絶妙な揚げ加減によりふわりとした食感に仕上がっている。さくさくとした香ばしい衣と柔らかな白身魚の奏でる味わいは、一言で言えば『最高』。それしか思いつかない！

　そして……このお味は酒に合うやつ！

「ぷっはぁ！　スルキスとシードル、本当に最高……！」

　スルキスの余韻をシードルで喉に流し込んだ私は、ほうと深い息を吐いた。

「よかったです、ニーナ様！」

　そう言いながらキールが手にしようとした天ぷらを……私は先んじてさっと手にした。

「これがちょうど良さそうだな」なんてさっきつぶやいてたから、また私の分のつもりだったのだろう。

「ニーナ様？」

「私の世話ばっかりで、キールの食べる量が少ないと思うの！　はい、食べて！」

　気になっていたことの解消をしようと、ぐいぐいとキールに天ぷらを近づける。

　するとキールは、恥ずかしそうに頬を赤くした。

「ニ、ニーナ様。僕もじゅうぶん食べておりますので……」

「嘘。キール、まだ二串しか食べてないでしょう？　はい、あーんして！」

　いつもよりぐいぐい行けちゃうのは、酔っているからかもしれない。

　そういえば、シードルはさっきので五杯目……だった気がするな。

「恐れ多いので……」

「あーん！」

「…………はい」

　顔を真っ赤にしながら、キールが天ぷらを口にする。

　そして「美味しいです」と小声で言うと、尻尾を何度も大きく振った。

「……若いっていいねぇ」

『おかしなことを言うね。ランフォスも若いだろう？』

「いやいや。俺はもう若くないですよぉ」

　そんな会話をランフォスさんとワーテルがしているのを横目に見ながら、キールにさらに何串か食べさせ達成感で大満足という気分になる。

「ふふ。キールといっぱい食べられてよかったなぁ」

「僕もニーナ様と一緒にお腹いっぱいになれて嬉しいです」

　照れつつも嬉しそうなキールとにこにこと笑い合い、さらにもう何串か食べるとお腹がはちきれんばかりになる。

「は～お腹いっぱい！」

　私はパンパンになったお腹を擦りながら、柔らかな草の上にごろりと横になった。

　神気は汚れてないみたいだし、天ぷらもシードルも美味しいし本当にいい街だなぁ。逃走中じゃなければ、長期滞在したいくらいだ。

　そんなことを思いながらごろごろしていた私は……。とあるものに気づいた。

　漁師さんたちの船が停めてある桟橋の近くに……竜の像があったのだ。