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聖女一行は『テンプラ』を貪る1

 この世界の『テンプラ』は、元の世界のものとは様式が違うものだった。

 串に刺した具材を薄い衣をつけてから揚げ、揚げたてをお塩でいただく。

 どちらかというと、江戸時代の天ぷらに近いのかもしれないな。江戸時代の天ぷらは串に刺したものを屋台で揚げて、その場で食べる方式だったそうだから。


 ──なににしても、美味しければそれが正義なのだ!


 ひとまず頼んだお任せ盛りのできあがりを待ちながら、私はぐるぐるとお腹を鳴らしていた。私の隣で、ワーテルも口元からよだれを垂らしながらお腹を鳴らしてる。そんな姿でも容色が美しいという印象が衰えないんだから、美形という生き物はすごい。

 ランフォスさんは別の屋台を物色しに行って……綺麗なお姉さんたちに捕まっている。キールはというと、お酒とデザートになりそうなものを買いに行ってくれていた。


「ワーテル、天ぷら楽しみですね」

『そうだね、とても楽しみだ。胸が躍るよ』


 ワーテルはそう言いながら、目の前の大河に視線を投げる。私もつられて、川へと目をやった。


「大きくて綺麗な川ですねぇ」


 目の前で見る大河は雄大で、自然ってすごいなぁとしみじみ思う。

 川面はきらきらと太陽光を反射していてとても綺麗だ。その流れはゆったりとしたもので、暑い日に素足を浸したらとても気持ちがよさそう。


『そうだね、とても綺麗だ。だけど底が深そうだから、ニーナは近づかない方がいいと思うよ』


 ワーテルはそう言うと、思いの外真剣な表情をこちらに向けた。

 足を浸したら気持ちよさそう、なんて考えてたのを見透かされたみたいで少しどきっとしてしまう。


『さ、こっちにおいで』


 ワーテルに手を引かれて、川から遠ざけられる。この精霊がこんな気遣いをすることはめずらしい。それが不思議で、私は首を傾げてしまった。


「お嬢ちゃん、できたよ!」


 遠くから屋台の主人に声をかけられ、私とワーテルは瞳をぎらりと光らせながらそちらに目をやった。


「今行きます!」

『すぐに行くよ!』


 元気よく返事をして、手を繋いだまま二人で猛ダッシュする。そんな私たちを主人が冷や汗をかきながら見ていることには気づかないフリだ。


「はい、どうぞ」


 差し出されたお皿の上には、天ぷらがこんもりと盛られている。

 綺麗なきつね色に揚がったそれを見ていると、喉が自然にこくりと鳴った。


「こっちはマミヤ海老で、こっちがスルキス。カン芋の串がこれね。山菜は串じゃなくて、かき揚げにしてあるから。そんでこれは玉ねぎ串」

「これは貝ですか?」

「そうそう、これはミタテ貝だよ。身が肉厚で美味いんだ」

『ニーナ、早く食べよう! お腹がぺこぺこだよ!』


 主人から説明を受けていると、待ちきれないという様子のワーテルに服の裾をついついと引かれる。


「しょうがないなぁ、ワーテルは!」


 ……なんて言っている私も、待ちきれない気分なのはバレバレだろう。

 お皿を受け取り、河原のちょうどいい場所を確保する。ほかほかのお皿を前にしてお腹を鳴らしていると、ランフォスさんとキールもそれぞれなにかを手にしてこちらにやって来た。

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