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首輪の魔道士3

 人形みたいに綺麗な子。

 彼に最初に抱いた印象はそれだった。

 三つ編みをして背中に垂らされた白の髪は艶々として綺麗で、長い白のまつ毛に囲まれている赤の瞳は宝石みたいに美しい。肌は病的に白く、彼が屋敷からあまり出ていないのだろうということが感じられた。

 年頃はたぶん十二とか、十三とかそのあたり。幼い印象を感じないのは、その面差しが大人びているからだろう。

 少年は深い緑色をしたぶかぶかのローブを身に着けていて、それがいかにも『魔道士』という雰囲気を醸し出している。ローブはなんだか古めかしいもので、先祖代々受け継ぐものだったりするのかな……などと思いながらつい眺めてしまう。


「……誰? 急に来られても迷惑なんだけど」


 少年は眉間に深い皺を寄せながら、私たちの顔をぐるりと見た。

 視線は私のところで止まり、そのままじっと見つめられる。

 そんなに見つめられると、緊張してしまうんだけど! 変な格好はしてないと思うんだけどなぁ。

 私を見つめる少年の眉間には、さらに深い皺が刻まれていく。そして、その目つきはなんだか剣呑だ。


「女性をそんなに見るなんて不躾でしょう」


 キールがそう言って、私を自分の後ろに隠してくれる。

 けれど少年はキール越しになっても私を見つめることを止めず、しばらくしてから整った形の唇を開いた。


「あんたなに? 魔力の総量が少ない……どころか、空っぽ。というか魔力が空ってどういうことなの? そんな事例、聖女か異世界の稀人くらいしか俺は知らないんだけど」


 少年の言葉に私はぎくりと身を強張らせた。この世界の人々は、誰でも魔法を使える。

 だけど異世界の住人である私には……一切の魔法が使えない。

 それはとても異常なことでバレると警戒されることだというのは、キールに以前に聞いた話だ。

 魔力がないことを誤魔化すために魔法の指輪をもらったけれど、この少年みたいに体に宿る魔力? 自体が見える人間にはそんなごまかしは通用しないのだろう。


「当然、稀人の方だよ。ニーナちゃんは可愛いけれど、聖女様じゃない」


 ランフォスさんは少年の無愛想にもまったく怯まず言ってから、ニコニコと笑う。


「……可愛い? まぁ、あんたの美醜の感覚なんてどうでもいいけど」


 ──少年に、割とはっきり可愛くないと言葉で示された。

 キールの尻尾が怒った猫みたいに膨らんでいるから、宥めようと背中を撫でる。

 そうしながら『大丈夫だよ、私は怒ってないから』と視線でアピールすると、不満そうにぷくりと頬を膨らませて『でも僕は怒ってるんです!』とアピールを返された。はい、とっても可愛い!


「キール、稀人って?」

「この世界には異世界からの人間が迷い込んでくることが、極稀にあるんです。その人間たちは聖女様と違い浄化の力は持たないのですが、別の不思議な力を持つこともあるらしく……。そんな人々を『稀人』と呼びます」


 少年に聞こえないくらいの声音でこそこそと訊ねれば、キールが小声で丁寧に教えてくれる。

 それはもしかして『異世界転移』とか『チート』とかそういうやつだろうか。

 前の世界の漫画の広告で、そんな文言を見たことがあるぞ。

 ……へぇ、この世界に『同郷』がいる可能性があるのか。いつか、会えたら嬉しいなぁ。

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