首輪の魔道士2
皆と一緒に、魔道士の家へ向けて歩みを進める。
歩いているうちに建物や人通りが少なくなり、賑やかな街の中心と比べると周囲はずいぶんと閑散とした雰囲気になっていった。
この区画からまだ先に進んだ街外れの屋敷に、魔道士の少年は住んでいるらしい。
さらに進めば建物はなくなり、周囲の風景は原っぱとなる。そして遠くに、ぽつんと寂しげに建っている屋敷が見えた。
「なんだか、広々とした場所だねぇ」
「ニーナ様。土が柔らかいので、足元に気をつけてくださいね。足を取られてしまうかもしれません」
「キール、大丈夫だよ。転んだりしないって……わっ!」
「ああっ! ニーナ様!」
キールの忠告虚しく、私は足をもつれされてしまった。キールが素早く支えてくれたので転ぶようなことはなかったけれど、すごく恥ずかしい。
私、どうしてこんなにとろいんだろうなぁ。もういい大人なのに!
「ニーナ様、手を繋ぎましょう! 絶対にそれがいいです!」
キールが尻尾を振りながらぱっと手を差し出してくる。その表情はとても嬉しそうで、『ニーナ様の世話を焼くチャンスだ』というオーラが全身から滲み出ている。
「大丈夫だよ、もう転ばないから!」
「そう……ですか?」
へらりと笑いつつ断りを入れると、キールはしゅんと大きな耳と尻尾を垂らす。
うう。子供みたいで恥ずかしいと思ったからつい断ってしまったけれど、そんな反応をされると罪悪感が募ってしまうな。
引っ込められようとしていたキールの手を取り、そっと繋ぐ。するとキールは頬を赤く染めながら大きく尻尾を振った。
「……やっぱり、繋いで?」
「はい、もちろんです!」
キールが弾けんばかりの笑顔を浮かべる。それを見ていると私まで嬉しくなって、私たちは微笑み合った。
「いいねぇ、青春だね。若い頃を思い出すなぁ」
『ふむ、あれが青春というものなのかい』
ランフォスさん、しみじみと言わないで! というかランフォスさん、まだ若いよね!?
ワーテルも、興味津々みたいな顔でまじまじとこちらを観察しないで!
そうこうしているうちに、私たちは屋敷の前へとたどり着いた。
古めかしいけれど、すごく立派な屋敷だなぁ。
街の人いわく、ここに少年は一人で住んでいるらしい。一人で寂しくないのかな。『首輪』のことを知られないために、使用人も雇わずに一人で住んでいるんだろうか。
……お話、聞いてくれるといいんだけどな。
そもそものところ『聖女の首輪を壊したい』なんて用件、正直に告げていいのだろうか。
『首輪』のことを告げた時点で、もしかしなくても警戒されたりする? 聖女に『首輪』が着けられてるって、民衆には知らされていないことなんだよね?
そんなことを考えながら扉の前で悩む私を尻目に、ランフォスさんが前に出る。
「すみませーん! 屋敷の主人はいるかな?」
そして明るい声をかけながら、扉を高らかにノックをした。
……こういう時のランフォスさんは、本当に頼りになる。
「……なに、うるさいんだけど」
あからさまに不機嫌という声とともに、扉が少し乱暴に開く。
開いた扉の向こうには、白い髪と赤い瞳の少年がいた。




