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聖女と巡礼と

 ステーキ丼を食べた後。私はキールとシラユキ君と並んで、心愛さんに渡すおにぎりを握っていた。「キールは休んでていいよ」って言ったんだけど、「手伝います!」って引き下がらなかったんだよね。

 ランフォスさんは食器の片づけを終えて、食後のお茶の準備をしている。

 ……キールとランフォスさんには、日々お世話になりっぱなしだな。

 お返しをちゃんとしなきゃと思いながらおにぎりを握っていると、ワーテルがやってきてにこりと笑いながら片手をこちらに差し出す。その手の上におにぎりを載せると、彼は鷹揚に頷いてからおにぎりを口にし満足そうに『うむ、美味い』とつぶやいた。

 自由気ままだな、ワーテルは。

 気まぐれにお手伝いなんかもしてくれるんだけど、それ以上に気ままである。


「心愛さんの巡礼は、順調に進んでる?」


 おにぎりを握りながらシラユキ君に訊ねると、嬉しそうな笑顔が返ってくる。小さな尻尾がぴるぴると振られていて、それは見ていて頬が緩むくらいに愛らしい。


「はい! ニーナ様のおかげでとても順調です! だけど――」

「だけど?」

「今いる貴族の領地にしばらく留まることになりそうなので、しばらくほかの土地の浄化は捗らないと思います」


 彼はそう言うと、しゅんと白い耳と尻尾を下げてしまった。


「一体、どれだけお布施が積まれたんでしょうね。これだから人間は」

「ああ、そういうことか!」


 キールの言葉で、私はようやくピンとくる。

 前にキールが『お布施の額によって聖女の滞在期間が延びたりもする』って言ってたもんね。当たり前だけれど、その間は他の土地の浄化は進まないわけだ。

 貧しい街や村への巡礼って、ちゃんとされるのかな。

 お布施の額で滞在期間を決めるような王家だ。旨味のない土地への巡礼なんて、しないような気がする。

 そんな巡礼で……国中がきちんと浄化されるんだろうか。

 その疑問を口にすると、ランフォスさんが私の前に来て木の棒で地面にこの国の地図を描いた。


「ちゃんと今までの巡礼のルートを国が使っているなら、それなりの土地の浄化は終わるはずなんだ。これが、通常の巡礼先」


 ランフォスさんはそう言いながら、地図に点を打っていく。ふむふむ、点が聖女の巡礼先なんだね。


「そして聖女様の力は概ねこの範囲まで届く……と仮定されてる」


 彼はさらに、巡礼先の上に円を描く。すると国土の広い範囲が円に収まった。


「円と円が重なると、円同士が共鳴して力が届く範囲がさらに広くなる」


 そう言ってランフォスさんは、円と円が重なるところにもう一つ円を足した。なるほど、こんなふうになるんだ。

 漏れもたくさんあるけれど、人が住んでいる土地ばかりじゃないだろうしな。これくらいの範囲が浄化されていれば、国としての体裁は保てそうだ。


「聖女様の力が弱い場合はこの円も狭まってしまうから、時と場合にはなってしまうけどね。その場合は、王家と神殿が協議の上で巡礼の場所や回数を増やすことになるんだ」

「実際はそんな上手くはいかないでしょうに。お布施のために豊かな土地ばかりを巡礼し、貧しき地は後回しだ」

「……まぁ、そうだね」


 キールから放たれた冷淡な言葉を聞いて、ランフォスさんは悲しげな苦笑を浮かべた。

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