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ハラス牛のステーキ丼~白い聖獣と一緒に~4

「その『首輪』におにぎりをぶつけてみる、くらいしか私には思いつかないんだけど」


 しばらく思案したのちに、私が出した結論はそれだった。

『首輪』には聖女の力は効かないようだけれど、外側からさらに力をぶつければ呪いが解けないだろうか……と考えたのだ。呪いのネックレスにおにぎりをぶつけるという、とってもシュールな光景になるけれど。


「『首輪』におにぎりを、ぶつけるのですか?」

『ニーナ、なんとも粗野な提案だな』


 シラユキ君は目を丸くし、ワーテルは美しい眉を顰めた。

 十日間の旅の間にワーテルにもおにぎりを供している。だから彼もおにぎりの存在を知っているのだ。そして、おにぎりをとても気に入っており……それを粗末にするのが嫌なんだろう。

 いや、私も食べ物を粗末にする提案はどうかと思ってますけどね。それくらいしか、私にはできることがないんだってば!


「だって、私にはそれくらいしかできることがないんですよ」


 心愛さんに協力を仰げれば、もっと別の選択肢も生まれるんだろうけど。

 その際には……心愛さんが私のおにぎりで力を保っていることとか、王子に『首輪』を着けられてることとか、私が本来なら聖女になる存在だったのだとか。そんな事実を話さなくてはならなくなる。それらは、心愛さんにとって受け入れ難い事実のはずだ。

 下手をすれば……というか確実に。妙な揉め事に発展するよね。それは正直、遠慮したいな。

 うん、やっぱりリモートで悟られることなく解呪をするのが一番だ。


「ではココア様が『首輪』を外している時に、私が『首輪』におにぎりをぶつけてみればいいのですね?」


 シラユキ君が、戸惑いながらも私の提案に乗ろうとする。

 いや……でもちょっと待って。


「シラユキ君、待って。『首輪』をどうにかしようとした場合も、呪いがかかっている聖女に痛みが与えられるんだよね? おにぎりをぶつけても呪いが解けなかった時、心愛さんが痛がり損ってことになる……よね? おにぎりでちゃんと呪いが解ける確証がほしいなぁ」

「そう、ですね」

「シラユキ君は、なにか心当たりがある?」

「今のところは……ないですね」


 私とシラユキ君は顔を見合わせ、互いに肩を落としてしまう。これは、どうしたものかな。


「これから行くガルフィの街が、『首輪』を作った魔道士の出生の地だったはずだよ。子孫が生きていれば、なんらかの資料が残っていたりするかもしれないね」


 ランフォスさんから告げられた言葉に、私とシラユキ君は目を丸くした。


「ランフォスさん、そうなんですか?」

「うん。俺はそんなふうに聞いてる」

「『首輪』に関係することは、王家に近い者たちの秘匿事項のはずですけれど。ランフォスがどうして、『首輪』を作った魔道士に関する情報を知っているのです?」


 キールが眉間に深い皺を寄せながら、そんな指摘をする。

 そっか。聖女様を『首輪』で縛っているなんて、民衆に知られたら……。きっと、反乱に繋がるもんね。王家に近い人々の間だけの、秘匿事項にせざるを得ないはずだ。


「たまたまだよ! たまたま!」


 ランフォスさんは慌てて言うと、ぶんぶんと首を振る。

 ――ランフォスさんってもしかしなくても。王家に関係する家の人なんだろうか。

 キールが懐疑の目をランフォスさんに向け、ランフォスさんはわざとらしい口笛を吹きながら鍋に向き直る。

 ワーテルもランフォスさんのことをなにか知ってるみたいな素振りだったし。

 ……彼って、何者なんだろう。

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