9話 クロッカの兄。
9話 クロッカの兄。
帝都に戻ったクロッカを、
兄――『レイギン・ロプティアス・パルカ』が待っていた。
「やあ、クロッカ。おかえり」
柔和な顔で、
物腰柔らかで、
華奢な感じで、
――しかし、目は全く笑っていない、いつものパルカ。
歳は19で、クロッカより7つ上。
ただし、存在値は、クロッカよりも低い120。
ちなみにクロッカの存在値は150。
「また、お得意のワガママを暴走させているみたいだね。――ダメだよ」
子供を軽く咎める口調――しかし、目はキレていた。
その奥が黒く光っている目は、クロッカに、
『調子にのるな』と告げていた。
しかし、クロッカは、いっさいひるむことなく、
「お兄様」
「なんだ、クロッカ」
「頭が高い」
「……」
「あと、私の名を口にする時は、『様』をつけなさい」
その攻めた発言を受けて、
パルカは、
「……ふふ、ははは」
心底おかしそうに笑って、
「まったく、クロッカは、ダメな子だなぁ。もう12になるというのに、いまだ摂理とか秩序とか、その手の概念が、まるで理解できない『おバカなお子様』のままなのだから」
やれやれと言った感じで首を振ってから、
「お父様も怒っているよ。最近、少し『おいた』が過ぎるってね」
「なぜ、この私が『お父様の感情ごとき』を慮らなければいけないの?」
「……ふふ……」
スっと一段階……『パルカの笑顔』の『黒さ』が増した。
数秒のにらみ合い。
パルカは『射貫くような視線』で釘を刺してくるが、
クロッカは『あえての微笑』で糠対応。
五秒の無言が経過した時、
パルカは、
「まあ、いいや」
パっと、表情から黒さを消して、
飄々としたつかみどころのない態度で、
「で? そっちの小汚いのが『噂の魔人』かい?」
「ええ。名前は――」
「どうでもいいよ。ゴミに名前など必要ない」
「名前を覚えるのが苦手なだけでしょう? お兄様は貴族の自覚が足りなくて困るわ。社交界で、いつも、『君は誰だっけ?』『君、名前、なんだっけ?』とアホウのように繰り返して。先日のパーティでは、子供のころから何度もあっている侯爵家の令嬢にまで名前を尋ねて――」
「僕らは貴族ではないよ。無能な貴族を支配してあげている天上の神だ。わざわざ下々の者の名前を憶えてやってご機嫌を取る必要などない」
ちなみに、実は忘れているわけではない。
龍神族のスペックはケタが違う。
名前を覚えるくらいワケないこと。
ただ、「君程度の名前など憶えていないよ」という形でマウントを取りにいっているのと、自分で言っていたように「自分は貴族とは違う。その数段上にいる存在だ」というプライドによるもの。
「いやぁ、しかし……ひどいね」
そこで、パルカは、
センを徹底的に見下して、
「異次元砲を使いこなし、カソルンを倒した異端と聞いていたのだが……『これ』にそんなことができるとは思えないな」
パルカは、貴族に対してはマウントをとっていくスタイルだが、
『十七眷属』に対しては一定以上の敬意を払っている。
『十七眷属』は龍神族の『剣』であり『盾』。
自分の装備品から『意味なくヘイトを集める』のはただのバカ。
パルカは『威張り散らしたがっているだけのバカ』ではない。
『自分は天上人である』という明確な自覚があるだけ。
「おそらく、二つか三つ……『強大なアリア・ギアス』で自分を縛っているって感じかな。くく……」
心底バカにしたような目で、
「寿命の圧縮……五感の複数消失……感情の欠落……そんなところかい?」
ゴミを見る目でそう問いかけてきたパルカ。
センは、
(そういう『重り』を全部排除して『いつ、誰が、どんな手段』を用いてきても『どうにかできるよう』に、時間をかけて丁寧に『積んできた』んだが……お前ごときには、わからねぇだろうなぁ、俺の、その高み)
心の中でそうつぶやくだけにとどめ、
黙ったまま、パルカの目をジっと見つめる。
二秒が経過した時、
パルカは、センの目を見つめたまま、
「クロッカ。コレはコミュニケーションが取れないたぐいのゴミかい?」




