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「カラフィアート様、いい加減素直になってください」
ルドヴィークの申し出を断り一段落するのも束の間、再びエミーリアがすごい剣幕で現れる。
「エミーリア様、私の事は放っておいていただけますか? 」
「そんなのできません。友人が困っているのに見過ごすなんて……カラフィアート様も本当はベルナルト様の事慕っているんですよね? いい加減意地を張るのは止めてください」
「私がいつリンドフスキー令息を慕っていると言いましたか? 」
「口に出しては言っていませんが、私には分かります。カラフィアート様が私に嫌がらせするのはルドヴィーク様の婚約者の座を狙っているのではなく、私がベルナルト様と仲がいいからですよね? 全ては誤解です。私は彼の相談に乗っていただけで、カラフィアート様が考えるような関係ではありません」
エミーリアは場所も弁えず大声で発言するので、注目を浴びてしまっている。
「エミーリア様、私は何度も言いますがリンドフスキー令息とは一切関係はなく特別な感情もありません。否定しているのに、周囲にまで誤解を与えるような発言はおやめください」
「カラフィアート様っ。私への嫌がらせは怒っていませんから、どうかベルナルトへの気持ちだけは嘘を吐かないでください」
「エミーリア様、いい加減にしてください。誰に何を聞いたのかは知りませんが、私はリンドフスキー令息を慕ってはいません。それに、貴方への嫌がらせも私は一切関与しておりません。人違いです」
私が断言しているのにエミーリアも何故か引かない。
その事に周囲は、どちらが正しいのか判断出来かねないでいる。
「エミーリアッ」
「ベルナルト様っ」
ベルナルトは慌てた様子で駆けてくる。
「何をしている? 」
「私、カラフィアート様とベルナルト様には仲直りしてほしいの。二人はすれ違っているだけなの。ベルナルト様もカラフィアート様との関係を改善したいでしょ? 」
どれだけ断ってもエミーリアは自身の思い込みを曲げることはなく、私だけでなくベルナルトにも強要し始める始末。
「エミーリア、それは……」
彼はエミーリアの言葉に触発されたのか、私に向き直る。
「カラフィアート令嬢、俺と少し話をしませんか? 」
勘弁してほしい。
彼女を止めるべき人間が逆に説得されてどうする……
「お断りいたします。リンドフスキー令息の友人関係に私を巻き込まないでください。私は貴方様と関わるつもりはありませんので」
「カラフィアート様っ、いい加減素直になってください」
ベルナルトよりも先にエミーリアが反論する事に疲れを感じ始める。
「エミーリア様……貴方が何故そのように思うのか私には分かりませんが、私は正直に申しております。いくら言われようと、私が気持ちを変えることはありません。これ以上私に関わらないでいただけますか? 」
「本当にいいんですか? 私が協力しないと二人は婚約出来ないんですよっ」
何故彼女は自身が私達の婚約を握っていると宣言できるのだろうか?
「私とリンドフスキー令息との婚約の話はありませんし、お話を頂いたとしてもお断りさせていただきます」
「どうしてそんなに頑ななんですか? そんなんじゃベルナルト様に愛想尽かされますよ」
「私は令息に嫌われておりますから」
「……ぅ……」
「ベルナルト様がそう口にしたんですか? それだとしても、彼の本心ではありません。分かるでしょっ」
私には分からないし、何故彼の気持ちをエミーリアが分かるのだろう?
彼女の言葉には疑問しかない。
「その人が何を考えているかなんて私には分かりません。貴方も分かったつもりで間違っていると思いますよ。現に私はリンドフスキー令息との関係に不満などありませんから。今後も一切関わらない関係でいたいと思っております」
「……カラフィ……ト……」
「カラフィアート様、意地を張り続ける姿は可愛くないですよ」
「貴方には何を言っても伝わらないようですね。私はこれで失礼させていただきます。ごきげんよう」
「……カラフィ……ト……カラフィアート……待ってくれ……」
先程から一人ブツブツ言っていたベルナルトが漸く人に分かる言葉を発する。
「私は貴方達と関わるつもりはありませんので、貴方も私の事など放っておいて頂けませんか? 」
「……少しでいいんだ。俺の話を聞いてほしい……最後に……」
「……最後ですよ? 」
今回を我慢すれば二人から解放されるのであれば、我慢できる。
「あぁ」
「どうぞ」
「俺は……令嬢との関係を最初からやり直せたらと思っている……どうだろうか? 」
「……貴方の話は聞きました。もう、行っても宜しいですか? 」
「「えっ」」
「それでは失礼します」
「待ってくれ、カラフィアート……俺達やり直せないのか? 」
私達の関係の何をやり直したいのかいまいちよく分からないが、私の気持ちは変わらない。
「お断りさせていただきます」




