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「大丈夫か? 」
私が周囲を確認した時にはルドヴィークの姿は無かった。
エミーリアが令嬢達に囲まれていると聞き駆け付けたのだろう。
「……はぃ」
「カラフィアート侯爵令嬢だったね。残念だよ、君も身分差別主義だったとは」
「それはどういう意味でしょうか? 」
「エミーリアが『平民』だからと色々言ってくる貴族が沢山いると聞いていた。まさかそこに令嬢もいたとはね……」
「私は今日初めてエミーリア様と会話致しました。それに彼女が平民で王子と親しい間柄でも私には関係ありません」
「私の婚約者と触れ回っているそうだが? 」
「それは周囲が勝手に噂していただけで、私の口から話した事はありません」
「そうなのか? 令嬢達は君の為にエミーリアを呼び出しては忠告してきたと聞いているが」
「私があの方達に頼んだ事など一つもありません」
私がいくら『令嬢達とは関係ない』と言っても、ルドヴィークは聞く耳を持たない。
どうしたものかと視線を彷徨わせると、エミーリアと視線が合った。
「ルドヴィーク様。私に忠告してきた方は、カラフィアート様を思って行動していただけでカラフィアート様の指示だとは一言も……」
私の助けに気が付きエミーリアが口にする。
「そうか……」
エミーリアの言葉でルドヴィークの態度が緩和したが、彼女と私では対応の差を感じる。
潤んだ瞳で見上げれば、原因が目の前の私だと思うのは当然か……
「ルドヴィークッ」
「ベルナルト、どうした? 」
ベルナルト……
現れた人物をゆっくりと確認する。
「いや、急にいなくなった……から……オフェリア……カラフィアート……」
私の記憶にある彼と比べると身長が伸び男らしくなったが、あの時の面影がある。
主要人物も増えたのでこの場に相応しくない私は一人、何も告げずに去って行く事にした。
「待って、カラフィアート様っ」
誰にも気づかれずに去ろうとする私の計画は、駆けてくるエミーリアによって失敗に終わる。
彼女の後方から二人の男性もこちらに向かってくる。
「……なんでしょう? 」
「誤解してしまい、すみませんでした。私てっきり……あの方達の言葉通り、カラフィアート様のお怒りを買ってしまったのだと……」
あのように忠告を受ければ信じてしまっても仕方がないこと。
「いえ、謝罪はいりません。私も以前あの方とは別の令嬢に、エミーリア様について尋ねられた事がありました。その際『指摘箇所があるようでしたら、私ではなく直接ご本人にお伝えした方が良いです』と伝えてしまいました。その言葉が回りまわって、今回のようになってしまったのかもしれません」
「では、カラフィアート令嬢の言葉が発端だと? 」
到着したルドヴィークに再び目の敵にされた。
「そうかもしれません。エミーリア様、申し訳ありませんでした」
「それはカラフィアート様の責任ではないと思います」
「あぁ。俺もカラフィアート令嬢に責任があるとは思えない」
エミーリアだけでなく、あの男も私を擁護するとは思わなかった。
「そうか……」
二人の意見で仕方なく納得した様子を見せるも、ルドヴィークは私を悪者にしたいようだ。
「私としては王子の交友関係にも学園の方針にも異議などありませんので。それでは」
「あっ待ってください」
いち早くこの場を去りたいのに、何度も引き止められる。
「まだ、何か? 」
「あの……私、学園に不慣れで気を付けているんですが、先程のように注意を何度も受けてしまうんです。何が悪いのか分からず、誰に聞けばいいのかも……それで、もしよろしければカラフィアート様に教えて頂けたらと思いまして……迷惑でしょうか? 」
お願いするとき首を傾げるのは彼女の癖だろうか?
個人の好みだが、私はそのような女性は好きではない。
「お断りさせていただきます。私は人づきあいが苦手なので」
「そうですか……」
分かりやすく落ち込まれても、私は彼女と友人になるつもりは一切ない。
ここで彼女と友人になれば、忠告していた令嬢達の視線が面倒なのは確かだ。
「人付き合いが苦手ならエミーリアに練習してもらえばいいんじゃないのか? 」
私はそんな事を一切求めていない。
この男の提案は私への嫌がらせなのか、純粋な提案なのかわからない。
はっきり言ってしまうと、彼女と共に行動する事で彼との接点も増える事を望まない。
ルドヴィークとエミーリア、そしてベルナルトは良く三人でいることが多い。
「結構です。エミーリア様にもご迷惑でしょうし、私も必要としておりません」
私がはっきりと断るとベルナルトの表情が曇る。
彼からすると嫌いな私に対しても提案をしたのに、断った事が相当不快だった様子。
私が嫌いなら、無理に会話しようとしなくていいのに思う。
彼の行動は私には理解できない。




