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〈エミーリア〉
今は卒業パーティー。
「どうして……どうして……どうして……」
私は知っているのに……
この世界は小説の中だという事を。
私は前世の記憶を持ったまま生まれた。
小説を読み込んだ私には、どこでどう動けばいいのか正解を知っている。
正解を知っている……
「……のに……なんで……」
本来なら私は今、会場の中心でパーティー開始のダンスをしているはずなのに……
ルドヴィークは何処にいるの?
ベルナルトは?
オフェリアは?
どうして私は一人なの?
本来なら私はルドヴィークにエスコートされ、ベルナルトとオフェリアを従え皆に祝福されているはずなのに……
音楽が遠くに聞こえ、呆然とダンスを見つめていた。
その後、どうやって私は帰ったのか覚えていない。
「……何が悪かったの? 」
いくら思い返しても私の行動に間違いはなかった。
あるとしたら……
「オフェリア……あの人は、どうして頑なにベルナルトを拒むの? 小説では『少し勇気出して、本人に直接話したら? もし一人が怖いなら、私も傍にいるわ』と言うだけで良かったのに……私の何がいけなかったの? 」
小説を何度も読んだ私が間違えるわけないのに……
どうして……
「エミー、仕事に行ってくるから家の事お願いね」
いつものように、仕事に行く母を見送る。
父は既に仕事に向かった。
「……はい」
卒業して数日が経っても、誰も私を迎えに来ない。
食事の準備に洗濯に家の裏で育てている野菜の収穫。
家の事をしながら、外を常に気にしていた。
いつ王家の騎士やカラフィアート侯爵の使用人が来るのか分からない。
身なりのいい人や馬車が通るたび私は急いで様子を窺う。
それでも私を訪ねてくる人はいない。
「エミー、お肉屋さんのガランドさんがエミーの事興味あるみたいよ」
浮かれた様子で母が私に報告する。
「私は興味ないわ」
ガランドなんて私より四歳年上で、見た目もはっきり言って好みじゃない。
平民でありながら食べ物に困らないのは有り難いが、あれは運動不足も良いところ。
誰も相手にしないような人とヒロインの私がつり合う訳がない。
「そんなこと言わないで、エミーは勉強も出来るからお役に立てるわって話してしまったのよ」
「そういう事を勝手に決めないで」
「学園に通って勉強したのを生かせる良いお話なのに……」
どこも良い話じゃない。
私は王妃になる人物なのよ。
それが町の肉屋だなんて……ありえない。
「どうして誰も私を迎えに来ないのっ」
私と王子が婚約して王妃になるのが、作者の考えた最高の幸せなのに……
最高の幸せを教えてあげてるのに、どうして皆私の言う通りにしないのよっ。
「このままじゃ本当に平民として生活するようになっちゃう……どうにかしないと……」
材料運びの父、食堂で下処理をする母。
そんな両親では貴族と接点を持つのは難しい。
私のいるべき場所に返り咲くにはまず、貴族と関わりのある場所に出向かなければならない。
学園を卒業したという強みを生かして様々なところに面接に出向いた。
「私をこちらで働かせて頂けませんか? 今年学園を卒業したばかりですが、きっとお役に立てると思います」
宝石店や香水店、ドレス店に靴屋、帽子屋など貴族が訪れそうな場所に面接に向かうも全て断られた。
初めは相手も私の経歴を見て笑顔を見せるのだが、後日何故か断られてしまう。
面接の途中に緊急事態の報告を受け、顔色を悪くし「急遽、人を雇えなくなった」ということもあった。
何かしらのトラブルがあり、そういう事もあるのだろう。
就職が決定してから突然の解雇より、就職する前にその様な店なのだと知ることが出来たのは運が良かった。
だけどいくら面接を受けても断られるので、仕方なく貴族との関りは低いが花屋の面接を受け働けるようになった。
「明日からよろしくお願いします」
働ける場所が決まり少しは安心した。
このまま無職だった時、本当に肉屋と結婚させられてしまうと焦っていた。
ヒロインの私がそんな事になるとは思っていないが、不安はどうしても拭えなかったのは事実。
「花屋……」
貴族にとって花屋は頻繁に訪れるような場所ではないが、贈り物の定番。
数は少なくとも、訪れた貴族を私の魅力で虜にさせてしまえばいい。
そこから王族への繋がりを手に入れる。
町の花屋で働く女の子がヒロインという話も読んだことがある。
私は諦めない。
「私は王妃になる人間。この世界は私の為にあるんだもの」




