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卒業式
「本日は卒業おめでとう」
多くの人達から貰った言葉。
学園での式を終え、一度屋敷に戻り卒業パーティーの準備をする。
「うん、やっぱりこの色にして正解だったわね」
私のドレスは母と共に選んだ。
婚約者のいる者は婚約者が贈るが、私には婚約者がいない。
なのでドレスは私好みの、私の似合う色で進めた。
ドレスの完成を待っていると、身に覚えのないドレスが届いた。
「誰かが私にドレスと宝石の贈り物? これは誰からの贈り物? 」
「ベルナルト・リンドフスキー令息です」
「リンドフスキー令息が私に? 贈る相手を間違えてんじゃないの? 」
エミーリアに続き、彼もまた何を考えているのか読めない。
理解できない贈り物だった。
もしかしたら、平民のエミーリアに贈る物なのかもしれないと思い返品した。
それは過去の事。
私は母と選んだ最高のドレスで会場へ向かい一人入場する。
卒業パーティーに一人で参加する事に恥などはない。
この場だけのエスコートなど私には必要ない。
「カラフィアート様っ」
「……出た……」
もう勘弁してくれ。
「どうして彼が贈ったドレスを着用していないのですか? 」
平民の彼女が勝手に私にドレスを贈りつけたとは考えにくい。
きっと強引な彼女を止められず、仕方なく私にドレスを贈る事になったのだろう。
「……令息からの贈り物を私が頂く理由が無いからです」
「理由って……ベルナルト様は貴方と婚約するんです」
自身がルドヴィークと婚約したいからと、私達を巻き込むのは止めてほしい。
「何度も申しておりますが、私と彼が婚約するという話は一度もありません。貴方の思い込みです」
この三年間で私とベルナルトが婚約するという彼女の妄言は多くの生徒が耳にしている。
何度も彼女が口にするので信じる者もいるが、その都度私が『そのような事実はない』と断言するので彼女の妄信だと相手にしない者がほとんどだ。
「ベルナルト様と婚約する事が貴方の幸せなんです。信じてください」
「私は彼と婚約する気なんてありません。このような場でそのような発言はお控えください」
私の幸せを勝手に決めつけないでほしい。
結婚が幸せなんて、いつの時代……この世界はいつの時代だ?
「私は諦めません。今日が最後のチャンスなんですよ。いい加減カラフィアート様もご自身の感情に正直になりましょう。ベルナルトが初恋なんですよね? 初めてのお茶会で一目ぼれして、庭を案内されて嬉しかったんですよね? だけど彼の言葉で傷つき素直になれなくて、彼の目の前でルドヴィーク様と親密にしたりベルナルト様と親しい私に嫌がらせしたんですよね? 」
ベルナルトは過去の出来事をエミーリアにどのように話しているのだろうか?
彼女の話は事実と嘘がまじりあっている。
出来事に関しては正しいが、私の感情に関しては間違いでしかない。
「エミーリア様。私は貴方に嫌がらせをしたこともなければ、王子と親密になった記憶もありません。どなたかと勘違いされておりませんか? 」
「どうして認めてくださらないんですか? 」
「認めないのは、私ではないからです」
「もうっ、ベルナルト様も今日が最後なんですよ? いいんですか、こんな関係で終わってしまっても」
「俺は……」
「もうっ本当の気持ちを伝える事が出来るのは今日が最後かもしれないんですよ、後悔しますよ……絶対」
「カラフィアート嬢……昔の事は悪かった。俺は貴方に『友人になりたくありません』と言ったのは、貴方の『婚約者』になりたかったからです。あの時、言葉が足らず令嬢を傷付けてしまいました。謝罪するのが遅れてしまい申し訳ない。どうか、俺との婚約を考えてもらえないだろうか? 」
ベルナルトはエミーリアの妄信に洗脳され、公開婚約を申し出た。
侯爵令息の婚約の申し出に周囲は息をひそめ、私の返事を待つ。
「……リンドフスキー令息。あの時の言葉に関しては許します。ですが、婚約についてはお断りさせていただきます」
「そんなっ、どうしてですか? ベルナルトがここまで言ったんだから子供の頃の発言は水に流し、婚約するべきです」
断られたベルナルトより先にエミーリアが反応。
感情が高ぶったのかベルナルトに様を付けるのを忘れている。
「エミーリア様、私は彼の過去については許しました。だからと言って婚約するというのは別の話です」
「カラフィアート様はどうして頑なに彼との婚約を断るんですか? 」
「何度も言いますが、私は彼と婚約したくないからです。貴方はどうして私達に婚約してほしいと願うのですか? 」
「それは……私とルドヴィークが結婚した時、二人には私達を支えてほしいからです」
エミーリアの宣言に周囲は驚愕した。
王子との婚約を宣言すれば当然の反応だし、平民が侯爵令嬢と令息を従えたい宣言は異常としか言えない。
彼女の突拍子もない発言に、会場の時間が止まる。




