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「カラフィアート様っ、もうすぐ卒業なんですよ。本当にいいんですか? このままで」
三年生になってもエミーリアは私を見つけてはベルナルトとの関係に口を挟む。
授業の合間はチャイムに助けられるが、昼休みや放課後は時間の許す限り追い掛け回される。
「エミーリアッ」
「ベルナルト様っ」
「何している? 」
「私はベルナルト様とカラフィアート様の為に……」
「必要ない。もう止めてくれ……カラフィアート、迷惑かけた」
ベルナルトが駆け付け彼女を連れ出すも、彼女はそれでも諦めない。
このような事は今回が初めてではない。
「本当、もういい加減にしてほしい」
彼らと離れても、私達の様子を見ていた人達の視線が絡みつく。
速足でその場を離れる。
「カラフィアート嬢」
「……はい」
「少し時間を貰えないか? 」
「はい」
呼ばれたのは以前も使用した部屋。
「最近もエミーリアが令嬢とベルナルトの関係について迫っているそうだな」
「はい」
「彼女が何故二人の関係に執着するのか私にも分からないのだが、二人の関係は私達の関係にも影響していると頑なになっている」
「アルドロヴァンディ王子と彼女の関係に私達ですか? 」
「あぁ。最近の彼女は『二人が婚約しないと私達は幸せになれないんだ』と躍起になっている。それだけでなく……」
「何ですか? 」
「以前彼女が嫌がらせを受けていると話していただろう? 」
「はい、私ではありません」
「あぁ、分かっている。エミーリアの言葉通り、忠告していた令嬢達と話した。だが、嫌がらせに関しては疑問に思う事が多々あり調査を続行した」
「それで結果は? 」
「……エミーリアの虚言だった」
「虚言……」
「自作自演という事だ」
「自作自演……ですか? 」
「あぁ」
「自作自演をし私に罪を着せ、どうしてそこから私とリンドフスキー令息を婚約させたがるんですか? 」
「もう彼女の考えは分からない」
ルドヴィークは頭を抱える。
本当に彼女の行動が理解できない様子。
私も彼女の行動の真意が読み取れない……
「……もしかして、私と王子の婚約の噂を聞き疑心暗鬼になっているとか? 」
「それで令嬢に良からぬ噂を立て、別の婚約者を勧めているという事か? 」
「その考えがしっくりくるかと……」
「だからか……」
「なんでしょう? 」
「彼女は二人を婚約させれば私達が婚約出来ると……」
「やはり、そういう事ではないでしょうか? 」
「そんな事をするとは……」
王族との縁を欲する貴族が考えそうな作戦だ。
私のところにも婚約を勧める貴族は多くいる。
その彼らにはルドヴィークと年齢の見合った令嬢がいる。
私をルドヴィークの婚約者候補から外し、自身の娘を推したいのが見て取れる。
私としてはルドヴィークとの婚約を望んでいないが、だからと言って他の令息との婚約も望んでいない。
彼らの提案を断る事でさらに私がルドヴィークの婚約者の座を狙っているという誤解が生れている。
「答えたくなければ答えなくていいのですが、王子は彼女との婚約をお考えなのですか? 」
「一度は……考えたこともある。今はその気はない」
「……そうですか」
彼の様子からして、正直に答えてくれたのが分かる。
思い返せば最近のエミーリアは私を追いかけわましているので、ルドヴィークと一緒にいる場面に遭遇する事は無くなっていた。
私だけでなく彼も彼女に悩まされている一人だったりするのかもしれない。
信じていた女性が嫌がらせを自作自演し、他人の婚約に夢中になっているかと思えばそれは自身の婚約の為の計画。
彼女の思考回路を読み解こうとすると、頭が痛くなる。
「……お疲れのようですね」
「あぁ……こんな話をされても迷惑だったな。すまない」
「いえ、私は構いませんが……私ではない他の……令息などは話し相手に選ばなかったのですか? 」
「私に近付く者は裏がありそうでね。ベルナルトは、エミーリアの件で疲弊している」
以前よりもエミーリアが突撃してくる回数は若干減ったと思えるが、その裏で彼が抑えてくれているらしい。
「……もうすぐ卒業ですね」
彼女の事を思い出すと疲れてしまうので、話題を変える事にした。
「あぁ」
ルドヴィークは私に彼女の報告と共に、誰かに感情を吐き出したかったのかもしれない。
入学当初の彼は令嬢達を寄せ付けず、唯一心を許したエミーリアに心酔していた。
そんな彼が今ではエミーリアを遠ざけ、他の令嬢と会話するなんて……




