第9話 ワイバーン
朝ご飯を終え、ワイバーンの話をした後、私たちは森へと入ることにした。
ずっと待っていても仕方がないし、先手を打とうという話に決着したらしい。
ギルド長のすぐ近くに、私とフィオちゃんとレクスがついて歩く。
ばあばは家でお留守番だ。
もしワイバーンが襲ってきたら、ばあばは真っ先に狙われたら困る。
森に少し入ったところに、段差に岩場がある。
その中にひときわ大きい岩があるのだけど、その上は森の上空からもよく見える。
「――ということで岩場に、肉を置いておびき出す」
「さすがです、ギルド長」
「で、いいんだよな、レナちゃん」
「はいっ」
もちろん岩場の報告をしたのは私だし、肉を置いたらと提案したのも私だ。
でも作戦立案はギルド長ということになっている。
子供になんでもやらせていたら、醜聞が悪いですしね。
キノコや薬草を採って歩きたいのを我慢して、上空をチラチラ見ながら進んでいく。
そして岩場の近く、上に登れる緩やかな部分から上側へと登る。
「じゃあ、お肉を」
「はいはい」
なぜか私がマジックバッグの演技をして収納からお肉を出す。
「うむ、いいな、では……」
ギルド長の合図で、岩場から離れて周りの森に潜む。
魔法使いが数人、護衛の槍使いが数人、残りは弓矢を装備して待機だ。
私とフィオちゃんは魔法使いということになっている。
いや、戦力外でただの道案内かな。
さすがに六歳の子供を前面に配置したりはしない。
でも私も火魔法なら得意だ。
フィオちゃんも闇魔法で目くらましや足止めなど、活躍できる。
それからレクスはやる気満々である。
まさに逆襲、リベンジの機会を狙っていた。
ボーパル・バニーは首狩りウサギといい、牙が生えていて鋭い攻撃で首を狙う。
角もあるけれど短めだ。
じっと隠れて、その時を待った。
「お……」
『来たようだな』
『私たちは念話ね』
『レナ様、ご武運を』
『大丈夫、うまくやろう』
灰色のレッサー・ワイバーンが黒い点だったものが徐々に近づいてきていた。
周りのみんなは木の葉の間から、それをそっと覗き見る。
ワイバーンが太陽の真下を通過して、私たちのところが一瞬陰になる。
みんな心配そうに上を見上げた。
中には震えている人もいる。
ワイバーンは旋回し急降下してきて、お肉に接近してくる。
『今です』
私たちが一斉に魔法を放つ。
その間を縫って、矢も飛んでいく。
何本かは外れ、何本かの矢ははじき返された。
ワイバーンといえども亜竜と言われるだけあって、頑丈だった。
火に包まれ、上空で羽ばたいてもがく。
一度、上空へと旋回して、そして戻ってくる。
なるほど、なかなかの執念深さだ。
「シャドウ・バインド」
フィオちゃんの闇魔法が、その足を空中だというのに絡めとってつなぎとめる。
そこを一斉に集中砲火する。
「我、彼ものを炎で焼き尽くせ――ファイア・ストーム」
私の上級魔法だ。
炎の竜巻はワイバーンを包み込み、じわじわと体力を削っていく。
ついに、ワイバーンの体力が限界にきて、地面に落ちる。
崖の下へと落ちたワイバーンに、下側に待機していた槍部隊が囲んで、突き刺していく。
こうして、完全に動きを止めたレッサー・ワイバーンはついに退治されたのだった。
「やった!」
「やったぞ」
「よくやった、諸君」
わああと一斉に歓声が上がる。
体長は数メートルだろうか。かなりの大物だ。
ドラゴンよりははるかに小さいとはいえ、亜竜だ。
すでに解体がはじまっていて、その素材を回収していく。
皮、羽、それからお肉。
「ワイバーン・ステーキにしよっか」
「いいですね、レナ様」
私たちはすでに食べる気でまんまんだ。
全員での解体作業ではなく、何人かは空を見張っていた。
「他の個体は、どうでしょうね」
「まだ、分からんな」
「これで、終わりだと助かるんですけどね」
「さあ、どうだか」
なにやら不安な会話も聞こえる。
ワイバーンは群れる傾向がある。
もし他の個体も、南下しているのだとしたら、もっと危ないことになる。
今のところ、空には見かけないが、油断はならない。
私たちは、一目散に駆け付けて、お肉のいい場所を貰っていく。
けっこうこれでも貢献したと自分でも思うので、これくらいは許してほしい。
「お肉、お肉」
「あはは、子供はそうでないとな」
「むー、みんなだってお肉食べたいくせに」
「そりゃそうだ」
「はははは」
みんなで盛り上がる。
さっそく少し離れたところに焚き火が用意され、ワイバーン肉を串に刺した、ワイバーンの串焼きが行われていた。
いい匂いがしてきて、みんな鼻をひくひくさせた。
「じゃんじゃん焼くからね!」
私たちもその管理に加わり、皆のぶんを焼いていく。
「お嬢さん、お肉くれ」
「はいどうぞ」
「ありがとう、うまっ、おいし!」
「うまい!」
みんながワイバーンの一等肉をもぐもぐと食べている。
私たちも、お肉をいただく。
今まで食べたことがないような、旨味があり、しっかりした歯ごたえがある。
やや硬めではあるが、そのしっかりした食べ応えがなんともいえない。
塩胡椒を振って、味付けをしてあって、その素朴な味が、たまらない。
最高級焼き鳥みたいな味だった。
「おいち!」
「美味しいです!」
「ぴぎゅうう」
レクスが「美味しい!」と鳴き声を上げた。
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このまま、村のプチ祭りへと続きます。




