第26話 キノコ
王都からエステーナ山に行くには、途中フレミスによって、その先を東に進む。
その東側が問題で、未開拓の森林地帯だった。
フレミスまでは順調な旅だ。
街道も整備されていてほとんど揺れしないし。
一度、町に一泊して英気を養う。
私とフィオちゃんはメレーナ商会の本店に泊まった。
フィオちゃんのママ様にも会ったよ。
「フィオお帰り」
「ママ……」
幌馬車は全部で三台。
人員としては十二人かな。
実は馬車が一台故障して放置しても大丈夫なように余裕があるんだって。
場合によっては山賊とかを捕まえることもあるし。
その幌馬車は騎士団の紋章、剣と盾のマークが横に入っている。
けっこう立派だけど、乗り心地はメレーナ商会の馬車のほうがよかった気がする。
そうしてあとは開拓村がある東側へと向かう。
馬車で森の中へと入っていき、村へと到着した。
「馬車はここまでだ」
ここから先は道がないんだって。
上級冒険者も用があるときは、このようないくつかある村に馬車を置いていく。
全員が荷物を持って出発。
私たちは自分の収納があるから、手荷物はないけどね。
それに重量軽減どころか、これは重さを全く感じない異空間収納だった。
「それじゃあ、いくぞ」
「「「おおおお」」」
相変わらず騎士団の人たちはやる気だけはある。
そうして森の中を歩いていく。
「あ、また薬草」
私は道々、薬草を拾って歩く。
それから今、ちょっとミニ梅雨みたいな時期で、たまに雨も降る。
ただ日本と違って、夜のうちに降って昼間は晴れていることが多い。
「キノコちゃん!」
「なんですか?」
「ムラサキシメジだね」
「へぇ」
食べられるキノコだ。
明日の朝の麦粥に入れよう。
きっといい出汁が出る。
こうやっていくつも生えているキノコを採って歩く。
もちろん知らないキノコは放置だ。
特に茶色い特徴のないキノコ。
これらは種類が不明なので、もちろん可食不明だ。
知らないキノコは採っちゃダメ、これが基本。
知ってるキノコだけ採るんだよ。
私は見分けられるキノコだけでけっこうあって、食べられるのも何種類か知っている。
ばあばに仕込まれたからね。
この辺は、まだ植生がラーミ村に近いから助かる。
鑑定魔法とかあれば便利なんだけどね。
「またキノコですか、レナちゃん」
「はいっ」
「ほどほどにしてくださいよ」
「いひひ」
騎士団の人は若干飽きれ顔だけど、いいんだ。
明日の朝ご飯に入れてびっくりしてもらおう。
「今日から馬車もありませんし、村もないので」
「ですよね」
「食事は携帯食です」
「了解」
そっかー。夜は携帯食か。
簡単にいうと、クッキーだね。クッキー。
甘くない、あんまり美味しくないクッキー。
なんでこんなもの食べなければならないのか。
ブーブー。
ただ、実をいうとこういう体験もしてみたかったので、一度くらいは我慢して食べるよ。
今度からもう自重しないけどね。
「あー不味い」
「ですよね」
「にひひ、これはこれで楽しい」
「へんなレナ様」
まあ、私の趣味は理解できるまい。
レーションとか聞いたら、ときめいちゃうよね。
あの小説に出てくるレーションとかいう不明な食べ物。
いろいろな小説読んでるとたまに出てくるんだよ。
適当にみんなテントを設営して寝る。
私たちも、実家から持ってきたテントをまだ使っている。
「おやすみ、フィオちゃん。レクス」
「おやすみなさいませ、レナ様、レクス」
「ぴぎゃう」
さてさて、おねんねしますかね。
こうして翌朝。
さて、もうレーションはいらない。
「麦粥~るんるんるん~麦粥~」
楽しく歌を歌いながら鍋を混ぜる。
全部で十四人分だからね。
大鍋で麦を水から煮ていく。
そこに複数のキノコを刻んで入れて、干し肉を投入。
それから魚醤もちょっと入れよ。
最後にハーブを入れてひと煮立ちさせて完成。
「はーい。私特製、むーぎーがーゆー」
「おおお」
「いい匂いだな」
「なんだ、食っていいのか?」
「いいですよ。みんなで分けて食べましょ」
お皿によそってみんなで分ける。
「うまうま」
「美味しい」
「うまいぞ、これ」
麦粥されど麦粥。
ハーブ入れたり魚醤いれたりしたからね。
美味しいよね。
この世界のシンプルな麦粥だけだと、味がいまいちだよね。
それがいいって人もいるんだろうけど。
私は圧倒的にハーブ入りが好き。
「おかわり!」
「おかわりは一回だけね!」
「はーい」
こうして騎士の人たちと交流していく。
最初はみんな硬い顔をして、任務ですっていって怖かったんだよ。
でもだいぶ打ち解けてきたよね。
隊長は、バンズ・リーダント子爵。
そそ、貴族さんなんだ。
それで副隊長はガント・バッサリア男爵。
隊長、副隊長は貴族って伝統というか決まりがあるんだって。
あとはみんな平民出で騎士爵だね。騎士様だから。
騎士ってこの世界では貴族じゃないんだ。
王様や領主様に忠誠を誓い、認められた人なんだよ。
命を懸けて戦いますってね。
それから騎士のみんなは揃いの鎧。いわゆるハードアーマーを着ている。
けっこう重そう。
それでワイバーンと戦おうっていうんだから、勇気があるよ。
一応、全員が簡単な身体強化くらいはできるらしい。
じゃなきゃこんなの着て動けないよね。
向こうは空飛んでるんだよ。
私のは部分鎧のドレスアーマーだよ。
そんなこんなで、キノコ料理を振舞って森の中を進んでいく。




