第21話 王宮の森
カレーの件を先に片付けよう。
ということで、国王陛下向けにカレー鍋を一杯、それから取り分けてフレミス伯爵の息子さん夫婦へ、それぞれ配達をしてもらう予定。
さすがに王家にまで直接会ってカレーを振舞わなくてもいいみたい。
助かったぁ。
「ということで、コトコト煮込んじゃう」
「おう! カレー大好き!」
「フィオちゃん、どんどんやろう!」
「えいえい、おー」
「おー」
二人でメレーナ商会の王都支店でカレーを作る。
ついでにお店のスタッフの分も作る。
これでワイバーン肉の一等部位は終わりだ。
「ワイバーン肉のカレーです」
「「おおおお」」
「みんなで食べてくださいね」
「やったぁ」
「ありがとう、レナちゃん、フィオちゃん」
こうしてメレーナ商会での試食をした後、国王陛下とフレミス伯爵の分を持って行ってもらう。
あとは無事につくのを祈るだけだ。
翌日。無事にカレーは到着したようで、ご褒美も貰った。
先に欲しいものはおねだりしてあったのだ。
それは王宮の裏の森への立ち入り調査と採った薬草の販売の権利。
薬草にちょろっと詳しい私レナちゃんは、王宮の森へと行くことに決めたのです。
「えへへ、森への立ち入り許可だぁ」
「よかったですね」
「はいっ」
さっそく私たちは王宮の森へと三人でやってきた。
王宮のお堀の橋を渡って、中へと進む。
横のほうから通してもらって、奥のほうへと向かった。
お城から離れて、森へと到着した。
「ここだ!」
「やりましたね!」
うーん。薬草があちこちに生えている。
よくみる薬草も多いけれど、たまにレア薬草もぽつぽつあるのだ。
この前、レア薬草をメレーナ商会に売って、ちょっとばかし儲けが出たので、欲が出たのだ。
王宮の森へくれば、きっと色々あると思っていたんだ。
えへへ、当たり。大当たり。
普段、あまり人が入らないだけあって、レア薬草のオンパレードやぁ。
「ぐふふふ」
「うれしいですね」
「にゃあああ、やったーーー」
とまあ、森の中ではしゃいじゃった。
ここは、変な魔物は住んでいないからね。
ホーン・ラビットやアナグマ、スライムなどのどこにでもいる種類はここにもいる。
あと、妖精さんの気配がするね!
もうちょっと奥にいけば、いそう。
そうやって進むことしばらく。
「泉だ。妖精の泉だね! 妖精さん、妖精さん、いらっしゃいますか」
『はぁ~い。呼ばれて、飛び出て、妖精さんで~す』
「おお、本当に出てきた!」
「あはは、私たちも、楽しいことは好きだからねぇ。こんな子供がいたら、黙っていられないよ」
「うれしいです」
「美味しそうな、魔力。ちょっとちょうだい」
「いいですよ」
妖精さんが私に近づいてきて、魔力を吸い上げる。
う、思ったよりいっぱい吸うぞ。
さすが妖精さんだ。
「う、けっこう吸われた」
「いやぁ、久しぶりだったもので、つい」
「なるほど。人間はあまりこないですか?」
「そうだね。王家の人もあまり遊びに来てくれないし。私、王家の契約精霊なのに」
「そうなんですね」
水色の髪の毛、水色の目、服だ。
ということは水属性の精霊さんだろう。
大きさは二十センチくらい。
人型になれる妖精は、ほぼ精霊と言ってもいい。
かなりの高位妖精のはずだ。
私たちと遊んでくれているけれど、序列てきには相当、上の方だ。
まあ、私たちはまだ六歳だもんね。
そういうのよく分からないし。
ちょっと冷や汗を出しつつ、対応に当たる。
下手すると、消し炭にされてもおかしくはない。
それくらい力の強い妖精さんなのだ。
たぶん、そんなことしない優しい子なのだろうけど。
「この都市の地下水路が実は近年汚染されておってな」
「は、はい」
「その浄化をお願いしたいのじゃ」
「わ、私ですか?」
「灰色の髪。聖女の力、出せるのであろう」
「はい」
さすが古い世代の妖精さん。私の髪のこともよくご存じで。
「私はひとりではここを離れられないが」
「が?」
「そなたらと仮契約すれば一緒に行動できる」
「仮契約ですか?」
「いいじゃろ、美味しい魔力だったし」
「かまいませんけど」
「んじゃ、契約じゃ」
ということで魔法陣が展開されて、なんやかんや発光したと思ったら契約が終わっていた。
「では、地下水路へと行ってほしい」
「はい」
まあ、薬草もけっこう採れたし、調査も終わったので、大丈夫だろう。
町へと戻って、水路の出口から逆方向に地下水路へと入っていく。
なんだか嫌な臭いもするし、けっこう臭い。
「うげえ」
「ここは、ちょっと」
二人して鼻をつまむ。
これはひどい。
なんだか瘴気の臭いまでしてくる。
さすがに、これは不味そうだ。
レンガ造りの地下構造物の中を進んでいく。
ネズミ型モンスターやスライムなどがいっぱいいるけど、妖精さんも一緒にいるからか、ほとんど無視されている。
そうして奥まったところ、紫色の瘴気の塊がべっちょりと溜まっていた。
「ここでしょうか」
「そうじゃな」
「やっちゃいますね」
「頼んだ」
「我、聖なる力、集まりて、清浄なる力示したまえ、セイクリッド・サークル」
私の髪がピンク色に光り、まわりにピンクの粒子が飛び回る。
そのピンクの光が紫色の瘴気を取り囲み、浸食していく。
「くっ、もうちょっと」
「頑張るんじゃ、力を貸そう」
水属性には水の浄化の力がある。
聖属性と水属性のそれが合わさり、力が増していく。
「うおおおおおおお」
そうして、浄化に成功したのだった。
「はぁはぁ、終わりました」
「よくやった。誉めてつかわす」
「ありがとうございます」
「本来は、王家の仕事なんじゃがな。国王には私から叱っておこう」
「は、はい。よろしくお願いします」
「あはは、よし、なにごとも、終わりよければ、これでよし」
私たちも、調査ができて薬草もたっぷりたまって、妖精さんと縁を結んで。
はい、一件落着です。




