第2話 道中
村から隣の町へ、移動には歩いて三日ほどだ。
「るんらった、るんるん」
「きゅぴぴ」
私が歌いながら歩くとバニーのレクスも変な鳴き声で応じてくれる。
道沿いで薬草があると拾っていく。
「マーリア草だ、ラッキー」
根本でナイフで切断して上だけ持ち帰る。
「収納!」
そう、私の魔法。
基本四属性にない、無限収納が使えるのだ。
魔力消費はとても少なく入れたぶんに比例する。
家にあった道具やベッド、姿見などもみんな収納してきた。
だから私たちの家はもぬけの殻になっていた。
もぬけ、とは?
などと考えつつ先を急ぐ。
水もたくさん入れてあるし、最近溜めていたお肉、畑の野菜もみんな収穫して持ってきてある。
私、偉い。旅上手!
「お腹空いてきたし、ここでお昼にしようか」
「きゅぴぴ」
麦粥にその辺のハーブ、大根の塩漬け、干し肉を入れてひと煮立ちさせると、はい出来上がり。
「いただきます」
「きゅぴぴいー」
「おいち!」
レクスは言葉も喋れるからか、けっこうなグルメで何でも食べる。
最悪、草だけでもいいので非常に助かる。
でも料理もけっこう好きみたいで私と一緒のものを食べることが多い。
素朴な麦の味に塩辛い大根とワンポイントの干し肉の旨味が食欲をそそる。
ハーブの香りが広がってとてもいい匂いだ。
お腹もいっぱい!
軽く水を収納から出して鍋とお椀とスプーンを洗い、再び収納しておく。
途中、隣り村からの道と合流した。
Yの字になっているので、方向を看板で確認して進む。
隣り村の先は未開の地である。
道を間違えたら一巻の終わりだ。
田舎のほうが得てして魔物も強い。
倒せないわけではないが経験があまりない。
「看板、よーし!」
「ぴきゅ!」
二人で指差し確認だ。
またしばらく薬草を採りつつ進むと休憩所の広場があった。
延々広がる林の一本道に開けたところがある。
「今日はここで休憩」
夜ご飯は何にしようかな。
小麦の薄パンとウルフ肉の焼肉にしよ。
ウルフ肉は村の猟師とポーションを対価に交換したものだった。
猟師は何かと怪我をすることが多いのでお互い様である。
そうと決まれば、収納から魔導コンロを取り出して小麦粉を適量の水と練ってフライパンで焼いていく。
それが終わったら、ウルフ肉とレタスを特製ダレで絡めながら焼いていく。
「おじょうちゃん、美味しそうだねえ」
私がパンを焼きはじめたころに到着した商人さんが私の魔導コンロを覗いてくる。
「明日は馬車に乗せてあげるから、どうだい一つ」
「いいですよ」
「ありがとう」
そうくると思って多めに作っておいた。
どうせ余ったら収納してもいいしね。
「はいどうぞ」
「お、おう、うまい!」
「えへへ」
薄焼きパンに濃い味付けのウルフ肉とレタスを挟んで食べる。
美味しい!!
何個でも食べられそうだけど、太ったら大変だ。
二つもぐもぐして、私は終わり。
商人さんは三つもペロリんちょ。
「本当に美味しいな、素晴らしい才能だ」
「どういたしまして」
なんだかもっと食べたそうにしていたけど、無視して今日はもう寝てしまおう。
気配はレクスが察知してくれるので、私は安心して寝る。
まさか、こんなところで商人さんが襲ってくるとも思えないし、魔物は運だけどまぁ、大丈夫。
家から持ち出した簡易テントを設営して中でレクスと丸くなる。
「おやすみなさい」
「きゅぴぴ」
翌朝。
この世界では朝はスープ系が多い。
麦粥も濃いスープという位置づけだ。
商人のおじさんは朝夕の二食で昼は食べずに移動するんだって。
もちろん、途中、おトイレとかの小休止はするんだけども。
ということで、朝は麦粥にした。
「うまい、うまい」
普通の塩味の麦粥だと思うけど、おじさんは遠慮せずお代わりまで食べていた。
まぁ美味しいと言ってくれるぶんには悪い気はしない。
ハーブの香りがいいんだよね。
本当の貧乏食は塩だけでハーブも干し肉さえ入れないという話を聞いて、感心する。
一応、私は転生者だけあって、美味しいものを食べたい欲求が高いのかもしれない。
テントを片付けて、一頭引きの簡易馬車にお邪魔する。
これでも商人のおじさんはマジックバッグ持ちで、塩と小麦に加えて雑貨を売り歩く人なのだそうだ。
一人で旅ができる程度には戦闘にも自信があるんでしょう。
私は御者台の横にちょこんと座り、話を色々聞いた。
特に村の外の地理については何回も確認して、頭に入れていく。
情報は生命線だ。
スマホで検索できない以上、誰かに聞くか、それとも書物か。
文字は読める。というか表音文字なので、なんとなくは分かる。
ほとんどアルファベットだった。
数字もまんま数字。
これは神のお告げなのかもしれない。
商人のおじさんのメモ帳に描かれた地図も見せてもらう。
まず、ここはハーベスト大陸。
国はベルクーリ王国。フミレス伯爵領のシーラル森林という一帯だ。
ラーミ村から出て歩いて三日の距離のマクネス町というところへ向かっている。
お昼はなし、ということだったけど、育ち盛りの私はお腹がすいた。
駄々をこねるわけにはいかないので、収納からサンドイッチを出して食べた。
もちろん、レクスとおじさんのぶんも分ける。
そうしてこうしておじさんの馬車に揺られながら、夕方には隣町、マクネスに到着した。




