第14話 フレミスに行こう
バーナル男爵にカレーを食べさせて、いち段落したころ。
「レナ様、私はパパと一緒にフレミスに戻る予定です。もしよかったら、フレミスまで一緒に行きませんか?」
絞り出すように様子を窺うフィオちゃんが、私に問うてきた。
「いいよ! 行こう」
「そんな、簡単に決めていいんですか」
「うん。行きたいとは思ってたんだよね。フレミス」
ということでフレミスへ出発だ。
先に冒険者ギルドへ顔を出しておく。
案の定、フレミス伯爵へお手紙を預かって、今回のレッサー・ワイバーンの親書を預かった。
「ついでにカレーを食べさせてやってくれ」
「は、はい」
「まあ、適当でいいから」
「適当でいいんですか?」
「どうせ、失敗しないだろ」
「カレーくらいなら、なんとか」
ということでギルド長からフレミス伯爵へと伝手をいただいた。
「出発しますよ!」
「パパさん、よろしくお願いします」
「はい、レナ様、よろしくお願いします」
「もう、パパ様までレナ様なんて」
「娘が、いつもレナ様、レナ様っていうもんだから、ついね」
立派な長距離用の幌馬車の荷台に乗り込んで、出発だ。
フィオちゃんとレクスと一緒に荷物の間に座る。
「さらば、マクネス町」
門を通り草原を抜けると、またシーラル森だ。
草原なのはマクネス町の周りだけだった。
馬車がトコトコ進んでいく。
途中で休憩をしたので、サンドイッチを出してみんなをねぎらう。
「このサンドイッチ、美味しい」
「だよなぁ」
パパ様にも人気で、にっこりだ。
森の中の道をひたすら進んでいく。
夕方、馬車を休憩所で停める。
「こんばんは、ワイバーンの肉串ね!」
「やった!」
「いいぞ!」
私は報酬の一部をワイバーン肉の現物支給で受け取っていた。
他のお肉を保存しておくのが無理な人は後で金貨払いになっている。
もちろんギルドの人たちで食べた分はギルド共有資産から出してもらっている。
だからお肉がいっぱいある。
ワイバーンの一等肉を再び串に刺して、火の回りに並べる。
「おおお、いい匂い」
「こりゃたまらんな」
商会の人たちもよだれを垂らすほどだったらしい。
いひひひ、お肉おいち!
そうして翌日、またいくぶんか進んだ峠道。
「おらおらおらおらおらああ」
ヒヒーン。
馬車が停まる。
おお、山賊だ。
でも大丈夫。私たちはただの小娘ではない。
馬車の前側が囲まれているが、大したことではない。
「シャドウ・バインド」
黒髪のフィオちゃんの闇魔法だ。
ちょいちょいとご活躍の、影拘束スキルだった。
「ファイア・ストーム」
私が目の前で、炎の竜巻を見せてやると、さすがの山賊たちも腰を抜かした。
「こ、これは勝てねえぇ」
「降参! 降参だ!」
五人ばかりいる全員が尻もちをついて、ヘタっている。
全員を縄で縛って、後ろに乗せる。
荷物は私の収納で減らしておいた。
そうしてまた晩ご飯になった。
今日はワイバーン肉のハラミのソース焼きそばだ。
鉄板にお肉をスライスしたものと麺を広げる。
それをソースで絡めて、はい完成。
「めっちゃいい匂いするぞ」
「なんだこれ、食べたことがない」
山賊たちも興味津々だ。
みんなに食べさせてあげたら、涙を流してよろこんでいた。
「う、ううう、かあちゃああんん」
「うめええ」
終始こんな感じ。
彼らは、途中にある騎士団の詰め所で引き取られていった。
道の途中に砦があるのだ。
森が終わりを迎えて草原に出る。
「ぴぎゅ! ぴぎゅ!」
レクスが鳴き出した。
『ワイバーンだ』
「え、こんなところにも?」
『空で飛んでくれば、ひとっ飛びなのだろう』
本当だ。だいぶ遠いけど右の奥のほうに黒い点が三つ。
『三頭いるみたい』
『まあ、ここまでは飛んでこないだろう』
ワイバーンおそるべし。
ワイバーンはしばしば、渡りといって、住処を変える習性がある。
草原には、さまざまな動物型モンスターもいた。
巨体が点々と見える。
「すごい、おおきい」
「すごいねー」
私とフィオちゃんで見てはしゃいだ。
中には竜車といって、こういう荷車を引かせるのに役に立つ種類もいた。
休憩中。
あれレクスがいない。
「あら、レクスどうしたのそれ」
『捕ってきたぞ』
イタチだろうか。
レクスが咥えて帰ってきた。
「今晩の、お料理に使うね」
『そうしてくれ』
レクスは実は強いのだった。
途中、池の近くも通った。
「すごい、大きな池」
「だねー」
お水が溜まっている。
釣りをしている人はいないみたいだけど、水鳥たちがたくさん泳いでいた。
馬車の上からじっと見ていると、たまに魚もバシャンと跳ねる。
そんなとき、ひときわ水しぶきが上がったと思ったら、巨大魚が水鳥をひと飲みするところだった。
「うわあ、ひと飲みだった、まるごと」
「鳥さん食べられちゃったね」
「すごいね。弱肉強食だ」
「レナ様、難しい言葉知ってる!」
「まあね、えへへ」
こうして数日の旅を終えた私たちはついに領都フミレスに到着したのだった。
「すごい、城塞都市だ」
「石組みがすごいよね」
「うんうん!」
岩でずらっと一周町全体が囲まれている。
強固な防御は何ようなのだろう。
ワイバーンやドラゴンだったら空から侵入できる。
他の領との戦争だろうか。
それとも、地面を歩くタイプのモンスターだろうか。
たとえば、ゴブリン、オーク、オーガといったものがすぐに思い浮かぶ。
「ここがフミレス! 到着!」
やっと城門にたどり着き、中に入ることができた。




