第10話 バーベキュー
解体作業は無事終わり、お肉がたくさん収納できた。
部隊は村へと戻り、広場に人が集まっていた。
「んじゃ、バーベキューしようか」
「はーい」
「おおお」
村の広場では、火が起こされこの前も使った鉄板を設置する。
ワイバーン肉を次々に投入、バーベキューを開始する。
お肉ばかりだと寂しいかなと思って、私は野菜も隅のほうで焼く。
先ほども串焼きパーティーをささやかながらやったけれど、規模が違った。
「いいねいいね!」
「バーベキューだぁ」
村人たちも集まってきて、なにやら酒まで持ち出している。
飲めや歌へやどんちゃん騒ぎである。
「へいさっさ、ほいさっさ」
村人たちも久しぶりにいい笑顔をしていた。
「それでレナ様が髪の毛が真っ赤になって、すごい火魔法を」
フィオまでこの調子だ。
私がファイア・ストームを使ったのを見ていて、すごいすごいとほめてくれた。
村人たちも、あのレナが、という顔をしていた。
村人はあまり私が魔法が得意なの、知らないからね。
ばあばは別だけど、やっぱり、ちょっと恥ずかしい。
私は鍋をセットして、香辛料をたっぷりと使ったワイバーン肉のカレーもどきを作って振舞った。
「なにこれ、美味しい!」
「おい、こんなの食べたことがないぞ!」
「レナ様、天才だぁ」
みんながわいのわいのと騒ぐ。
カレーもどきはスパイスをふんだんに煮込んだシチューみたいなもので、まだカレーというには何か足りないような感じだ。
それでも村人にも冒険者にも人気で、まあまあの出来だった。
スパイスの辛みと風味に加えてワイバーン肉の上質なうま味が一体になってとても美味しい。
「おいち!」
さすがカレー。この世界にきてはじめて食べたけど、いいね。
これならもっと作ってもいいね。
騒ぎは夜まで続き、村では久々のお祭りとなった。
翌朝。出発の時だ。
朝ご飯は昨日どんちゃん騒ぎをしたので、簡単に麦粥。
まあ、いつも朝は麦粥だけどね。
今日はちょっと水分多めの胃にやさしいバージョンでお送りします。
大鍋で作って冒険者ギルドの人の分まで配って歩いた。
今日は馬車で帰らないといけないからね。
ギルドは岩塩のあるケーラス村のほうまで斥候を出しているけれど、今も調査中だ。
そちらには私たちは関わらない予定でいる。
もっとワイバーンの動きがあった場合には、相当な覚悟で討伐をする必要があるのだ。
まあ、でも今のところ、大丈夫そうだという話なので、なんとかなるでしょう。
「ばあば、じゃあ、また」
「はいよぉ、仲良くやるんだよ」
「はーい」
二人で礼をしてばあばと別れる。
幌馬車に乗り込んだ。
トコトコ馬車が進んでいった。
途中、やはり一泊していく。
この世界の人はご飯は好きなんだけど、それほど料理には興味がないのか、不思議なんだよね。
「あの、カレーとかいうのもう一回食べたい」
「だそうだ、すまんな、レナちゃん、頼んだ」
「は、はい!」
ギルド長にまでそう言われてしまうと、さすがに断りづらい。
大鍋を用意してもらって、ハーブを入れまくって、まだ余っているワイバーン肉を入れて煮込んでいく。
「いい匂い。これこれ」
「村人もいた手前、たくさん食べられませんでしたもんね」
「そうそう」
お祭りではそれほど大きな鍋で作らなかったので、途中でなくなってしまったのだ。
一人当たりもそれほど多くなかったので、不満があったらしい。
まあ、本職ではないから、その辺はご勘弁願いたい。
というか、六歳児に注文が多いのでは。
それでも言われたら、頑張ってしまうもの。
悪い気はしない。
「いただきます」
みんなそれぞれ持ち寄ったお皿に次々カレーをよそっていく。
隣では付け合わせの黒パンを配給していた。
こういう場での飲み食いはギルド持ちなので、みんな遠慮がない。
このカレー用のハーブは私が買ってきて調達したものだから、まだ請求してないんだよね。
ほとんど使ったから、後で請求できるかな。
それほど高くはないので別にいいといえば、いいけど、微妙なところだ。
剣とか新しいの買いたいといえば、買いたいので、お金はいくらでも欲しい。
一応、それとなく掛け合っておこう。
冒険者ギルドもホウレンソウは基本だ。
相手に通知しなければ、分からないこともある。
女子高生といえども、文芸部部長だったから、生徒会との連絡とか色々あったような記憶がある。
ちょっと記憶が曖昧ではあるものの、生徒会のメンバーとはちょいちょい意見交換などもしていた。
私たちの文芸部は弱小だったくせに、地方の文芸の賞に出して受賞するようなメンバーがいたり、みんなで書いた部誌が、思ったより評判で、一部のSNSでプチバズしたりと、色々あった。
まあ、楽しいような悲しいような、青春の数々である。
前世の話は今のところ、秘密だった。
また幼女からやり直しなので、今度は楽しくいきたいな、というのが目下のところの目標だ。
特に、バーベキューしたりキャンプしたり、自然を満喫できるようなことがしたい。
前世は都会のど真ん中、家もマンションで、自然は公園くらいだったから。
実は探せば東京の真ん中でも自然たっぷりの公園とかあるんだけど、あまりそこまで触手が伸びなかったのだよね。
文芸部でおとなしい感じだったので。
触手にょろにょろ。
「ローパーなぁ」
「触手ですよね」
「そそ、触手」
触手といえば、ローパーというイソギンチャクの地上版みたいな触手モンスターもいる。
普通にその辺歩いているから、要注意である。
あと食虫植物でマンイーターという人間を食べると言われているモンスターもいる。
本当に人間を食べるかは知らないけど、そう信じられてるらしい。
この辺にはたぶんいないけど、離れた土地では分からない。
そんなこんな、夜や馬車の中で色々な話をしつつ、マクネス町へと戻っていった。




