第二話 オルカ「運命の出逢い」
チャンスが回ってきた。
まさに千載一遇の絶好の機会だ。
若くして大抜擢で大佐に昇進、将来性は抜群。
多少外見が悪くても、この境遇から抜け出せるなら文句は言わない。
そもそも、今は亡き恩人の一粒種だからと、彼に恩返しをする──そこまではまだ理解はできる。
だが、なぜそこから私との婚約話に繋がったのかが不明である。
実力行使で子どもでも作れば、有無を言わせない既成事実で破談にできるだろう。
……残念ながら相手がいない。
いや、作る暇がないだけ。負け惜しみではない、本当に。
出会う暇すらないなら、職場で見つければいいだけの話。
となると──
「入ってきたまえ」
部屋の奥から声が掛かった。
準備は万端。とっておきの笑顔を携えて入室する。
「失礼します」
“眼鏡“が特徴的な男性が、ピーター長官の前に立っていた。
一瞬、婚約者のロバートの姿と重なって見えたが、明らかに違う。
(どうしてロバートと見間違えたのかしら?
猫背でボサボサの頭のロバートとはまったく違うじゃない)
「初めまして、オルカ・グレイスです。お会いできて光栄です」
ビシッとアイロンの効いた軍服に軍帽。
いつもヨレヨレの服を着ている男とは大違いだ。
上目遣いに見上げつつ、渾身の笑顔。
小首を傾げて、少しアヒル口に寄せるのがポイント。
(私はやればできる子だもの)
「レオナルド・フォン・サテンです。このたび、大佐に昇進しました」
本人の口から飛び出したので、噂の主であることは確定。
(秘書課では今頃大騒ぎね)
すでにここは“戦場”だ。
“先んじれば勝つ”
先手必勝。攻めて攻めて攻め抜く。
「それはおめでとうございます。これからよろしくお願いしますね」
にこやかに微笑みかける。
何か心配事でもあるのか──
顔はよくわからないが、後半の声色が少し変わっていた。
(どこかで聞いたことのある声──誰に似ているのかしら?)
しかし思い出せない。
思い出せないのなら、その程度のことなのだろう。
「ああ、彼のトレードマークはその“眼鏡”だ。忘れないでくれたまえよ。それでは、私はこれで失礼する。あとは二人で打ち合わせしてくれたまえ」
長官が空気を読んで退出してくれたようだ。
言われなくも、高級そうな“眼鏡”を見間違えるわけがない。
心配ご無用。
「お疲れのようなので、コーヒーでも淹れましょうか?」
「ああ、頼む」
「かしこまりました」
(“君のコーヒーがないとダメだ”
──そう言わせてみせる)
オルカは心に強く誓った。




