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ゴローの思い出話1

ゴローの一人称語りです



 あれは、大陸ソントルテ暦4400年のことです。

 歴史をご存知でしたらわかるでしょう。4400年頃はこの大陸は非常に荒れていて、戦乱の時代でした。100年も続く小さな国同士の小競り合いがいつしか激化し、気が付けば王たちは賢者や亜人と言った魔法の使えるものを抱え込み、領土を広げていました。

 当然魔法の使える者のない国は戦いに敗れ貧しくなり、そしてまた戦に駆り出されます。魔法使いに伝手があるかどうかで、国の勝敗を分ける大きな意味を持っていました。

 そんな中、私はある国の王子でした。

 父は戦いで命を落とし、私は15歳で王位を継ぎました。

 私の国には魔法使いはおらず、小さく貧しい国は疲弊し苦しんでいました。

 ある日、私が一日の終わりに国を憂いて祈りをささげていると、そこに魔王がやってきたのです。


 初めはそれが魔王だとは分かりませんでした。


「誰だ、ここは王の寝室だぞ」

「そう騒ぐことはない。我はそなたに害をなさぬ」

 魔王は静かに、優しそうな顔をして言いました。とても魔王には見えなかったので、私はそれが、大魔法使いアルジンの使いかと思いました。

 なにしろ、神々しい光りがその人を包み込んでいて、金色に光っていたからです。顔は美しく白く輝き、その衣も真っ白でした。髪の色は見たこともないような金色で、とにかく美しかったのです。とても魔王だとは思いませんでした。


 その人が私に優しく語りかけるのを、私は魔王だなどと疑うこともなくうっとりとその声を聞きました。

「そなたの国は小さく貧しい。これから我のところに来たるがよい。そなたに魔法を授けてやろう」

「魔法をくださるのですか?どんな魔法ですか?私のような普通の人間に、魔法が使えるようになるのですか?」

 驚きのあまりたくさんのことをいっぺんに聞いてしまいましたが、その人はただ微笑んでいるだけでした。


 考えてみれば、自分に魔法の力があるのなら、賢者や亜人をわざわざ探さなくても、そして大変な契約をしなくても済むのです。自分でなんとかできるのですから、それだけで国を救うことができます。

 私はその話しがとても良いものだと思いました。飛びつきたくなるのをグッと我慢して、その人の言葉を待ちました。

「どのような魔法かは、我のところに来なければ見せることはできぬ。ただ、もしかするとそなたが思い描いているような万能の魔法ではないかもしれぬ。ひとつ言うなら、きっと戦争で勝利を収めるのに役立つであろう。我と共に参らぬか?」


 こんなに良いものがどうして私に貰えるのか不思議でなりませんが、私はそれが欲しくてたまらなくなりました。

「畏れ多くも私の言葉を聞いていただけるなら、どうぞ怒りを感じないでください。この国は貧しく、とても代価を払うことはできそうにありません」

 私のなけなしの王としての理性が働き、飛びつきたいのをグッと堪え、やっとこれを伝えました。

「魔法を授けるのに、代価はいらぬ。ただ資格が必要ではあるが。その資格がそなたにあるかを知るために、我のところに参られよ」


「代価はいらない・・・」

 それは魅力的な言葉でした。資格さえあればいいのです。どんな資格かはわかりませんが、この人が直接私のところに来たということは、きっと私にその資格があるのを見つけてくださったからだと思いました。


 その人が何者なのか、どんな魔法が貰えるのか、資格とは何か、何も知らないまま、私はその人に付いていくことにしてしまったのです。

 その人は私を(いざな)って歩き出しました。

 私の部屋の壁を通り抜け、目のくらむような昼間よりも明るい白い道をほんの数分歩き、気が付くとどこかの広間のようなところに居ました。


 いつの間に外の国へ出たのか、いつの間にどこかの城へ入ったのかはわかりませんでした。それも魔法なのだろうと思っていたので、不思議なことではあっても怖くはありませんでした。

 そこに着き、目が慣れてくるとやっとその広間の豪華な様子が目に入りました。私の住んでいる宮殿よりももっと煌びやかな美しい宮殿の広間でした。そして、そこには私の他に私のような若者が9人集まっていました。


 私一人でなかったことにいささかがっかりしましたが、他の若者たちもきっと同じように感じていたのでしょう。

 それでも私は、魔法がもらえるのなら私の他に何人いようとも気にはなりませんでした。あの人の話しぶりからは、私は魔法が必ずもらえるような気がしたからです。私にはその資格があると確信していました。


 私がそんなことを考えていると、王座の前にあの人が立ちました。

「さあ、若い王たちよ、近う寄るが良い」

 あの人は威厳を持った声で私たちをよびよせました。まるで後光がさしているかのような神々しさに、私たちは陶酔した表情で玉座の前まで進み出ました。

 私は一番後ろに立って他の人たちの様子を見ていました。みんなそわそわと、今にもその人に縋りつきそうでした。しかし、みな私と同じように王なのでしょう。わきまえを知ってしました。


「これより、そなたたち辺境の王たちに火の魔法を授けよう」

 その人は杓をかかげてそう言いました。

≪火の魔法?≫

 私たち全員がそう思ったでしょう。


 火の魔法は、禁法です。火の魔法が使えるのは、創造主アルジンの作った7人の大魔法使いのうちの1人だけであって、その魔法使いはアルジンに仕えることを嫌がったために堕ちて、魔王となったはずです。

 ということは、今目の前にいるのは・・・

 私たちは急に現実に戻されました。目の前にいるあの人は、魔王だったのです。




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