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ドラゴンの急所



 町の人たちは、すぐにジェイの方へと寄ってきた。生きたドラゴンがいるというのに気楽な様子なので、ジェイは大声で言った。

「あ、危ないですよ!まだ、生きてるから」

 ドラゴンが暴れて、尻尾をバタンと振ると、町の人たちは低い声で「うおー」と後退さった。それでも、ドラゴンの翼は縄に絡められ、口も塞がれている。彼らはそれを見ると、槍や剣をドラゴンに向けたまま近づいてきた。

「賢者様、ありがとうございます!」

 彼らは口々にジェイに礼を言った。

 武器を向けながら、礼を言うという変な光景だった。


「いやあの、これ、まだ生きてるんだ。どうやったら死ぬか、知らない?」

 賢者らしさのかけらもなく、ジェイは町の人に聞いた。

 まさか、ドラゴンを倒してくれるはずの賢者様が、自分たちに「どうやったら死ぬか」を聞いてくるとは思わなかった町の人たちは、目を丸くした。そして、いきなりドっと笑った。

「え、あのさ、笑いごとじゃないんだけど?」

 冗談を言われていると思ったのだろうか。とにかく、ジェイは困っていた。


「えーっと、じゃあ、強力してくれない?」

 ジェイが言うと、町の人たちは笑いながら頷いた。

≪なんなんだ≫

 変な状況だった。

 ドラゴンを殺すのには、軽いノリだ。

 だけど、町の人たちにとってみれば、手ごわいドラゴンをこんなふうに捕えただけで、大手柄なのだ。あとは刺そうが切ろうが、とにかく殺すだけ。ドラゴンの命は自分たちの手の中にある。怖がることはない。


 彼らがそれぞれ武器を構えると、老人の声が聞こえた。

「ドラゴンの命は、左腕に宿っておる」

「え?」

 ジェイがその声の方に顔を向けると、武器を持っていない人がいた。ごく普通の村人、しかしその目には聡明そうな光が宿っている、そんな老人だった。

「左腕だぞ」

 その人はもう一度そう言うと、長い剣を持っている男性をドラゴンの左前脚の前に立たせた。それから、そこを切るように指示した。

 それで、数人がドラゴンの左前脚を刺した。

 またあの嫌な臭いが立ち込め、黒い血が流れる。そして、ドラゴンが苦しそうに呻いた。


― グオオオオ・・・ ―


 だんだんとドラゴンは目の光りを失い、そのうめき声が聞こえなくなると、もう動かなくなっていた。

 左前脚を刺して、すぐだった。

 さっきまで、首や胸や喉など、生き物の急所と言われるところを刺してもまったく死ぬような気配を感じさせなかったドラゴンが、左前脚を切られるとすぐに死んだのだ。


 ジェイは少し混乱しながらも、先ほどの人のところへ行った。

「あの、ありがとうございました」

「いやいや、お役に立てて」その人はニコニコして言った。「むかーし、賢者様に教えてもらったのじゃよ。それで、ドラゴンを仕留めたことがあってのう」

「そうなんですか。その賢者様は今は?」

「さあて、もう5、60年も前に随分な年寄りだったが、急にいなくなってしまったよ」

「そうですか」

 急にいなくなったのなら、自分の国に帰ってしまったのかもしれない。

 ジェイと同じように、ドラゴンを退治してくれと言われ続けるのは嫌だったのではないだろうか。

 とはいえ、貴重な経験と知識を教えてもらえた。ジェイは嬉しかった。


 そんなジェイをよそに、町の人たちは大喜びだった。ドラゴンを殺すためには、左前脚を切らなければならないことを知らなかったとはいえ、賢者様がドラゴンを捕えておいてくれたのだ。やはり、ジェイのことをこぞって褒めたたえていた。



 それから彼らはジェイと黒いドラゴンを町に連れて行こうとした。

「領主からお礼をしたいので」

「私たちも賢者様にお礼を言いたいです」

「ぜひ町に来てください」

 などなど言われても、ジェイは乗り気ではなかった。またあの堅苦しい領主だか王様だか偉い人の家に招かれて“賢者様”に失礼がないように、恭しく話をされるのを考えると、とてもじゃないが、そんなところには行きたくなかった。せめて、普通の旅館や料理屋のようなところでもてなしてくれるのならば、行っても良いかなとは思うが。


「いやあの、俺たち」

「さあさあ、私たちの町まですぐですから」

 町の人たちに取り囲まれて、そのままジェイは連れて行かれそうになってしまったが、なんとか踏みとどまる。

「い、急いでるんで!」

「さすが賢者様だ。お忙しいのだろう」

「しかしもう、暗くなっていますから、どうぞ、町へ来てお休みください」

「美味しい食事もご用意しますから」

 多勢に無勢という言葉はここでは間違っているかもしれないが、ジェイにとっては手ごわかった。たとえ善意だとしても、ジェイは行きたくないのだから。

≪仕方がない、こうなりゃ≫

「ゴロー、飛んで逃げよう」

「え、逃げるんですか?」

 ひそひそとゴローに耳打ちすると、ジェイはゴローの背中に乗った。

「じゃ、すみません!」

「け、賢者様!?」

 ジェイが背中に乗ると、ゴローはすぐに飛び上がってくれた。町の人たちがざわざわと、口を開けながらドラゴンと賢者様を見上げている。

「賢者様!どこへ!」

「すみませんっ、さよなら」

 空から見ると、結構な人数がジェイを囲んでいたことがわかった。あれではとても逃げられない。しかし、ゴローのおかげで、空へと逃げることができた。


 ジェイは「さよなら」と言い残して、そこを去った。

 町の人たちは、颯爽と去ってくドラゴンと賢者様に手を振って見送ってくれた。町に招きたいのはやまやまであろうが、こうして去って行かれては追うことはできない。ただ感謝をもって送り出すだけだ。

 この黒いドラゴンと賢者様の噂は、瞬く間に他の地域へと広まったのであった。



「で?あたしはどうしたらいいのかしら?」

 地下に繋がる穴の入口で見ていたモンは、置いてけぼりを食らって、1人地下に潜ったのであった。

 さて、3人は無事合流することができるだろうか。




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