この穴はどこへ
ドラゴンの攻撃を受けた森は、激しい爆発音を響かせ、そして業火に焼かれてしまった。その火から逃れて、森の地面に潜り、洞窟を進む3人であったが、いつしか頭上から聞こえてくる木々の倒れる音や爆発音は聞こえなくなっていた。
「なあ、随分歩いたと思うけど、もう森は抜けたんじゃないか?」
ジェイが言った。あの恐ろしい音が聞こえなくなっていたので、ジェイの恐怖心も薄らぎ、ムヴュの発する光りも弱まっていた。
「そうね、もう森は抜けたから地上に上がる?」
先頭を歩いていたモンが振り返りながら言った。
「そう都合よく、地上に出る道があるのか?」
この道に来てから、横道らしい横道は見ていないし、勿論地上へ向かっている道も特に見当たらない。ずっと地下で生きて行くのではないかと思うほどに、そこは暗い地面の中であった。
「いつだって出られるわよ。じゃあ、行く?」
「いつだって出られるってどういう意味?」ジェイが聞いた。
「そもそもこの道は、もともとあった道なのですか?」ゴローが聞いた。
するとモンは少し考えるような仕種をした。それから口を開いてあっけらかんと言った。
「土童は地面の中だったら行きたい所、どこでも行けるもの。道なんてないわよ?」
ジェイはポカンとして聞いていた。
つまり、この道はモンがこっちへ行こうと思ったからできた道であって、こんな風に森の下に道があったといわけではないというのだ。
「じゃあさ、俺たち一体どこへ向かってるのさ」ジェイが聞いた。
「だから、森から遠ざかってるのよ」
「どこへ?目的地もなくさ迷ってるだけか?せめて東西南北のどっちに進もうとか考えてるんじゃないの?」
ジェイのムヴュの光りがまた少し強くなった。
「一応南の方へ向かってるわよ」
「南?」「南ですか?」
なぜ南なのだろうか。ジェイとゴローが首を傾げた。
「だって、あなたたち、ドラゴンに用事があるみたいだから」
しれっとしてモンは言った。
「まじで~?いやいやいや、俺はぜんっぜんドラゴンに用なんてないからね?むしろ遠ざかりたいんだよ。ふつーの人間になりたいんだから!」
ジェイは南へ行くと聞いて、今にも逃げ出しそうだった。
「私もジェイと同じ方へ行きたいです」
ゴローもそう言って、回れ右をしようとした。
「えー?だって、賢者様とドラゴンが揃ってるのに、どうしてドラゴン本拠地から逃げるのよ?」
モンは二人を引っ張ってでも南へ行こうとしている。
「何言ってんだ! 俺が魔法が使えないってわかっただろうが。くっつける魔法だけしかないのに、どうやって賢者らしくできるってんだ。俺は逃げるからな」
「あー!待ってよ!ここまで来たのに」
本格的に逃げようとしたジェイの袖をモンが引っ張って留めた。
「やめろ、離せよっ」
「やだっ、行かないでったら!」
「落ち着いてください、お二人とも」
「これが落ち着いていられるか!俺はまだ死にたくない、ふつーの人間になるんだー」
ジェイが叫ぶと、彼のムヴュが光り輝き洞窟内は真夏の海辺のように眩しくなった。
「ちょっ、眩しいってば」
「ジェイ、やめてください」
「うわー、俺も眩しい!」
そんなバカげたやり取りをしばらく続けていて、ようやくモンが切り札を出した。
「じゃあいいもん!もう勝手にどこかへ行けば?そのかわり、地下の道はもう通れないわよ」
「「げ!?」」
モンの手を逃れようとしていたジェイと、ジェイの袖を銜えて戻ろうとしていたゴローが変な声をあげた。
「当たり前じゃない。この道はあたしが作ってんの。あたしと一緒じゃなければ戻れないんだからね。勝手にどこでも行ってちょうだい。その代り自力で道を作ってね」
「げ~?お前、そりゃないだろ。こんなところまで連れてきて」
「そうですよ、せめて行先だけでも相談してくだされば」
二人の抗議など聞く耳を持たず、モンはそっぽを向いていた。
「しーらない!地上になら出してあげるわよ」
それを見て、ジェイとゴローはこそこそと相談することになった。
「どうするよ。ゴローだって南は行きたくないんだろ?」
「はい、そりゃーそうですよ、あんな金色の凶暴なドラゴンがいるなんて、恐ろしい」
≪お前もドラゴンだけどな≫
そういうツッコミはたとえ心の中であっても野暮である。
「ゴローは元に戻る道作れねえか?言っとくけど俺の魔法じゃひっくり返っても無理だぞ」
「私にも無理ですよ。いくらドラゴンだからって、穴が掘れるわけないじゃないですか」
「そりゃそうか。じゃあ、地上に出るか?」
「ジェイは良いですよ。でも私は地上に出たらすぐに見つかってしまいます。人間に見つかったら確実に殺されてしまいます」
「え、お前空飛んで逃げたりできないの?」
「できますけど・・・ジェイを置いて行きたくないです」
「ゴロー、お前良いやつだな」
「ジェイだって、良い人ですよ」
こんな時になんの友情を育んでいるのか。
「じゃあ、地上に出て、飛んで逃げるってのは?俺のこと乗せてくれない?」
「できなくないと思いますが、空を飛ぶと、ドラゴンに見つかってしまう気が」
「そうか、そっちのほうが怖えな」
「ですよね」
二人でハアとため息をつく。そのようすを、モンが少し離れたところからじっとりとした目で見ていた。
「じゃあ、一か八かだな」
「そうですね」
「隠れるところがあるかもしれないしな」
「そ、そうです、ね」
こんなに大きなドラゴンが隠れることができる場所というのは、なかなかない。町の真ん中などに出てはある意味大惨事である。
とはいえ、そういうことで、二人は地上に出ることに決めた。
モンは渋々承知して、地上への道を作りそこへ案内してくれたのだった。そうして、二人は地上に出た。ただし、モンはその地下の入口(出口?)から出てこようとはしなかった。




