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しょぼい魔法



 ジェイの話しの中で、聞き捨てならないものがあったのをゴローは覚えていた。

「じゃあジェイは、魔法は全く使えないのですか?」

 ゴローが聞くとジェイは頭を掻いた。

「んー、全く使えないわけじゃないけど、かなり下手」

「どういう基準でかなり下手なの?」

 モンが聞いた。

 それは重要な要素である。例えば、大陸には魔法が使える人間はいないのだから、どんな小さな魔法を見ても、魔法は魔法、もてはやされるだろう。ジェイが下手という魔法でも、大陸の人間から見れば大したものかもしれない。


「基準?あー、うん。学校では下級魔術詠唱クラスでダントツのビリっかす。先生に怒られるどころか呆れて笑われちゃうくらい。はっ、才能なさすぎ。だからさ、俺、魔法なんて使えないところに行って、普通の人間として普通に生きて行こうとしたんだ。それで大陸に来たんだ」


 拗ねてふてくされたジェイの様子など気にしないで、モンは乗り出していた。

「待って待って!え?何度も聞くけど、どこから来たの?」

「まさか、異世界とかいうやつですか?」

 ゴローも鼻息が荒くなっている。

「いや、まさか」ジェイが笑う。

「だって、そんな魔法を教える学校がある国なんて聞いたことないわ。大陸は勿論、海に出て果ての島までの南西諸島(スュデスティル)のどこの島にだって、そんな学校ないわよ、ねえゴロー?」

「はい」

「そりゃ、果ての島までは魔法を使う人間はいないらしいけど、その先だよ」

「「え!?」」

「何その反応。果ての島の向こうに島があるって知らないの?」

 モンとゴローの異様な反応に対して、ジェイはキョトンとして答えた。

「知らないわよ。って、え?果ての島の向こうに行けるの?」

「果ての島が果てなんじゃないんですか?」

「なんか結界みたいなもので塞がってるって聞いたことあるけど」

「果ての島は世界の果てですよね?」

「人がいるの?」

「果てより先に人がいるんですか?」

「うるさーい!」

 あんまりにもモンとゴローが食いついてくるのでジェイが大声で遮った。

「あるもんはあるの。それで良いだろ?そんで、俺はその国では劣等生だった、ハイそれだけのこと!」

 さすがにモンとゴローは黙った。そしてただ大きな目をしてジェイを見ていた。


「だけど、この国に来たって結局賢者扱いされてさ、普通の人間として暮らすことなんて、できなかった。俺はなにもすごいやつになりたいわけじゃないのに、普通で良いのに、結局どこにいたって、俺は普通にすらなれないんだ」

 モンはそっとジェイの手の甲のムヴュに触った。

「普通じゃなくても良いじゃない。私もあなたも、ゴローも、みんな違うんだから」

 モンに触れられて、ムヴュがあり得ないほど光った。

「うわっ、さすが賢者の印ですね」

 あまりの眩しさに、ゴローが短い前脚で顔を隠そうとしている。


 それを見て、ジェイは少し笑った。確かにここにいる3人はみんな、ただの人じゃない。普通の人間どころか、ドラゴンに聞いたこともない土童(つちのこ)にできそこないの魔法使いだ。

「あなたが生きる場所はきっとまだ見つかっていないだけ。大丈夫、まだ若いんだもの、きっと見つかるわ」

 そう言うとモンはその小さな両手でジェイの手を包んだ。

「うわっ、モン!もうやめてください、眩しくていられません!」

 ゴローが向こうを向いて叫んだ。

「あっ、ごめんごめん!って私のせい?」

 ジェイは真っ赤になって口をパクパクさせている。少ししてやっとそのムヴュの光りは落ち着いてきた。


「魔法なんて・・・ない方が良いんですよ」

 ゴローがポツリと言った。

「あー、いや。全く使えないわけじゃないよ?」

 空気を変えるように、いきなりジェイが明るい声をだした。

「「え?」」

「まあ、大したことないけど、俺ひとつだけ、使える魔法があるんだ。笑わないってんだったら、見せてやるよ」


 どうやら、賢者扱いされると居心地が悪くてとても魔法を披露する気にはなれないが、劣等生という前置きをしてなら、魔法のない大陸の人間に魔法を見せても良いかなと思ったようだ。

「「見たいです!お願いします!」」

 モンとゴローが勢い込んで言うので、ジェイは少し気を良くした。


「じゃあ、モン、実験台になってくれる?」

「私に魔法をかけるの?怖くない?」

 そう言いながらも、モンは少し嬉しそうである。

「うん、すぐ解けちゃうから大丈夫さ。じゃ、そこに立って」

 そう言うと、ジェイはモンから少し離れて立ち、そして息をスッと吸った。

「くっつく、右手右耳、右耳右手!」

「あ」

 ジェイのムヴュが光りを放ち、そしてモンの右手と右耳が引き寄せられてくっついた。

「くっついた。離れない!ちょっと」

「すぐ取れるよ」

「すぐって、どのくらいよ、いやあん!」

 そうこう言っているうちに、モンの右手は右耳から離れた。

「あ、取れた」

「こういう魔法。な、使えないだろ?しょぼいだろ?」

 ジェイは二人から顔を背けると暗い洞窟を1人で歩きはじめた。二人がどんな反応をするのか恥ずかしくて見られないらしい。


 後ろからモンが駆けてきてジェイの横を歩き出した。

「すごいじゃない!面白い魔法ね」

「え、うん・・・これしかできないけどな。ちょっとしたケンカの時とか、便利なんだ」

「くっつける魔法でしょ?色々応用できそうよね。すごいわ~」

「え、そう?」

 なんだかモンに褒められてジェイは盛大に照れた。こんなに褒められるとは思わなかったのだ。自分の生まれた島では劣等生だったし、この大陸に来てからは“賢者”に求められる魔法のレベルの高さにとてもこんな魔法を披露する気にはならないし、初めて誰かに見せた魔法だ。


 二人が歩いている後ろでゴローは

「みぎてみぎみぎ、みぎみぎみみて・・・右手みぎみぎ・みみみぎみぎて・・みみぎっ、できるか!」

 と先ほどのジェイの呪文を練習していた。

 魔法が使えるかどうかはさておき、呪文が難しくてとても言えないと思わずにはいられなかった。



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