賢者の印
三人称目線に戻りますー
読みにくくてすみません
ゴローの身に起こった話しを聞きながら、3人は暗い洞穴の中を歩き続けていた。話が長かった分、随分と歩いた気がした。
「ね、わかったでしょ?この人は悪い人じゃないって」
話があらかた終わると、モンがジェイに向かって自慢げに言い放った。
「や、まあ、確かにそんなに悪くないとは思うけどさ、ナニ、その火の魔法を使うと理性がなくなっちゃうの?それって何とかならないの?」
「確かに、私の意志が弱いのかもしれませんが、戦争だったためか、火の魔法を使っていると、こう、心の中が怒りで満ちると言いますか、そういう汚い感情で満たされるような気がします」
ゴローは二人の後をトボトボと歩きながら答えた。
「だからー、それは仕方がないじゃない、戦争中なんだから。ジェイだって、ものすごく腹を立ててる時に、相手をけちょんけちょんにやっつけたいって思ったことあるでしょ?」
モンは相変わらずゴローの肩を持っていた。
「ふふっ、お前、けちょんけちょんって言葉」
「何よ~」
「あははは」
モンが頬を膨らませると、その小動物のような動きが可愛くて、ジェイはついつい笑った。
「まあ、どうして名前を変更できないのかは分かったよ。仕方ないよな。魔王の呪いなんだから」
「あなたって能天気ね~」
ジェイとモンの軽やかなやりとりを聞いても、ゴローは相変わらず真面目に口を開いた。
「火が悪いわけではないんです。悪いのは私の心だったんです」
「そうよね、誰だって火は使うものね。温めたり明るくしたり、必要なものだわ」
モンがそう言うと、いきなりジェイが立ち止まった。
「なあ、さっきから不思議なんだけど、どうしてこの洞穴明るいんだ?それこそ火もないのに!」
「まだ私の話の途中なのに」
「なんで明るいかって?そりゃ、あなたの賢者の印のせいじゃないの」
ゴローの小さな声にかぶせてモンが言った。
「は?」
「賢者の印!」
「これか?もしかして、人間たちが俺のこと賢者って言うのは、コレのせいか?」
そう言って、ジェイは手の甲から光りを放っているソレを二人に見せた。
「それもそうだけど、コッチのほうよ」
モンは、自分のおでこを指さしながら言った。ジェイもそれを見て自分のおでこを指さして考える。
「コッチって」
「ここにもあるでしょ?賢者の印が」
「え、見えてんの?」
ジェイの額には布が巻かれている。それはジェイが額の印を隠すためであった。勿論手の甲にあるものと同じように、彼の感情が動くときその額の印も光りを放つ。それを見せないために布を巻いていたのだ。
しかし布を巻いているのに、どうしてモンとゴローにはそれがわかったのだろうか。
「見えるも何も、光ってるわよ。一番」
「布なんて巻いてもダダ漏れですよ」
「まじで~?」
ジェイは知らなかった。自分の歩く道を照らしているこの(洞窟内の)明かりは自分の額が放っているのだということを。どうして会う人会う人が彼を見ると“賢者様”だと言うのか。それは自分の額の光りのせいだったのだ。
「しょうがないじゃない。賢者の印なんだから」
「だからー、俺は賢者じゃないんだってば!こんなの、目や鼻と同じじゃないか」
「だいたい、何よ、その印。賢者の印じゃないってんなら、何のために付いてるのよ」
モンの横でゴローも頷いている。
まさか、額の印ごときでこんなに大騒ぎだとは思わなかったのだ。
「何のためって、喜怒哀楽を表すためだろ?あと、魔法を使うために」
「ほら、魔法を使うんじゃない。ね?賢者様!」
「まさか賢者様とお近づきになれるとは思いませんでした。どうぞご贔屓に」
「何をだよ!」
ジェイは本格的に困った。言われてみれば、どうやら大陸の人間には無いのだ。ジェイのいた島の人間には必ずあるものだったので、全然気にしていなかったが、それが間違いの元だったのだ。
「ねえ、ジェイはどこから来たの?」モンが聞いた。
「賢者の印じゃないなら、これはなんなんですか?」ゴローが聞いた。
これは話しておかなければならないだろう。
ゴローの話ほど劇的ではないにしても、彼らにこれを説明しておかなければならないことは確かだ。
「これはムヴュっていう身体の器官だよ。俺のいた島の人間には必ずあるものだ」
「むびゅ?」
ゴローが言った。
「違う、ムヴュ」
「みゅみゅ?」
ゴローとモンが言った。
「違う、ムヴュ」
「そんな発音できるかあ!」
モンが怒った。どうやら発音できないらしい。ジェイがいた島の発音は独特なのだろう。
「怒るなよ。とにかくムヴュは標準装備だ。感情のコントロールをするんだ。だから大人になって、魔法が上手になると必要なくなる」
「魔法と感情って?意味がわからないなあ」
「つまり・・・よくわかんないけど、大人になると魔法が上手になるから、光らなくなるんだよ」
「ジェイもわかってないんですね」
ゴローが冷静に突っ込んだ。確かにジェイは良くわかってないようだ。説明になっていない。
「仕方ないだろ、お前たちだって、どうして年を取ったら耳が遠くなるかなんて説明できないだろうが」
「ああ、まあ」
モンとゴローはジェイの迫力に頷くしかなかった。
「でも、魔法は使えるんでしょう?」モンが聞いた。
「俺の使える魔法なんて、なんもねえよ」
ジェイはつまらなさそうな顔をしてそっぽを向いた。
「でも、私に何か魔法をかけようとしていましたよね?」
「あれはハッタリ。こっちが魔法をしかけようとしてるのを警戒してる間に逃げるつもりだったんだよ」
「そんなの、言葉を失くしたドラゴンには通用しませんよ」
それを聞くとモンはケラケラ笑った。
「そうなのか。出会ったのがゴローで助かったよ」
ジェイがそう言うと、ゴローは喉を鳴らした。嬉しかったのかもしれない。




