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ゴローの思い出話3

ゴローの一人称語りです



 跪いた私に、魔王様は今一度問われました。

「我の授ける名前をそなたの意志に反して名乗る時、そなたは苦しむであろう。それでもそなたは名前と火の魔法を欲しいと願うか」

「はい、魔王様。私は火の魔法を授かりあなた様のくださる名前を心より名乗ります」

 私が誓約すると、魔王様は跪く私の肩に杓を当て

「そなたに火の魔法を授けよう。これよりそなたはスゴロクと名乗るが良い」

≪スゴロク?≫

「は、はい。ありがたき幸せに存じます。私はこれよりスゴロクと名乗り火の魔法を預かります」

 と火の魔法を授けていただきました。


 私の名前はこの時よりスゴロクとなったのです。

≪もっと他に良い名前はなかったのだろうか≫

 若干腑に落ちない部分もありましたが、私の意志に反して名乗ることはできません。心からこの名を、魔王様にいただいた名前として誇りを持って名乗らなければならないのです。


 私が火の魔法を貰うと、さらにもう一人の王が魔王様の前に跪きました。

「ま、魔王様・・・私めにも魔法をお授けください」

 私の隣に跪いた王は震えていました。大変な決心をしたのでしょう。

 魔王様はその王の気持ちも分かっていたのでしょう。他の王たちが次々と火の魔法を授けられているのに、あと残っているのはこの王ともう一人しかいないのです。最後に残るのは我慢できなかったのでしょう。魔法が欲しいというよりは、きっとこの場の無言の圧力に耐えられなかったのでしょう。


「無理をすることはない。そなたに名前を捨てる勇気はあるまい」

「いいえ、魔王様。私は火の魔法をいただきとう存じます」

 その王の声は、初めは震えるか細い声でしたが、だんだんと力がこもってきました。

「いや、我の授ける名前には(ちから)がある。そなたを苦しめることとなる故、それを授けることはできぬ」

「いえ、私めはその力の名前と火の魔法をいただき、国を救いたいのです」

 ほとんど叫ぶようにその王が告げると、魔王様は微笑んでその王の頭を撫でました。そして、その肩に杓を当て、魔法を授けました。

「そなたに火の魔法を授けよう」

 さてこの王の名前は何になるか、私のようなヘンテコな名前がくるだろうと思って聞いていると

「そなたはこれよりカプラと名乗るがよい」

≪私もそっちの名前のほうが良かった≫


「魔王様に感謝を申し上げます。私は火の魔法を授かりこれよりカプラと名乗ります」

 その王は声も身体も震えていました。隣にいる私にも振動が伝わるほどです。それほどの決心をして彼は魔王様から魔法を貰ったのです。

 その決心をし、新しい名前を名乗ると、彼はさらに震えだしました。


「くっ、ぐあっ」

 喉の奥から絞り出すような声が聞こえたかと思うと、彼は首を押さえてその場に崩れ落ち、そうして豪華な絨毯の上をのた打ち回りました。

「ぐぅうあああ!」

 彼の身体は突然炎に包まれ、私たちはそこから飛びのきました。


「ほれ、このように、心ならずその名を名乗れば、このように苦しむのだ」

 魔王様の冷やかな声が聞こえてきました。魔王様は微笑んで、炎に包まれた王を眺めていました。そしてその火が収まると、焼き焦げた骸をそのままにして、また私たちの方を向き言いました。

「我の授けた名を喜びを持って名乗るが良い」

 さもなければ、この王のように炎に包まれて苦しんで死ぬと、その目が語りました。


 私はとんでもないことをしました。もう後には戻れません。私が受けた名前は悪魔の名前、私を悪に繋ぎ止める悪の名前だったのです。

 恐ろしい。

 ですが、元の名前を捨て、元の名前を思い出さず、いただいた名前を自分のものとして名乗れば良いだけなのです。そうすれば彼のように苦しむことはないでしょう。

 それでも、恐ろしい。

 私が受けたものは、そんな名前だったのです。


 そこにいた10人の王たちのうち、私を含め9人が魔法と名前を授かり、1人は死に、そしてもう1人は何も貰わずに帰りました。

 何も貰わずに帰った王は、きっと死んだでしょう。戦いに敗れて遅かれ早かれ死んだはずです。それが良いことなのか悪いことなのか、私には何とも言えません。ただ、彼は人間として生き、人間として死んでいったということがわかるだけです。

 後から考えれば・・・それはとても羨ましい決断だったのです。



 とにかく私は、こうして火の魔法を手に入れました。

 国に帰り、戦争があると早速、私は最前線に立ちこの魔法を使って戦いました。

 火の魔法は非常に戦いに使い勝手の良いものでした。遠く離れていても、敵を一瞬にして焼き滅ぼしてしまうほどの威力を持っていました。

 私の国は、戦いで勝利を収めました。

 一度、二度、三度と戦い、周囲の国を少しずつ我が国の領土に加え、貧しく小さい国は、いつしか強い豊かな国となろうとしていました。


 ただ、問題もありました。

 魔法を使っていると理性が利かなくなるのです。私が炎を出すと私の手は獣の手のようになりました。私が敵を焼き殺すと私の口からは獣のような声が出ました。そして敵国の者であれば、慈悲など感じることなくすべてを焼き尽くすようになったのです。


 しだいに私の身体は人間ではなくなり、黒く醜く大きな塊となりました。

 戦いが終わり、私が王だと言っても誰も私の声に耳を傾けなくなり、勝利に導いたはずの火の魔法を怖がりました。

「あなたは火の魔法を使う魔物です。我が国の王ではありません」

 信頼して共に戦った側近にそう言われたことで、私は理性を手放しました。そう言われたことで悲しくて苦しくて、泣いて暴れたのです。


 気が付くと、私の国は焼け野原になっていました。私は自分の悲しみや怒りに任せて炎を吐き、あれほど大切に思っていた国を滅ぼしてしまったのです。

 大切な国を、大切な輩を、大切な家族を、私は殺してしまいました。

 残ったのは、この名前と火の魔法と、そして醜く大きな翼の生えた今の私だけでした。

 魔王は、私に何も命じなかったのに、私は自分から悪に染まっていったのです。




お読みくださいましてありがとうございます。

ゴローの語りはここまでで、次回からまた三人称目線になります。

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