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そらリゼーション  作者: ゆきのいつき
23/27

第二十三話 彷遊宮にて  ☆

 彷遊宮ほうゆうきゅうは緋炎宮と違って恒星の周りを公転している惑星上にあるわけじゃなかった。

 ううん、言い直す。

 いちおう惑星上にはあるんだけど、その……惑星は惑星でも惑星っていうのが正解で……はっきり言ってすさまじいっていうか、呆れるっていうか……。とんでもない場所に彷遊宮はあった。

 以前にもフォリンからちらっと聞いてはいたけど……それはひどく破壊されてしまった、それこそ原型をほとんど留めていない惑星の一部。表面に微妙に元の星の輪郭が確認できるくらいで……形は三角錐をすっごく歪にした亀裂が入りまくりの星のカケラ。まぁカケラというにはサイズがおっきすぎで、こないだ見た空中庭園もおっきかったけど、そんなの比較にあげるのもアレなくらいハンパなくおっきい……そう、これってちょっとした山が地中深く……、まるごと星からもぎ取られたレベルのサイズだよ! それに更に、そんなおっきな三角錐の塊の横にもう一個小さめの三角錐も並ぶようにあって、それぞれがなんか棒状の構造物で連結されてるみたい。


挿絵(By みてみん)


 で、そんな元惑星の表面にドーム状の構造物が円を描くように幾つか配置されてて、そこからその円の中心に向ってパイプラインみたいなのがいっぱい出てる。そしてその中心には一際おっきい……四角形をした土台に、付随する構造物を周りに色々配置しながら、幾何学的な形をした塔が天を突くように高くそびえ立ってた。


「うわぁ、お、おっき~いぃ……こ、これが彷遊宮?」

「そう、ここが彷遊宮だ。まったく、こんな破壊された星に宮を築くなど悪趣味な。……ったく、なんとも困った父王様だよ。しかも一つところに落ち着かず、星系間をコイツで渡り歩いてるんだから余計タチが悪い」


 フォリンがほんとに嫌そうに、迷惑そうに……ボクに向って説明ともグチとも取れる物言いで語った。


 彷遊宮って名前もそうやって星系間を渡り歩いてるそのイメージから……フォリンやフェアリンさんたちが厭味まじりで命名したらしい。

 はうぅ……、なんかこれから会う王さま……ライエル王さん……だ、大丈夫なんだろうか? こんな話聞いてるだけでなんか……いやな予感しかわいてこないんだけど。


 で、でも、ティエ家のノルン公の太陽系侵略に反対したって話だし……そんな変な人でもないのかもしれないし……。


「ううっ、なんか、すっごく不安なんだけど……。ねぇ、ボクほんとに会わなきゃいけないのかな?」


 ボクはだんだん大きくなってくる不安感からつい、今さらながらフォリンにそんなことを聞いちゃった。


「蒼空……不安なのはわからないでもないが。はっきり言ってライエル王にそんな気遣いは無用だ。あんなやつで王っていうのなら……蒼空、君のほうがよっぽど王にふさわしい能力と知力を持ってるんじゃないかと思うぞ。

 実際、よくもあんないいかげんで、理不尽で、なまけもので、横着な……エイム族の品性を疑われるような奴が王となれたものだと……我が父ながら不思議に思うくらいなんだからな」

「ふぇ? そ、その……フォ、フォリン? あの……」


 フォリンの、その王さまに対するあまりの物言いに、なんと答えればいいのか戸惑うボク。 そんなボクにディアからボクだけ宛てで交感が入る。


<蒼空、フォリンの言うことをあまり真に受けないことです。まぁ、全てがウソとは言いませんが……(い、言えないんだ?)ライエル王はまさに王と呼ぶにふさわしい方だと基本的には言えます。(き、基本的にぃ?)ですので、安心してお披露目に望んでください。王も蒼空と会うことを楽しみにしていると……ランからも交感でメッセージが届いています>


 な、なんだよ、もう。わけわかんない。


「う、うん、わかった……。じゃあ、とりあえず、ボク部屋で、その待機してるから……出番来たら呼んでね?」

「え? あ、ああ、わかった」


 ボクはとりあえずフォリンに差し障りのない返事をし、フォリンもそれに相槌を返してきた。

 それからディアと更に交感を続ける。


<ディアぁ、もうボク、分けわかんないよ。とりあえずボクは言われた通りにするけど……、くれぐれもボクや地球が変なことにならないようにお願いね? あ、それと……、ランって誰?>


 さっきのディアの説明に出てきたランって名前? が気になって聞いてみた。


<ああ、そういえば蒼空はランとはまだ交感したことはないんでしたね? ランとは、正式名フォートラン。彷遊宮の制御を司るAIで、全てのジェネリック船の基礎となった我々の母とも言える基幹コンピュータです。

 我々はランを基本ベースとしてそれぞれの星船に特化した機能を付随されたAIなのです。そしてランはそうやって特化された我々AIの機能をフィードバックし、日々進化し続けている、まさにライエルの基幹となるコンピュータであり、ライエルのもう一つのスーパーテクノロジーであるアクシオンと対になる最重要システムなのです>


 ふわぁ、もうボクには雲を掴むような話になってきちゃったよ。とりあえず星船にディアたちが居るように、彷遊宮にもランさんってAIが居るってことか。


<あれぇ、でも常々ディアって自分が一番みたいなこと言ってた気がするけど……ランさんが居るんならさぁ?>


 ボクはちょっと厭味ったらしくディアに聞いてみた。


<むむっ、蒼空。あなたほんとうに最近言うようになってきましたね? そうですね、ここは素直に認めましょう。確かにライエル……いえ、この宇宙で最高のコンピュータはランと言えるでしょう。

 しかし……実際、この銀河の中で実働しているコンピュータ、もっと言えば運用されている星船の中で言えば私が一番。そもそも比較対象の中に基幹コンピュータを入れるのは反則というもの。したがって実質、私にかなう星船はいないのですから、その、間違いではあいはずです!>


 ふふっ、こんな慌てふためくディアを見るのは初めてかも? それにしてもほんとコンピュータのクセに自己中なやつ。おっかしいの。でもまぁ、あまりいじめてもなんだし……。


<なるほど、わかった。これからも頼りにしてるね、ディア。じゃ、ボク部屋で待機してるからよろしく!>


 ボクはディアにそう言い、そしてフォリンにも挨拶して部屋に撤収した。

 フォリンとディア、それぞれちょっとなにか言いたそうではあったけどボクは軽くスルーしちゃった。正直もうどうでもいいし、メンドクサイんだもん。


 ほんとやれやれだよ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「そのように畏まらなくともよい。楽にするといい。して、そなたが地球という人類種の支配する惑星より我が愚息が連れてまいったもので間違いないな? で、名は何という?」

「はっ、はいっ! そ、その、ありがとうございます。えっと、名前は……ソラ。ソラ ユヅキっていいます。ソラが名前でユヅヅキが……えぇとぉ……か、家名です」


 ううっ、き、緊張するぅ……。もう着いたと思ったらいきなり王さまと謁見、そのままお披露目だっていうんだもん。こ、心の準備する暇もなかったよぉ……。


 ボクは今、彷遊宮の天井がすっごく高くて、やたら広いホールみたいなところ……謁見の間っていうのかな? そこに着いた早々呼び出され、大勢の臣下の人たちがずらりと居並ぶ中、ライエル王……フォリンのお父さんを前にして自己紹介みたいなことをしてる最中なのだ。

 ボクのちょっと後ろにはフォリンが控えてはいてくれてるけど……、今は衆目の中、王さまと向かい合って二人でお話してる感じになってて、そりゃもう緊張しまくってるのだ。


 ライエル王は、見ためフォリンとそっくりで、はっきり言ってボクにはイマイチ顔の区別はつきにくい。

 とはいっても違うところを見つけることは容易に出来る。たとえば、髪が長くて銀髪なのは一緒でも、フォリンの一本結びに対して三つ編みおさげ、とか、エナメルみたいな銀色のスーツの上に、藤色をした軽い装飾の付いた……ほとんどジャケットみたいな、フードも付いてないローブを着てる、だとか……違うところも多い。

 それにそもそも見た目はともかく、さすが王さまっていうか……その、感じられる雰囲気っていうのがハンパなく重い。フォリンと似ててもその存在感は、言っちゃ悪いけど天と地ほどの差があるような気がする。


 だから結局、すっごく緊張しちゃうわけなのだ。

 

 ちなみにボクのカッコはゴスロリ衣装のまんま。それに翼も出したままでって言われたため、かなり目立ってて浮いちゃってる気がする。

 お披露目ってことでありのままのボクを見てもらうためにそうしないといけないんだってさ……。

 今後も公式な式典や行事があるときはそうしろとも言われた。


 はぁ、でも今後もって……。


 なんかこんなこと、もう二度としたくないって感じなんだけど……やっぱ、そうなっちゃうのかなぁ? お姫さまだもんね……これでも一応……。

 エカルラートの人たちを代表してかなきゃいけなくて……あんましおかしなとこ見せられないってことだよね?


 ボクがそんな余計なことを考えてたら王さまが言葉をかけてきた。


「聞けばそのほう、なかなか面白いことになっておるようだな? ふふっ、初めて聞いたぞ、王玉オーブをその体に取り込み、見事融合に成功させるなどと。

 そのようなこと、オーブを精製し今の形と成ってから千と有余年の中で……初めてのこと――。まこと興味深い。

 それにその恩恵にもそうとうあずかっているようでもあるしの。ここへ来るまでのノルン公との顛末、聞き及んでおるぞ。ノルン公の星船たちを手玉に取ったとか」


「はぇ、は、はい。なんかおかげさまで……その、ボクの命も助かったみたいで……まぁ、良かったというか。それと、そのぉ、手玉にとっただなんて……、ボク、ただ必死だっただけで、みんなフォリンやディアのおかげです」(っていうか、そもそも巻き込まれたことも……だけどね)


 とりあえず、無難なことを答えたボク。

 それにしたって王さまったら、なんかいきなりすごいこと言ちゃってるよ。

 手玉に取っただなんて……、そんなこと言っちゃったら、ちょっと後ろの横に控えてるノルン公が……ああっ、なんかこっちにらんでる気がするよぉ。


 と、ボクがそう思ってたらやっぱ……。


「王よ、これはまた手厳しい。しかし我らが、グラン公、いや、そこのスカーレットの……地球の娘からオーブを、……充分時間的猶予があったにもかかわらず奪取出来なかったのも、また事実。

 まだまだ力不足であると認識させられ、忸怩たるものがあります」


 そうは言ってなんとも不敵な、というか、ふてぶてしいというか、そんな態度を隠しもせず語ってくるノルン公。そして話はまだ続く。


「それにしても、そこの娘。いや娘といっては失礼でありますかな? エカルラートの人類種に姫と崇められるほどの人物ですしな――。

 そして、その姫の能力にはなんとも恐れ入るばかり。グラン公の星船の力もあるとはいえ、さすがはオーブをその体に埋め込み、しかもそれに食われることなく融合に成功しただけのことはある。

 我が策、そして星船をも蹴散らしたその実力! いや、感服した次第」


 うへぇ、この人、言ってることはしおらしいけど……全然反省っていうか……自分のしたこと悪いともなんとも思ってないよね? しかも、あんだけこっちにひどいことしてきたっていうのに……なんかもうこれっぽっちも悪びれたとこないし。


 ――謁見の間、ライエル王が玉座に座り、その面前に左右に別れ並び立つ、臣下である十二族長。その筆頭であるグラン公フォリンの向いに立つ次席であるノルン公ティルン。末席にはフォリンの姉、フェアリンの姿もある。

 そしてノルン公は、今までのあの執拗で、姑息で、最後には大胆というかやけくそぎみの攻撃を仕掛けていたにもかかわらず、いけしゃあしゃあと蒼空を褒める。

 ライエル王もそれをとがめる事も無く、フォリンですら、それをあえて攻め立てることをするわけでもない。


 そんなライエルの……十二族長の感性がまったくもってわからない蒼空。


「うむ。まぁ、双方思うところはゆめゆめあるだろうが……今これをもって、此度の緋色の王玉スカーレットオーブをめぐる争奪戦は終わりとせよ。

 そして……今より、ソラ=ユヅキなる地球の人類種を正式にグラン星エカルラート領の領主と認め、「ソラ=エカルラン=サー=スカーレット=ユズキ」の名を与えることとする」


「「はっ!」」


 ライエル王のその言葉に同意の返事をするフォリンとノルン公。

 そしてボクはといば……、


 はぇ? な、何それ?


 ――いきなりもらったその名前に戸惑いまくりだ。それにしても、な、長い。


<蒼空さん、詳しい説明はまた後ほど。今はとりあえず拝命のためライエル王の御前まで出て、一礼してくださいますか?>

 いきなり交感でボクに語りかけてきた、すごくやさしい感じの、大人の女の人のような声。

<えっ、誰?>

<初めまして、私はこの彷遊宮のマザーコンピュータ、AIのフォートランです。ランとお呼びいただければ結構です。色々お話することはありますが……とりあえずは、さあ、お早く>


 ランさんて、さっきディアが説明してくれた……ディアもかなわないっていうコンピュータ?


<ほら、蒼空さん、早く!>

<う、うん、わ、わかった>


 ボクはまだまだ戸惑いでいっぱいだけど……、とりあえずランさんの指示にしたがって恐る恐るライエル王の目の前まで歩みでてお辞儀をする。


「ソラ=エカルラン=サー=スカーレット=ユズキ。エカルラート領領主として精進するといい。あとだな、我よりそなたにささやかながら贈り物を進ぜよう。近う寄るがよい」


 ちょっとビビリながらも、うやうやしくお辞儀をしていたボクに、王さまが怪しい表情を浮かべながらそんなことを言い、更にボクをそばに呼ぶ。

 そんな様子に辺りが相当ざわめいたけど……今はそんなの気にする余裕もない。


 ううっ、何なの? いったい。


 ボクが王さまの前に出てちょっときょどりながら立ってたら、王さまが立ち上がってボクの前に立ち……その手を伸ばし、指先をボクの額へと当てた。


「はうっ」


 ボクはその行為に一瞬ビクッとし……続いてその額に刺すような痛みを感じ、思わず声を上げてしまった。


「そ、蒼空、どうした? 父上……、い、いや、ライエル王。いったい蒼空に何をしたのですっ?」


 フォリンがいぶかしんだ声で王さまに問いかけてる。でもボクはそんなことすらかまってられない。

 ううっ、一体何なのこれ? すっごく痛いっ! ああん、ズキズキする。

 なんかアタマの中まで痛みがしみこんでくるみたいだ。


「ふっ、案ずるでない、それはソラ姫のために用意した新たなジェネリック船、星船のマスターキーとなる守護石よ。それによって星船と蒼空姫はリンクされた状態となる。よって今後、蒼空姫の身に起こったことから生体情報まで……星船により、あますことなく記録されることとなる。

 これがどのようなことを意味するか……わかるであろう? なぁ、ノルン公?」


「う、なっ、なんのことやら? わかりませんなぁ。――まぁ、領主となられたのです、星船を持つ事もやぶさかではありませぬ。よろしゅうございましたな? 蒼空姫」


 ノルン公が口とは裏腹にすっごく苦々しそうな顔(きっとそうなのっ)してボクに言ってきた。ボクは、星船もらえるって話、うれしいとは思うけど、す、全てを記録って……。

 ちょっと釈然としない気がするぅ。


「あははっ、その、あ、ありがとうございます。そのぉ、これから……お手柔らかに……よろしくお願いします」


 ボク、そう答えるしかないよね? はぁ、やれやれだよ~!



 それにしてもボクのカラダ、また石が増えちゃった。

 額の守護石。

 見た目は縦に細長いひし形で、ラピスラズリみたいに深い深い青色の石らしい。

 これと星船が繋がっちゃうのか……。ボクは額の守護石を指でなぞりながら考える。


 どんな子なんだろ? ディアみたいだったらいやだな? なんて名前かな?


 謁見の間――。

 他の人たちがボクをサカナにまだまだ色々言い合ってる間。


 そんなことを考え、まだ起動してないというボクの星船に会うのが案外楽しみになってきてるボクがいるのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ライエル王を後ろに感じつつ、フォリンの付き添いで十二族長全員に、エカルラート領主として紹介されたあの日。

 ノルン公も表面上はおとなしくお披露目の儀を受け入れていた。

 それ以外の人も概ね、ボクのことを受け入れてくれた。まぁ、オーブがあるから仕方なくだろうとは思うけどさ。(もちろんフェアリンさんは別。すっごくうれしそうに、祝福してくれた)


 そういえばフォリンの立場だけど、やっぱオーブが無くなってしまったことで次期王の座を得る資格を失ってしまったらしい。

 とはいえ、いくらオーブがボクの体内にあるとはいえ、ボクが王さまになるってのも無理があるし。(そもそもなれたとしてもゴメンだけど)

 けど、王さまの口ぶりだとフォリンを次期王さまにするってことにまだ未練があるみたいで、なんかたくらんでそうな気がする。うん、そんな感じがした。


 ま、とりあえずは、フォリンがグラン星の統治者でボクの後見人であることには変わりはないわけで。――正直、次期王さまに誰がなろうがボクにはあんまし関係ないことだし。



 なにはともあれ、無事お披露目は終了したんだし……、ボク、地球へ帰れるのかな?

 早く家族に、春奈に会いたいよぉ!



 でも、そんなボクの切なる望みも、領主に就任したばかりの今の立場では……かなうはずなんて、あるわけ無いのだった。



 でも!


 絶対帰るんだもん!



 絶対だ。



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