第二十二話 星船集団VSチート少女
宇宙空間では本来、空気が無いから音は伝わらない。
でも、もしこれが惑星の大気圏内だったら……今まさにここで繰り広げられている、ディアとノルン公の星船たちの交戦の様子って、きっと凄まじいばかりの衝撃や爆発による破壊音とかで、それはもう耳を潰さんばかりのおっきな音の嵐に違いない。
でも実際はそんな音は当然しない。
目の前で発生するまばゆいばかりの輝きや、毒々しい光の花がいくら発生しても、なんにも聞こえないし、その音の激しさから交戦の様子を掴むなんてことも出来るわけもない。
そう、本来ならば。
でもボクの耳にはまるでそんなのは関係ないかのように……その戦いで今も生じている、巨大な星船が壊れていく……その音が……地上にいるのと寸分たがわない鮮明な音でもって、いやっていうほど聞こえてくる。
なんでもボクの中にインプラントされている、これもナノマシンサイズのスパコンによって……宇宙空間での様子をシミュレートし、対応する音声をボクに認識させているらしいんだけど……。正直微妙な機能だよね? でも、まぁ音があった方が状況も把握しやすいし、いいのかもしれないけど。
っていうか。
ディアは一体ボクに何を求めてこんな体にしたわけ? ほんともうわけわかんないし!
ボクは宇宙に転移されて早々そんなことを思い、ちょっと憤慨しながらノルン公の星船たちによって劣勢を強いられているディアのインスタンス船の様子を確認する。
ジェネ船であるディアを守るように前面に出て防御を続けている3隻の星船。それに対するノルン公の星船たちは12隻。内3隻までもがディアと同じジェネ船だ(ディアによれば旧式の平凡なやつらですってことだけど)
集中砲火を浴び、だんだんとり囲まれつつあるディアたちを見るにあたり、シロウトのボクの目から見ても状況はこちらが劣勢に見える。そしてそれを見たボクの右目には、その状況に対する情報が次々と表示され、ボクにどうすればいいかっていうサポート情報まで表示してくれる。
「よーし、それじゃ支援攻撃をぱぱっとやっちゃって、ささっとこの場から逃げちゃおー!」
ボクはそう言って自分に活を入れ、赤く輝く右目に表示された指示に従い、音叉の槍での砲撃準備に入る。
生き物の存在を一切受け付けない宇宙空間に、真っ白い翼を広げた小さな人間が燐光を発しながら、その手に持った白銀の槍を星船たちに向けて構える姿はすごくシュールに違いない。
「音叉の槍、広範囲攻撃モード!」
ボクは今までと違い、槍から撃ち出すエネルギーを収束させず拡散させて撃つため、そのモードを口にする。すると槍の音叉部分の間口がみるみる広がっていき、その形はもう音叉っていうより弓といった方がいい形に変化を始める。ただし弓の弦がつく方(開口部)が穂先になってて、ボクがエネルギーを充填していくに従い弓のそれぞれの先端からエネルギーが発せられ、それは細い、けど鋭いエネルギーの流れとなり、まさにそこに弦があるかのような状態を作り出していく。
「よーし、エネルギー充填……60%くらいでいいかな? ちょっと痛い思いしてもらうけど……ゴメンしてね? そっちが攻撃してくるのが悪いんだからね?」
ボクは誰に聞かせるわけでもないけど、そんなコトを言いつつも槍にエネルギーを流し込んでいく。
もう、今ではディアとエネルギーラインのリンクをしなくても全く問題ないほどにボクの生体エネルギーはとんでもない量になってる。なにげにエネルギーレベルを確認してみると、どんどんエネルギーを槍に流し込んいるにも関わらず、そのゲージはまだまだ満タンに近い位置にある。それプラス、ゴスロリ衣装からのチャージ分もあるし……もうチートとしか言いようないよね? ボクって。
そしてボクがそうやって砲撃準備をしてると、どうやら向こうもボクに気付いたみたいで、なんかすごい勢いでこっちに向って飛んでくるのがいる。
「うへぇ、あれって以前ディアが月の裏でボクに向けて打ち出してきたサッカーボールモドキじゃん? すっごい数。もう、鬱陶しいなぁ……」
ボクは右目情報を確認しながらそう毒付き、槍のチャージを続けつつも……即座に迎撃の手を打つ。
「プラズマスピアー!」
そうキーワードを言って、左手に細長い槍状になったエネルギー束を作り出し、それを矢継ぎ早に撃ちだす。こちらに向ってきていたサッカーボールモドキは50弱くらい。
プラズマスピアーはプラズマボールに比べ見た目通り、速さと貫通力に特化したエネルギー束で、それはモドキに命中すると、その場で爆発するのではなく、そのまま貫通し、次の標的に向いさらに突き進んでいく。ただ貫通しただけじゃもちろんない。その高エネルギーが通り抜けてただで済むわけないよね? もちろん結果、爆発しちゃうわけで。
それはボクが与えたエネルギーが尽きるまで続く。
打ち出したスピアーは7つだったけど……それでこっちに飛んできてたサッカーボールモドキたちを次々貫通撃破し……あっさり全滅した。
プラズマスピアー、なんかすごいけど……我ながらやーらしい攻撃だなぁ……。
そしてその間に音叉の槍へのチャージも完了。
<よーし、ディア、こっちの砲撃準備できたよ? 撃っちゃうけどかまわない?>
<はい、お任せします。せいぜい盛大にお願いします。それと、砲撃により敵が混乱している間に蒼空を回収、更に私が広範囲攻撃を一度放ち、そのままワームホールに突入しますからその心積もりでお願いします>
<りょーかい! じゃ、そういうことでっ>
ボクは交感を終わらすや否や、その槍に溜め込んだエネルギーを撃ち出すべく、言葉を発した。
「よーし、じゃ、いつものごとく……、いっけ~っ!」
(うーん、なんかしまらないなぁ、もっとかっこいい言葉考えとこ)
ボクの内心の思いはともかく……ボクのその言葉で、エネルギーを充填された槍が反応、その蓄えたエネルギーを、最終的に2m近くまで広がった弓のエネルギーからなる弦より、甲高いちょっと耳が痛くなるような音とともに撃ち出す。
――その放たれたエネルギーはプラズマの束からなる波を形成し、それは進むにつれて次第に大きく成長していく。そこに更に、槍の4枚のフィンから出た衛星状のプラズマ塊からエネルギーがその波に向け放出され、更に波が成長し……、色々な色の光が激しく交じり合う波は、ついには荒ぶるプラズマのすさまじい大波となる。
そうしてそれはそのまま弧を描くように広がり、ノルン公の星船たち全てを覆う規模にまで成長し、とうとう目標に到達する。
刹那、ただでさえ激しかったプラズマの波が、まるで岸壁に当たった大波のように……さらに激しくきらめき、凶悪なほどに入り乱れ、エネルギー流がその中で乱舞する。
その中に巻き込まれたノルン公の星船たちは、それまでディアたちに行なっていた攻撃をすることなどさすがに出来なくなり、その激しい衝撃により姿勢や座標を維持することも困難となる。
が、しかしそこはさすが星船たち。
さきほどのサッカーボールモドキたちと比べるのはおかしいとはいえ……、その高エネルギーのすさまじい攻撃を受けて尚、破壊される船たちはいない。
もちろん蒼空が全力では撃ち出していないということもあるが……それにしてもやはり星船を撃破することはそう容易くないということか――。
「な、なにあれ〜っ! 結構壊れちゃうかも? って思いながら撃ったのに……ほとんど被害なし? どんだけ頑丈なのさ? 星船って〜」
(あれならもっと満タンにしてから撃ってもよかったじゃん?)
ボクはちょっとその結果に不満を抱いてたら……、
<蒼空、何をバカなことを言ってるんです? 人間単独で星船をあそこまでかく乱するだけでもすごい事なのですよ? 誇っていいです。それにまぁ、あまり本気を出して被害を出し過ぎると後々面倒です。ですのであれくらいでちょうどいいのです。
では、バイパス回路形成も完了しましたし、戻ってもらいます。いいですね?>
<ううっ、わ、わかった。そ、そうだね。別に破壊しなきゃいけないってわけじゃないんだし……犠牲者だすなんてボクもいやだし……。(なんかボク、だんだん考え、過激になってきてるんだろーか? はうぅ、そんなのイヤだよぉ……)
じゃ、じゃあディア、転移よろしくね?>
そうボクが答えたかと思ったら……その返事を聞くこともなく……ボクはソッコー、ディアへと転移されたのだった。
ボクの攻撃にさらされたノルン公の星船たちは、さすがにディアたちをここまで追い込んだ精鋭? と言える星船たちだったのか、その混乱を早々と収め、再び攻撃に移ろうとしていた。でも今度はディアがそれをさせない。
「先ほどは不意打ちとは言え、この私に損害を与えたことは万死に値します。本来ならその償いを無理矢理にでもさせてあげたいところなのですが……今回はまぁ、仕方ない。足止めだけで手を打ってさしあげます」
ディアの中に戻って早々、聞いたのはこの発言だった。
さっきボクに言ったセリフの舌の根が乾かないうちにそんなことを言うディア。まぁ、気持ちはわかるけど……ほんとに足止めだけで済ます気、あるんだろーか?
「おい、ディア? 頼むから物騒なことは考えないでくれよ? ほら、当初の作戦通り広範囲攻撃を一度だけ放って、さっさとワームホールへ突入だ。頼むぞ?」
フォリンもやっぱボクとおんなじこと思ったのか、そうたしなめながら、作戦の確認も兼ねて言う。
「わかっています。私がそのような私情で行動を起こすAIだとお考えですか? ……では、広範囲攻撃を一度放ったのち、速やかにこの宙域を離脱。しかる後、ワームホールに突入し……そのまま彷遊宮へと向かいます」
ディアはちょっと不満そうな言葉を発した後、淡々とそう告げた。
うーん、その淡白な言い方が逆に怖い。まぁ、さすがにフォリンの言うことを聞かないなんてことはないだろうけど……れ、冷静に、冷静にね? ディア。
それにしても船のコンピュータ相手にそんなこと思っちゃうだなんて、ほんと、つくづく変なコンピュータだよ……ディアってさ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ノルン公の星船たちに一撃を加えたあと、作戦通りまんまとワームホールに突入したボクたちは、けっこう激しい被害を被ったディアのインスタンス船を船内に収容し、ようやく彷遊宮って、フォリンのお父さんであるライエル王が住んでるとこに向ってる。(同じようなサイズの船を船内に収容だなんて……わかってても未だに納得出来ない自分がいる。ほんとわけわかんないよね)
「はぁ、もうなんか疲れちゃったよ。それにしてもボク、今さらだけど……とんでもないことに巻き込まれちゃって、これから先どうなっちゃうんだろ」
ワームホールに突入ししばらくの後、ボクは一人になるべく割り当ててもらってる部屋へと転移し、つかの間のゆったりとした時間を過ごしてる。
で、こうやって一人になると……つい同じことを何度でも考えてしまう自分がいる。その度に同じように考えるけど、結局答えは出ない。
ボクは大きくため息を一つつくと……気分転換と、さっきの疲れを癒すためシャワーを浴びることにする。
着ていたゴスロリ衣装をささっと脱ごうとするけど、これがなかなか手ごわく、うまく脱げない。どこをどう外せば脱げるのか全然わかんないんだもん。それに変な細工もされた衣装だしさ。
よくよく考えるとこの衣装……自分で着たこと無いような気がするし。だって、最初は春奈たちに無理矢理着せられたし、それ以外はいっつも転移能力を使って一瞬でチェンジってやつだったし――。
そもそも最近って、フェリさんたちに任せっきりで自分で着替え、したためしないし……。
ああ、やばいよぉ! ボクほんと、どんどんダメな子になってきちゃってる〜。
ボクはそんなことに気付き愕然とした思いをいだく。
意地になってなんとか脱いで(所詮、ただの服。脱ごうと思えばいつかは脱げるんだもんっ)、ブラを外しパンツも脱ぎ、ハダカになるとボクはようやくディアに用意してもらったシャワー室へと向う。
ふとなにげに振り返るとそこには、脱いだ衣装がポツポツと歩いた順に落ちてる。最後はもちろんちっちゃくてかわいらしいパンツ。……なんでこんなちっちゃなのでお尻が納まるのかなにげに不思議。
はわぁ!
じゃなくって、……こんなとこフェリさんに見られた呆れられちゃう! 春奈に見られたら……ううっ、思いっきりバカにされそう。
これってやっぱ、最近ずっと侍女さん任せになってたせい? なんかもう、まじでダメダメじゃん。
ボクはシャワー室に入ろうとしたその動きを止め、ハダカのまんま、脱ぎ散らかしたお洋服を集めに戻り、それを抱えながらシャワー室へと入る。中にはちゃんと脱いだお洋服を入れるカゴが用意してあった。なんかディア、変なとこが律儀っていうか、凝ってるよね。
「はぁ……、なにやってるんだろ? ボク」
カゴにお洋服を放り込みながらついそんな独り言をいうボク。
「ああん、もう! どうでもいいや。それより早くシャワー浴びちゃお。早くしないとワームホールから出ちゃうよ」
シャワー室に突入し、慌てて蛇口をひねり冷たい水を浴びちゃったものの……ようやく熱めのシャワーを浴びることに成功する。(それにしてもそんなとこまでリアルに再現しなくたってさ。最初からお湯が出るようにしといて欲しいよ……ディアったらさぁ)
ボクは小さな真っ白いカラダに熱いお湯を満遍なく浴びる。こうやって一人でシャワーを浴びることさえ久しぶり。
あーあ、今頃侍女さんたちどうしてるかなぁ? ボク、いきなり出発だったから……きっと心配してるだろうなぁ?
シャワーを浴びながらそんなことを考えつつ、壁面に備え付けられた鏡に映った自分のカラダを見る。
「女の子だ……。あはっ、ちっちゃくって……かわいいや。それに、ほんと真っ白。目は赤と碧だし……ボク、マジで変わっちゃった……な」
ボクのカラダ……、女の子になっちゃったボク。もうこのカラダになって半年以上経ったっけ? フォリンは不老だって言ってたけど、大人になるまでは成長するとも言ってたよね? ほんとにおっきくなるのかな?
背丈も、それに……おっぱいだって全然おっきくなる気配ないし……。
かわいく膨らんだ、微妙な主張をする胸を見て……ボクはそんなことを思ってしまってた。
はっ! まただ。
なんか最近のボク変だ。……ぼ、ボク、べ、別におっぱいなんてこのままでもいいんだもん。
ボクはそんな考えをアタマから追い出そうと、濡れて重くなった長い髪のたれるアタマを思いっきり振る。紫がかったきれいな白い髪が振られ、髪についた水分が周囲に飛び散る。
「もう、ボク何やってるんだろ……」
一人そんな不毛なことを考えつつ、気分を紛らわせるため熱いシャワーを顔から浴び、ひたすらリラックスしようと試みる……そんなボクが居るのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「蒼空、彷遊宮まであと少しだ。これでようやくノルン公の執拗な攻撃からも解放されるという訳だな」
ワームホールを抜けたって知らせを受けたボクは、フォリンの居る場所へと転移してもらい、顔を合わせて早々そんな言葉をかけられた。
「う、うん……そうだね」
ボクはほんとならうれしいはずなのに、さっきまでのことがまだアタマに残ってて、ちょっとうわの空の返事をしちゃった。
「蒼空、どうした? どうも元気がないようだが? 先ほどの戦闘の疲れが残っているのか?」
あちゃあ、やっぱフォリンに気付かれた。異星人のくせに、何気に人の機微に敏感なんだよね。
そういや初めて会ったときは、オタク趣味から地球人のことに詳しいのかと思ってたけど……結局、エカルラートの人たちの存在があったから人類のことも詳しかったってことだったんだよね。ディアにしたって……瀕死のボクを……こうやって生き返らせて……。
「蒼空? おい、大丈夫か?」
「えっ? あ、うん。大丈夫。ご、ごめん……ちょっとまだ疲れてるのかな? えへへっ、なんか楽しみだよっ、彷遊宮ってどんなとこなのかな? でもほんとノルン公て言ったっけ? しつこかったよねぇ。これでほんとに終わりになるのかな? フォリン」
危ない危ない、なんかほんとしっかりしなきゃ。
今さらグジグジ悩んだって……もう元に戻ることなんて無理……なんだし、このカラダで生きていくしかないんだし。
ボクはそうやって無理矢理考えを押し込め、フォリンとの会話に集中しようとした。
そんなボクをじっと見てくるフォリン。
ううっ、なんだろ? このプレッシャー。
「蒼空……。ふっ、そうだな……。あの伯父のことだから、きっとお披露目が終わってしまえば今までのことなんて、まるで無かったかのように……、手のひらを返すがごとくの対応をしてくると思うぞ?」
フォリンは軽くため息をついたように見えたけど……その後は、ごく普通の対応をしてきて……なんだかちょっと聞き捨てならない発言までしてくれた。
「ふぇ? て、手のひら返したようにって……その、何? そのいやな予感満載のその言葉って」
「ははっ、そのままの意味だ。伯父上の二枚舌は相当なもんだぞ? きっとスカーレットの姫である蒼空にも、相当しつこく付きまとってくるかもな? 今までとは別の意味で」
「はぁ? な、何なのそれぇ?」
ボクはまだ彷遊宮についてもいないのに……フォリンのその発言から、これから先のことを想像し……さっきまでの悩みも吹っ飛び、なんかもう彷遊宮に行くのいやになってきちゃったよ。って言っても行かなきゃ行かないで攻撃されちゃうわけだし。
ああ、もう!
なんでボクばっかこんな目に合うの~?
春奈ぁ、助けて~!
そしてボクがそうやって思考の迷宮に入ってる中、ついにディアはその彷遊宮の支配宙域へとたどり着き、ノルン公のマジ執拗な攻撃を無事潜り抜け、ライエル王の居城へとその船体を滑り込ませていたのだった。
今年最後の投稿となります。
読んでいただきありがとうございます。




