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そらリゼーション  作者: ゆきのいつき
21/27

第二十一話 前哨戦

12/18

罰則金⇒賠償金 に変更し、軽い説明文を追加しました。

「なぜだ、なぜあんな人類種の小娘一匹、始末することが出来んのだ? もう時間がない。明日には王のもと、お披露目の儀が執り行われるというのに」


 ノルン公ティルンが、その自身の居城「深藍宮しんらんきゅう」の謁見の間で大きな声で、眼前に控える臣下たちに向って吼えている。

 その外見はライエルの中心種族であるエイム族においては相当大柄な部類に入るであろう、130cmを越える身長を持ち、頭髪はフォリン同様、輝く銀色で、根元から綺麗に編みこまれた髪は腰の上ほどまで伸ばされていて、後ろで細めのリボンで一纏めにされている。

 顔つきは地球人から見ればやはり区別の付きにくいもので、男女の違いはさすがに分かるものの、その年齢を知ることなど不可能に近い。またフォリンやフェアリン同様、人形然とした顔付きで、その容姿はなかなかに区別が付きにくい。強いてあげれば、フォリンより若干目が細く、鋭い感じがする顔つきといえば言えるだろう。


「も、申し訳ございませぬ。なにしろ相手は王玉を取り込み、しかも、どのような奇跡が起こったものか……それが見事に融合しているのです。

 このようなこと過去に一度たりとも聞いたこともなく、まさしくオーブの化身、はたまた申し子と言えるような存在でございまして、こちらの仕掛けた策もことごとく一蹴されておりまして……」

 

 報告する臣下が、どちらかといえば感嘆した表情を浮かべながら話す様子をみて、ノルン公の苛立ちが増す。


「ええい、そのような申し開き、聞きたくもない。お披露目が済み、その地球の女がグランのエカルラート領主に正式に認められてしまっては、こちらから手を出すことがかなわなくなってしまうのだぞ。……今ならまだ奪えばこちらのものと認められのだ。なんとかせよ!」

「は、はい~! し、しかし恐れながら、今やかの者はエカルラートの姫として厚く遇されておりまして、その護衛もなかなかに厳しく、そもそもオーブの力を得たその姫の力たるや……その、グラン公の星船「クラウディア」のサポートもあり、付け入る隙がございませぬ。正直申しまして、手詰まりとなっている次第でありまして……」


 小さな体を更に小さくするようにして報告する臣下。

 それを聞いて苦虫を潰したような表情を(きっと見せている)するノルン公。


「むう~、グラン公がかの辺境の銀河へと赴き、緋色の王玉スカーレットオーブを奪取するチャンスであると……内密に色々画策したにもかかわらず……すべて失敗し、更にはあろうことか、当地の原住民にそのオーブを融合させるなどという、非常識な行動まで起こすとは。

 何ともいまいましい、弟(ライエル王ハーメラン)の息子よ!」


 ――そう、ライエルの各族長の支配する世界において、王玉オーブの所有権はもちろん所有者からの譲渡が主ではあるが、それは絶対ではない。

 今回のように、所有者がオーブを持ちその支配宙域から出た場合、そのオーブはまさに周囲の有力族長、はたまたその支配下の種族から虎視眈々と狙われることとなり、また、それを推奨すらしているのが族国家である「ライエル王国」なのである。

 したがってお互いの族長間では常に緊張感を持った国交が続けられており、アキシオンのメンテナンスによる停止、再起動の際のオーブの貸与には細心の注意と警戒をもってあたっている。

 ……が、もちろん一番奪取されやすい状況になるといえるのだった。(これは当事者星系以外からの攻撃に対する警戒という意味である)

 オーブを奪われるのがいやだからと……貸与を断ることは出来ず、それはオーブを持つ族長の義務となっていて、それを怠る族長が出たとすれば十二族長会議で糾弾されるのは必死であり、そのオーブは全族長により所有権を剥奪されるであろうことは明白である。しかし、ライエルにおいてそのような事態になったことはないようではある。


 ともあれ、そうやって緊張感をもったオーブの所有と奪取が続けられてきたため、結果そのオーブの数は減少していったともいえ……なんとも融通の利かない、しかし争い好きのライエルのエイム族らしい、少し虚しさも混じる行為と言えるのかもしれない――。


「こうなっては致し方ない。……だが、彷遊宮へ入られるまであと一度だけ機会がある。それを活かし、なんとか物にして見せよ! 私の船も使ってかまわん。

 しかし、それでもかなわぬと言うのなら……このティルン、今回のオーブ奪取は潔くあきらめ、その姫とフォリン坊に、厭味の一つでもかけて、溜飲を下げることとする」


 潔く――。


 さんざん色々と、裏から手を回しオーブを奪取しようとしたノルン公のその言葉に……何とも言えない空気をまとう臣下たち。

 もちろんそんな内心はおくびにも出さない。


「ははっ、お心のままに。それでは我らは段取りがございますのでこれにて失礼させていただきます」

「うむ、期待しているぞ」


 臣下共が下がるのを鷹揚に見送り、謁見の間に残ったノルン公ティルン。

 その口からは、それまでの気勢とは異なる、それは深い嘆息が出ることを抑えることはかなわないのであった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「蒼空、長らく待たせして申し訳なかった。ようやく王との謁見の手筈が整ったから、今から「彷遊宮」に向けて出発しよう!」


 ここに来て早、一ヶ月と十四日。

 ようやく待ちに待ったこの言葉をフォリンから聞かされた。


 その間、エカルラートの人たちへのお披露目や空のお散歩、それに街の中を侍女さんたちとお忍びでお買い物に出たり。それはもう、いろんなことをして過ごした。

 ボクはもう侍女さんたちのお世話になりっぱなしのまさにお姫さま生活で、きっと今地球に戻ったりなんかしたら、そりゃもう何も出来ない自信あるっ。

 それと最初のお披露目のときの軌道上からの攻撃以降、何度か同じように攻撃しようとしてきたらしいけど……それはすべて未遂で終わったらしい。


 ほんと懲りないよね、そのフォリンの伯父さんって人。


「うん! もうボク待ちくたびれちゃったよ。早く用件済ましちゃって、えっと、そのスカーレットっていうのがボクの中にあるってこと認めてもらってさ、もう攻撃されないようにしてよ?」


 ボクはクロちゃんと共に、もうディアの中に転移させられてて、ここはすでにグラン星の軌道上だったりする。もうほんといきなりで、フェリさんに挨拶すら出来なかったよ。

 まぁ、フォリンからアリオスさんに通達はしてるってことだから、きっと大丈夫なんだろうけど……いつもいきなりでさっ。

 女の子には色々準備しなきゃいけないこと多いんだから、こんなこと勘弁して欲しいよ。ほんと、失礼しちゃう!


 って、はっ! ボク今何考えてたんだろ? お、女の子にはだなんて……はうぅ。


「蒼空、蒼空? 聞いてるか? 蒼空。君の言う通り、手早く謁見を済ませてティエ家の……伯父上のちょっかいを終わらせよう。今回のちょっかいについては、こちらとしては相当の攻撃を受けたから、それなりの賠償金を受け取ることが出来そうだ。まぁ最初はうまくカモフラージュされてたし被害も相応に出たから、それらが賠償金に取り込めなかったのは非常に残念だが……それでもかなりの収益になりそうで、ディアも喜んでいる」


 ボクはフォリンのその言葉に一気に意識が現実に返った。


「はぁ? 何その賠償金って? つうか、あれが、ちょっかいってレベルなの? いろんな人巻き込んで、サーニャちゃんとか、異世界の人にいっぱい迷惑かけたし、それにその世界の男の人、えっと領主さんだっけ……大変な目にあわせちゃったりしたよね? ボクだって普通だったら何回死んでるかわかんないくらいいっぱい攻撃受けたよね? よね?」


 ボクはフォリンのあまりの言葉に呆気にとられ聞き返した。


「何、あれくらいは族長間の長いオーブ争奪戦の中じゃ日常茶飯事、軽いくらいだと思うぞ? 悪いときはそれこそ、惑星や衛星の一つや二つ、吹っ飛んだこともあったしな? ああ、そういえば私たちの母星も元はと言えばそれが原因で破壊されたんだったな。

 それと……賠償金っていうのは、今みたいに王玉を奪取しにきて……まぁ、不首尾に終わった場合、仕掛けた方は攻撃対象にその損害について賠償しなければいけないってことだ。もちろん、成功すればその限りではない」


「な、なにそれ……」


 ほんとに何気なく、それこそゲーム感覚でそんなことを言うフォリン。母星を破壊って……だ、だめだ、こいつら……ボクの常識を軽くぶっとばしてくれる非常識さだよ。


 やっぱこいつらは異星人。


 どんだけ一緒に居たって……多少気心が知れた気になったとしても……人類じゃないんだもん。所詮は分かり合えることなんて無理なのかもしんない。


 それに比べたら……エカルラートの人たちは、すっごくあったかい。

 はぁ、なんかもう緋炎宮に戻りたくなってきたよぉ。


「フォリン。蒼空の精神状態が非常に低調になってきています。あなたの発言は人類種にとっては多少理解しがたいものであると私は認識します。注意してください。

 蒼空、フォリンの言うことなど軽く流し、これからのことを前向きに考えましょう。そのための協力を私は惜しみませんので」


 はわっ! でぃ、ディアが、ま、まともなことをボクに言ってるぅ! それにもしかしてこれって、ぼ、ボクのこと慰めてくれてるの?


 ボクはディアの言葉に自分の耳を疑っちゃった。


「蒼空。あなた、相当失礼なことを考えていますね? この宇宙で一番のAIで星間宇宙船であるこの私に、その考えは非常に不当であるといえます。訂正し、考え直すことを提案しておきます。

 さぁ、フォリン。そろそろ「彷遊宮」に向け出発しますよ? いいですね?」


「あ、ああ、了解した。出発してくれ。そ、それと蒼空。どうやら私はちょっと言いすぎたらしい。軽率な発言を許してほしい……」


 ディア……やっぱおまえは中二病のコンピュータだよ。でも、人の心も……たまには・・・・わかる、いいやつだよ。

 それにフォリン……あなたもまぁ、悪いやつじゃないんだよね、たぶん。ただ常識の基準がボクらとかけ離れてるだけで……。


 今さらだけど。もうそれについて考えるのはよそう。アタマおかしくなっちゃうよ、ほんと。


「もういいよ。とりあえず出発なんでしょ? もう早いとこ済ましちゃおうよ! そしてボク、地球に帰るんだ! だからがんばるよっ」


 ボクはそう言ってから肩に乗っていたクロちゃんを胸まで下ろし、そしてぎゅっと抱きしめた。


 ボクはすっごい孤独感で押しつぶされそうだ……。


 そんなボクをフォリンがじっと見つめていた。

 フォリンが何を考えてるかなんてボクに知る由もなかったし、知りたいとも思わなかった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ディアがフォリンの支配する恒星系から出て、「彷遊宮」へと繋がるワームホールへ向う途中でそれは起きた。


 ディアに乗っていて初めて感じた、すさまじいばかりの衝撃。


 その衝撃は強烈で、くつろぎきっていたボクは思わずイスから転げ落ち、情けなくも床にはいつくばってしまった。ううっ、カッコ悪い。


 そしてその衝撃は更に続き、結局三度ほど体験させられようやく収まった。


「な、何? なんなの?」


 ボクは何しろ信じられなかった。あのディアに。中二病の気はあるにしても、すさまじいばかりの高性能であるはずのディアに、こんな衝撃を与える存在だなんて……。


「すみません。防御スクリーンを張っていたにもかかわらず、それを突破されてしまいました。それと、敵はワームホールから出現すると同時にジェネ船3隻のツリー形態での攻撃にて、3連射してきたと思われます。私としたことがしてやられました。

 それと……船籍はノルン星。3隻のジェネ船の内、1隻は……ノルン公所有のジェネリック船です!」


 ディアが迅速に、状況の報告をフォリンに行なう。


「そうか。ついにジェネリック船のお出ましか。さすがのお前も、ノルン公直属のジェネ船、3隻、しかもインスタ船とのツリー攻撃では分が悪いようだな?」


 フォリンがこんな状況にもかかわらず普段と変わらない様子でディアと話してる。


「何をおっしゃいますやら。この私をあんなものたちと一緒にされては困ります。とは言うものの確かに状況は非常に悪いです。

 私に攻撃をしかけたジェネリック船3隻のうち、1隻はノルン公のものでしたが、あとは……ノルン公のご子息の船ですね。それと、それぞれに従うインスタンス船が9隻。総勢12隻の艦隊で私たちに攻撃をしかけるとは……なかなかこちらのことを分析してきているようです」


 でぃ、ディアったら、そんなこと言ってて大丈夫なの?


「ちょ、二人とも! そんな余裕かましちゃってて大丈夫なの? ディア、さっきの攻撃、被害なかったの? すっごい衝撃だったよね?」


「なかなか痛いところを突いてきますね? 蒼空。実をいうと、ちょっとまずい状況です。フォリン、先ほどの攻撃によりシールドを突破され、一部エネルギー循環経路が破断したところがあります。それを修復しないとワームホールに入ることは出来ません。もちろん、すぐさま修復作業に入りますが、その間の防御力の低下は免れません。今も私の子供たち(インスタンス船のこと)にフォローさせていますが……可能ならば蒼空の援護が欲しいところです」


 ディアがそう言うと共に周囲の壁面がブラックアウトし、そこにはもう宇宙空間が広がっていた。宇宙そらを埋め尽くすかと思えるくらいに広がる満天の星の海。とってもキレイなんだけど……ボクの右目にイヤでも入ってくる敵星船の情報。

 ディアのインスタンス船がすでに相手と激しい撃ち合いしてるみたいで、いたるところでまばゆい光点が発生してる。

 ディアの子供たち3隻はもちろんとても強力だけど……さすがにジェネ船3隻を含んだ12隻相手だと分が悪すぎ。


「はわわっ、でぃ、ディア! これ、ほんとまずいんじゃない? フォリン? ボク、出たほうがいいの?」


 ボクが慌ててそう聞くと、


「ううん……、まさかここまでしてくるとは。伯父上、開き直ったか? ……ここで蒼空が出て、万が一にでもダメージを受けたら。いや、それより相手に確保などされてしまっては……。ううーん」


 なんかめずらしくフォリンが悩んでる。


「フォリン! どうするの? ねぇってば!」


 ボクの右目には刻一刻と変化する状況が入ってくる。

 やっぱ、ディアの子供たちだけだと、どうしても抑えきれない。広域攻撃を仕掛けても相手のジェネ船に防御され、その庇護の元、カウンターとばかりにインスタ船に攻撃され、少なくない被害が出始めてる。

 ディアの前で健気に守ってるディアの子供たち。


「フォリン、あと5分です。それだけあれば破断した回路のバイパスが完了します。そして一度私が広域攻撃を仕掛け……その間にワームホールへ突入しましょう。そのためにはどうしても蒼空の協力が必要です。決断してください」


 ディアが、あのいつも自信たっぷりなディアがそんなことを言う。あ、いや、ある意味いつも理にかなったことを言ってるディアなんだから……今もそうしてるだけとも言えるかな? それにしたって……、


「フォリン! ボク出るよ? このままじゃディアが傷ついちゃう。それに……ディアの子供たちもかわいそう。いいよねっ?」


 まだ悩んでたフォリンだったけど、ボクたちのその言葉についに意を決したようでついに口を開く。


「よし、5分間だ。蒼空、それだけの間、援護を頼む。

 いいか、決して無茶はしないで、あくまで援護射撃に徹してくれよ? 間違っても相手に確保されたり……その、げ、撃墜などされないように……くれぐれも気を付けてくれ!」


「うん、わかった! 5分だね? ボクがんばるよっ」


 ボクはすまなさそうに、でも、はっきりとそれを口にしたフォリンに笑顔を向け、緋炎宮で着ていた服装……細身のかわいいロングドレスから、久しぶりに着る……すでに懐かしく感じる、春奈が選んでくれた黒いゴスロリ衣装(改)に転移を使って素早く着替えた。

(ほんとの魔法少女だったらここでお約束の変身シーンなんだろうけど……そんなサービス、ボクにはないもんね)


 ――そう思ってる蒼空だったが、実はしっかり転移の間にはラグがあり(これもフォリンこだわりの仕様だ)、とても言葉には表せない……男の子には見せられないシーンが、エフェクト光と共に演出されているのだった――。


 知らないことが幸せなこともある。

 フォリンはソレを見て、一人こんな状況にもかかわらず満足げに頷くのであった。


 そしてそんなこととはつゆ知らず、健気な表情でフォリンを見、そしてディアに……、


「じゃ、行ってくるね!」


 かわいらしいフリル満載の黒いゴスロリ衣装を見にまとった小さくてかわいらしい少女、蒼空。手にはすでに音叉の槍を携え、かわいい顔のその口元をきゅっと引き締め、そう言いうと、その紫がかった白い髪がかすかになびき、……音もなく転移したのだった。



 フォリンはただ一人、それを見送るしかない自分を初めて無力だと感じていた……かどうかは謎である。



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