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そらリゼーション  作者: ゆきのいつき
20/27

第二十話 みんなでお出かけしよう!  ☆

 迷惑千万な銀河規模の兄弟ゲンカに巻き込まれたボク「柚月 蒼空」が、異星人であり族国家「ライエル」の王太子であるフォリンに、ここグラン星に連れてこられてから早一ヶ月が経とうとしてる。

 この星を実質支配している人類種、エカルラート人が治める領土のお姫さまに祭り上げられたボクは、その領主の館である「緋炎宮」でただでさえ慣れない異星での生活に加え、多くの人々に敬われ、かしずかれる日々を送っていた。

 エカルラート領に来てすぐ起こったあの事件、大気圏外からの数度に渡るビーム攻撃をあっさり防御し、傷一つ負ってないボクを見ても人々は恐れるどころか讃えてきて、そのおせっかい度は増していった。

 その筆頭といえば、やっぱ身の回りのお世話をしてくれる……過剰なくらい過保護な侍女さんたちだ。

 ボクが朝起きると、なぜか侍女さんはすでにベッド脇で控えてて……起きる意思を示すと心得たとばかりに身だしなみを整えるため、いそいそとそれは楽しそうにボクの着替えから、洗顔、更にはお化粧まで……元男の子のボクからすればありえない……それはもう女の子らしいっていうか、お姫さまらしい姿へと整えてくれる。

 ロングドレスは動きづらいからイヤだってボクが言えば、次の日にはフリルを控えめにし多少シンプルになった(でもロングドレスは変わらない)細身のドレスを用意してくれる。


 ……女の子の日になったときなんか、もう恥ずかしくて死にそうだった。


 湯浴みで全てを見られて、カラダの隅から隅まで知られてしまってるボクだけど……さすがに、こ、これの世話まで人にやってもらうのにはすっごい抵抗感があったし、実際抵抗もしてみたけど、「姫さまはお気になさることはございません。全てを私たちにおまかせください」とか言われて……結局、すべていいようにされちゃった。


 ふぇーん、お母さん……ボク、やっぱもうお嫁にいけないよぉ。


 そんなこんなで、なんか現実逃避する日が、日に日に増えてく一方だった。


 ……けど次第に、そうやってお世話される生活に慣らされていってしまったのも事実で、最近は侍女さんに何をされても特に気にすることもなくなり、されるがまま……それが生活の一部なんだとあきらめ……自然な感じに受け入れてる自分がいる。


 人は慣らされてく生き物なんだよね。


 はぁ……。ボク、どんどんダメな子になってく気がするよぉ……。



 で、話しは変わるけど……あの事件以来、フォリンたちからボクへの連絡は何もなく、当然フォリンの姿もあれ以来見ていない。

 最初の内は交感でお話を試みたけど、「そのうち連絡するから」、「もう少し待って」の一言であしらわれ……、いらっときたボクはそれ以降、ぜったい自分から連絡なんかとらないと心に決めた。


 攻め手を変えて、アリオスさんに聞いても「存じません」の言葉しか帰ってこないし。


 ほんとみんな勝手なんだから。



 ボクはそんなこともあり、たまに一人になると塞ぎこんだりしてしまう。(もちろん部屋の外には衛士の人が護衛で必ず付いてるけど)


 でもそんなとき、癒してくれるのはクロちゃんだ。

 今だって、


「きゅい」


 かわいく鳴きながら、しょぼくれてるボクのほっぺを舐めてくる。


「あはっ、くすぐったいよぉクロちゃん!」


 ボクはそんなクロちゃんを抱き上げ、そしてやさしく胸に抱きしめる。

 身じろぎしたクロちゃんが尚もボクの顔を舐めてくる。


「クロちゃん、ボクこれからどうなっちゃうんだろ? 不安なの……怖いの……。お家へ帰りたい……お母さんやお父さん……春奈に会いたいよぉ」


 つい弱音を吐いちゃうボク。そして感極まって涙が瞼にたまり、あふれたそれが頬を伝う。

 クロちゃんがその涙をペロっと舐める。ボクはそんなクロちゃんを抱擁から解放し、向かい合わせるように抱き直し見つめる。


「クロちゃん……えへへ、ごめんね。……慰めてくれてありがと!」


 そう言って再びクロちゃんを抱きしめる。


「きゅ、きゅい~」

「あ、ご、ごめん! 苦しかった?」


 ちょっと強く抱きしめすぎちゃったみたい……慌てて緩めるボク。

 前もあったよね……ごめんね、クロちゃん。


 そうやってしばらくクロちゃんを抱きしめていたボクだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「姫さま、最近元気がありません。大丈夫でしょうか?」


 アネットが心配そうな口調で私にそう言ってきます。

 そう、私もここ最近、それは痛いほどに感じていました。そしてそうなるのも当然であることは重々承知しているのです。

 姫さまのご両親は、お生まれになった星で健在、それに妹君もいると聞いています。ですからきっとホームシックにおなりなのです。いくら絶大なお力を持つソラ姫さまとはいえ、まだまだ小さな姫さまは……ご家族やお母様が恋しいに違いないのです。


 なんて不憫な姫さま。

 とはいえ、エカルラートにも姫さまは必要不可欠なお方。


 なんとか姫さまのお心をお癒しすることが出来るといいのですが……。


「ブランシュさん、アルヌーさん、何か姫さまを元気付けるいい案ってないかしら?」


 私はこの際、わらをもすがるつもりでアネットたちに聞いてみました。

 すると案外あっさり、こんなことを言ってきます。


「アリエージュ様、気晴らしならお散歩が一番です! 緋炎宮に降臨なさって以来、まだまともに外にお出になっていらっしゃらない姫さまにはそれが一番じゃないかと?

 それにエカルラート人のお散歩といえばお空のお散歩です。私、絶好のお散歩コース知ってますからご案内します。ね? ね? どうかな? いい 案だと思いませんかっ? フェリちゃ~ん」


 な、フェリちゃんって……ったく、アネットったら。


「ぶ、ブランシュさん、最後、地が出てしまってますよ! お気を付けください。……こほんっ、そ、それはともかく。お空のお散歩ですか……いいかもしれませんね? フェリオラ様に確認をとらなければいけませんが……一度提案してみる価値はありますね」


「わっ、いいね、いいねぇ、お空の散歩! 私もぜひご一緒させていただきたいです~!」

「ふふっ、ね、リーズもそう思うよね~! 久しぶりに三人でお散歩出来るかな? そうだ、ついでに空中庭園でお食事とかいかも? ね? ね? フェリちゃん、いいよね~?」


 こ、この二人……もう公私混同もはなはだしいです。もう立場も忘れてるんじゃないでしょうか? でも、言ってることはなかなかなので、困ったものです。


「わ、わかりましたから落ち着いてください。とりあえずこの話はフェリオラ様に提案してみますから……それまでは他言無用、もちろん姫さまにもです。変にご期待をさせて、もし実現しなかったら困りますから。いいですね?」


「「了解しました! アリエージュ様、ぜひ実現出来るよう、よろしくお取り計らいくださいましねっ」」


 二人が妙に息の合った言い回しで私に答える。はぁ……ほんとこの人たちの相手は疲れます。でも、この件はぜひ実現させましょう!

 これで姫さまが少しでも元気をお出しになってくだされば良いのですが……。

 私はそんなことを考えながら、早速この提案をフェリオラ様にお伝えするため、まだおしゃべりを続ける二人を残し、控え室から退出したのでした。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ほんと? ほんとのほんとにお外、出ていいの?」


 ボクはフェリさんが言ったその言葉に喜びつつも、つい疑いの気持ちがわきあがり問い返してた。


「はい、ほんとうでございますとも姫さま。今日はたいへん天気も良く、空を散歩いただくにも絶好の日和。姫さまにはぜひこの地の景観をお楽しみいただきたく、私どもも準備に力が入りました。それに空中庭園におきましては、お食事の準備もさせております。

 さぁ姫さま、早速ご準備をいたしましょう! 空の散歩となりますと、さすがにそのドレスでは不自由かと思いますので、お着替えを用意いたしております!」


 その言葉を聞いたボクはもうはやる気持ちを抑えるのに一苦労だった。


「うん、わかった! じゃ、早く着替えてお散歩行こっ! ほらフェリさん、早く早くぅ〜」

「ひ、姫さま、わかりましたから手をお放しください。そう引っ張られたままではフェリは何も出来ません」


 ついフェリさんの手をとって引っ張ってしまってたボクを、フェリさんが苦笑いしながらたしなめる。


「えへっ、ごめんなさぁい、でも早く行こうね! ああ、ほんと楽しみだな〜」

「くすっ、姫さま、そのように焦らなくともエカルラートの空は逃げませんから。では、お着替えいたしましょう。

 アルヌーさん、よろしくお願いします」


 フェリさんがそう声を上げると、部屋の隅で控えていたリーズさんが前に出てきて、それはもうすっごくうれしそうな表情をして言った。


「はい、お任せください。 このリーズ、腕によりをかけて姫さまのご衣装を選ばせていただきます~! うふふっ♪」


 ううっ、な、なんかすっごくいやな予感。でも、それでもお散歩は捨てがたい〜。ここは観念してお任せするしかない……。


「よ、よろしくリーズさん、お、お手柔らかにお願い……ね?」


 ボクはそう言って、手ぐすね引いて待っているリーズさんに戦々恐々とした面持ちでもって……その身を任せたのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 フェリさんとアネットさん、そしてリーズさんと共に緋炎宮のおっきなエントランスを出ると、そこには衛士の人たちが両脇に数十人は並んでて、その右手には細長い槍のようなものを支え持ち、ボクの出てくるのを待ってくれていたみたい。(槍はどうやらボクの音叉の槍と同じようなものみたいで、柄の先端近くに四っつの宝石みたいなのがついた羽がでてた。まぁ先端は音叉じゃなくて普通に槍っぽいやつだけど)

 そして、一番手前の衛士さんの脇に立っていたアリオスさんが、ボクたちの前に出てきて恭しくお辞儀をしてくれる。(はぁ、もうそんなことしなくていいのに……ボクは地球人で、しかも、ただの中学生なのになぁ)

 ついそんなことを考えてしまうボクだけど、今更何を言っても変わらないこともわかってる。受け入れるしかないんだもんね……。はぁ、でもほんとメンドクサイや。


「ソラ姫様、本日の空中 庭園までの道すがらにおきましては、くれぐれもお一人でむやみな行動をなされませぬよう、ご自重願いします。もちろん、周囲の警戒は怠ってはおりませんが用心にしすぎるということはございません。あなた様はこのエカルラートの民にとっても大事なお方。 なにとぞご自重くださいますよう、私以下、すべての宮中官吏が望んでおります」


 ううっ、アリオスさん……鬱陶しすぎぃ……。言いたいことはわかるけど、せっかく今から空のお散歩、楽しもうとしてるとこなのに……勘弁してよぉ〜。


「はい、わかってます。ちゃんとアリエージュさんの言うことを聞いて、みなに迷惑をかけないようにします」


 ボクはここ最近で身につけ出したよそ行きの言葉で、アリオスさんの口撃をかわすように答えた。その言葉に、アリオスさんはちょっと眉根を寄せてたけど、すぐボクの方……というよりその隣を見て言った。


「結構です。……アリエージュ、それではこのあとのことはよろしく頼みましたよ。衛士たちも幾人か連れていくと良いでしょう」


 そう言うと後ろに下がりアタマを下げながら、手を前に差し出すようにしてボクたちを外に出るよう促すアリオスさん。

 ……く、悔しいけどそつが無いよね、ほんと。


「心得ております。この身に変えましても姫さまの御身に、何者の手を掛けさせることもさせはいたしません」


 ふぇ、フェリさん……そんな……そこまでしてボクのこと……。

 ボクたちが進むにつれ、衛士さんたちが支え持った槍を、波のように持ち上げて行く中を通り抜けつつ、ボクはフェリさんのその強い想いに戸惑いを覚えてしまう。そして衛士さんたちをくぐり抜けるとフェリさんがそれまでの厳しい表情から一転、やさしい笑顔になり言う。


「さぁ姫さま、ここからはご自分の翼を出していただき、空のお散歩を楽しみましょう! みなさんも準備はよろしいですか? 衛士の方々は周囲の警戒を怠りなく適度に距離をとっての警護をよろしくお願いします」


 その言葉を合図にみんなが一斉に翼を展開し、その音が緋炎宮に響き渡る。ボクももちろん慌てて翼を出す。

 最近、実は翼の展開にキーワードなんて使わなくても出来ることに気がついた。(ヒントはもちろん湯浴みの時の出来事だ。ったくフォリンめ、どんだけ自分の趣味、ボクに押し付けてたんだよっ)

 ボクが翼を広げるとなぜか周りからどよめきが起きる。な、なんなの? 一体……。


 そしてみんなの準備が整ったところで、


「それでは出発しましょう! 姫さま、私の隣へいらしてください。くれぐれも私からは離れないようお願いします」

「うん、わかった。よろしくお願いしますっ」



 こうして、やたらと大所帯になったけど……ようやく、お空のお散歩にこぎつけたのだった。


 飛び上がってすぐ、ボクの周りにはまず三人の侍女さんが小さな三角形を作る感じで一緒に飛んでくれている。あ、もちろんクロちゃんもボクの脇で一緒に飛んでくれてるよ。

 そしてさらにその周囲、だいたい10mくらい離れたところを衛士の人たちがぐるりと輪を描くように飛んでいて、その人数は10人だ。手はさっきも持ってた槍を持ってる。なんかすっごく物々しい感じだし……ちょっと煩わしい。こんなこと言ったら守ってくれてる衛士の人に悪いから言わないけど……正直、なんかあったときはボク、自分で自分の身くらい守れるのに……。


「姫さまっ、やはりそのお召し物お似合いですっ! すっごくおかわいらしいです~」


 そんなことを考えてたらアネットさんがボクのカッコ見て褒めてくれてる。ボクのカッコはリーズさんがあーでもないこーでもないと小一時間近く悩んだカッコなんだけど……。

 上はシフォンっぽい白い長袖ブラウスで袖口や襟はアクセントで紺色になってる。で、その上に緋色?地の縁に白いファー付きのケープを羽織らせてもらってて、飛んだときもあったかそう。(実際はボク、寒さなんてどうってことないけど……雰囲気って大事だよね)

 下はプリーツの入ったキュロットスカートでこれも色は紺、足は当然素肌なんて許されるわけはなく、濃紺のタイツを履かされてる。足元はふくらはぎが半分くらい隠れちゃうファー付きのブーツで決めてる。(キュロットスカートだから飛んでてもパンツ見られないんだもんね、えっへへぇ。まぁタイツ履いてるからどっちにしろ見えないんだけどさ)

 ちなみに長い髪は後ろに流し、毛先近くで一本結びにして、飛んだとき広がらないようにしてもらってる。


「うん、ありがとー! リーズさんが一生懸命選んでくれたんだっ、ね? リーズさん」

「はい~、がんばりましたぁ!」


 ふふっ、リーズさん、うれしそうだなぁ。アネットさんもニコニコだ。

 フェリさんはぁ……ううっ、ちょっと微妙なお顔してる。やっぱさっきのやり取りが尾を引いてるのかな?


「フェリさんっ、楽しもうねっ?」

 

 ボクは思い切ってそう声をかけた。


「は、はいっ、も、もちろんです姫さま。……いかがですか? エカルラートの空は? お気に召していただけましたか?」


 フェリさんがちょっとビクッとして、そして慌ててそう言葉を返してくる。


「うーん、まだ飛び始めたばっかでよくわかんないけど……すっごく自然が多くて……とっても空がキレイで、それに空気もおいしいし……何よりこうやってみんなと一緒にお散歩できてとってもうれしい♪」


 ボクは素直に思ったことを口にした。

 実際、この星は地球と違って地表に都市が大きく広がってるところがない。あってもせいぜい街レベルで、おかげでとっても自然が豊かだ。山も緑がいっぱいで、平野はたぶん何かの畑なんだろうけど……これも一面、緑でいっぱいだ。

 まぁ、人工もそれほど多くないからかもしれないけど……すっごく自然と共存してる感じがして気持ちいい。(まぁ、これはもちろんボクが見える範囲でのことだけど……でも、ディアから見たときの地表も青くってとてもキレイだったし……きっとこの星には公害なんて無縁なんだろうなって思えちゃう)


「そうですか? それは良かったです。私も姫さまとこうして空のお散歩が出来てとてもうれしいです。……さぁ、ここから先、少し速度を上げてみますか? ああ、でも姫さま? なにとぞ手加減のほど、よろしくお願いいたします。私たちは姫さまのように早く飛ぶことはかないませんから」


 フェリさんがようやくうれしそうな顔をして、最後には冗談っぽいことまで言ったりしてる。えへへっ、良かった♪


「わかってるよぉ、じゃ、ちょっとスピードアップだぁ~」

 

 ボクはそう言って、ちょっと速度を上げて飛んでみる。わざとシールドも弱めにして風を感じてみる。


 ほんと、いい気持ち~♪


挿絵(By みてみん)


「「あーん、姫さま待ってくださ~い!」」

「きゅい~!!」


 ありっ? アネットさんとリーズさんが出遅れちゃってる。って、クロちゃんもなのっ!

 あははっ、がんばれ~二人とも~!


 そしてクロちゃんはダメだよっ、空竜のくせにっ!(うーん、ちょっと運動不足なんだろーか? ダイエットさせよっか?)


 そんな感じで、ボクたちは景色を見たり、おしゃべりしたり、じゃれ合いながら、どんどん飛び進めていった。


 そして――、


「姫さま、空中庭園まではもうすぐです。そこでお食事をとることといたしましょう」

「わぁ、いよいよ空中庭園ってとこに着くんだ? どんなのかなぁ? 空中っていうからにはやっぱ空に浮いてるのかなぁ? 案外、地球のとおんなじで、建物の屋上にあるだけだったりして?」

「さぁ、どうでしょう? ……ああ、ほら、言ってるそばから見えて来ました。姫さま、あちらです」


 フェリさんがそう言って指さす方を見つめるボク。

 ボクの視力をなめちゃだめだよ? 特に右目なんて、その気になれば大口径の望遠鏡レベルなんだからね~!


「う、うわぁ~! な、なにあれ? 宮殿みたいにおっきい建物がお空に浮かんでるぅ~!」


 しかもそれは、近づくにつれて更に大きさをましていく。

 もうボクは……その予想の斜め上をいく、あまりの大きさ、壮大さに口を大きく開けて呆気にとられるしかなかった。

 更に近づくにつれ……じっくり見ると、それは地球の古代ローマやギリシャの歴史的建造物にも似た、石作りの三層からなる荘厳な建造物で、それが山状になった地面、ようは斜面に沿って建物が建ってる感じ。大きさは……うん、ドーム球場が二・三個は入っちゃうくらいはありそうだ。そしてこの建物もたくさんの緑地で覆われてる。

 下側はと言えば、まるで地面からもぎ取ったようにギザギザになってて、細かい土とか、ぽろぽろ落ちそうな感じがしちゃうけど……まるで接着剤で固められてるみたいに、ホコリ一つ落ちる気配はない。


 こ、これ、たぶん……実際、地面からもぎ取ったりして造ったんだろうなぁ? なんかスケール大き過ぎっ。


「姫さまっ、ビックリなさいました~? 大きいでしょう。これ、エカルラートの観光名所の一つなんですよっ? これだけ大きい、大質量の建造物を空に浮かべる重力制御は、それはもう大変だって話ですっ。

 あっ、そういえばそれって姫さまも大いに関係ありますよねっ? とんでもないエネルギー食いの重力制御をこうやって手軽に行使出来るのもアクシオンあってのことですもの~」


 アネットさんがわけ知り顔で説明してくれる。


「へぇ、そうなんだ? ボク……まだその辺のことよくわかんないけど……ふーん」


 ボクは素直に感心して聞いてたけど……その話をしてくれたアネットさんといえば。


「アネ~ット! あなたという人は。まだその話についてはこれから姫さまにお話して差し上げるところだというのに! ほんとにもう少し思慮深くおなりになってくださいっ」


 叱られてた。


 フェリさん。あの二人より年下なのに、お姉さんみたいだ。まだすっごく若いのに……大変だなぁ……。


「姫さまぁ、おバカなアネットのことはアリエージュ様にお任せしましてぇ。……とりあえず中で何か甘いものでもお食べになりませんか~? 私、おいしいお店知ってるんです~」


 そんなアネットさんを尻目にリーズさんがボクにそんなこと言ってくる。


「ふぇ? 甘いもの? ぼ、ボクはその大好きだから……その大歓迎だけど……えと……その、リーズさん」


「はい? どうなさいましたぁ? 姫さま」


 急に口ごもったボクを、リーズさんが不思議そうに見てくる。

 そしてボクの目線に気付き、リーズさんはちょっと考え……そして顔色が変わっていく。


 背後には鬼がいた。


「リーズ! あなたまでっ。ほんと、ブランシュさんといい、アルヌーさんといい! もういい加減にしてください! そもそもお二人は……」


 フェリさんの鬼より怖いカミナリが、アネットさんに続きリーズさんにもとうとう落ちた。ボク、分かったことがある。フェリさんがほんとに怒ると、二人の呼び方、名前になっちゃうってこと。

 きっと古くからのお友だちだからなんだろうなぁ……なんかうらやましい。


 でも、ああやって怒られるのはやっぱいやかも?


 空中庭園のやたらおっきな階段状のエントランスに下りて騒いでる、ボクたち四人と一匹。そしてその周りを少し離れて囲むように守ってくれてる衛士の人たち。

 更にその周りを不思議そうに見ている貴族風の人たち。


 なんかすっごく恥ずかしくなってきた。それに衛士の人たちもきっと唖然として……ないな?


 くすっ、これってどうやらいつものことなのかも?

 何はともあれ、出かけるときのちょっといやな雰囲気に比べて……なんか、


「平和だなぁ……」


 いけない、思わず声にだしちゃった。

 それにしても……フェリさんのお小言はまだ続いてる。


 はぁ、お腹空いてきちゃった。ごはん、早く食べたいなぁ……。



『ぐきゅ~』



 やん、お腹の虫、鳴いちゃった――。



なんだか長くなってしまいました……。

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