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そらリゼーション  作者: ゆきのいつき
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第十七話 緋炎宮の侍女さんズ

 フェリさんに案内されたのは、一人で使うにはちょっと広い……とっても豪華なお部屋だった。

 床には見たことないようなキレイでそれでいて派手になりすぎない模様のついた、黄色がかった赤色(緋色ですね)をしたカーペットが敷かれ、入った正面には大きめのバルコニーへと続くガラス張りの扉。そこからは外の日差しがやわらかく差し込み、おだやかな空間を演出してくれてる。

 右側の奥には天蓋付きの大きなベッド。ほんと、お姫さまが使うような上品でどこかかわいらしい雰囲気がして、ボクそんなので寝るのかな? ってちょっとひいてしまった。他にもすっごくおっきくて背の高い鏡が付いたドレッサー? もある。

 テーブルやイスも、つやつやした木目のキレイなとっても高そうなものがしつらえてあって、なんだか落ち着かない気分だ。ベッドの反対側の角には豪華な扉があって、きっとその奥にもお部屋があるのかもしんない。


「あ、あのフェリさん。も、もしかしてボク、このお部屋……使うの?」


 恐る恐る……念のため確認してみるボク。そんなボクの問いかけにちょっと驚いたような表情を見せるフェリさん。


「もちろんです、姫さま! 姫さまにおかれましてはこのようなお部屋ではご満足いただけないかもしれませんが、当緋炎宮においてご用意できる中では、一番のお部屋で……「緋色の間」といいます。スカーレットの姫であらせられますソラ姫さまにお使いいただければ、我ら宮使えの者一同、ご用意した甲斐があったというものです。ぜひお使いいただきたく、切にお願いいたします」


 うう、なんかすっごく丁寧に……そこまで言われちゃうと何も言い返せない……。


 ボクはフェリさんに促されるまま、その豪華なお部屋の住人になるしかないのだった。

 ……とはいえ、その時はまだ豪華ホテルのお部屋に泊まるくらいの軽い気持ちでいたことは確かで……まさか、このあとずっとここで暮らすことになろうとは……つゆほども思っていなかった。


「姫さま、その、まことに恐れ多いのですが……先ほどからずっと気になっておりまして。その、お肩に乗せておられます小動物……それはもしかして……ドラゴンの幼生ですか?」


 お部屋に入り、テーブルに着いてフェリさんが入れてくれた紅茶みたいな飲み物を飲んで人心地ついたところで、フェリさんがおずおずとボクにそんな問いかけをしてきた。


「うーん、幼生?っていうのがどんなのかよくわかんないけど……この子はドラゴンで間違いないよ? 名前はクロちゃんっていうの。ボクの大事なお友だちなの! あの……もしかしてお部屋に一緒にいちゃまずいの……かな?」


 ボクは答えながらも不安になって逆に問い返しちゃった。

 そしてクロちゃんを肩からひざの上に移し、大事に抱きかかえる。ボクの急なその動作に不思議そうな顔をして見てくるクロちゃん。えへへっ、かわいいな。


「い、いえ、そんな! 姫さまの、その……お友だちなのでしたら……ダメなんてことは一切ございませんので! ただ、その、ドラゴンという生き物がとても珍しく……実際に目にしたことも初めてなものですから……」


 フェリさんが慌ててボクの心配を訂正してくれる。良かった。こんなとこに一人で来ちゃって、クロちゃんとも一緒にいられないってなったらボク、寂しすぎだよ。

 それにしてもここの世界にもドラゴンっているんだろーか?


「ふーん、そうなんだぁ。でもこの星にもドラゴンっているんだ? やっぱ、おっきいの? こわい?」


「はい、この星系ではドラゴンは少ないながらも多く星で確認されている種です。当然この星においても、個体数は大変少ないのですが、私たちのが入植する以前……太古の昔よりこの星にはドラゴンが生息しておりまして、神聖な生き物としてこの星のすべての民より敬われています。とはいえ、警戒心が強い彼らの姿を見ることはほとんどかないません。

 姫さまがお抱きになってなられているドラゴンは、とても綺麗な黒い体をして……しかも翼まであるということは空のドラゴン。ほんとにめずらしいです……。こちらのドラゴンは星の大半を占める海に生息しておりまして、その体は濃紺。体長は50mを超える固体も過去には確認されているようです。

 ……ただここ数十年、その姿を見たというものは皆無で、絶滅したのではないか? というのが近年の通説となっております」


 フェリさんがやたら丁寧に詳しくお話ししてくれてちょっとビックリだけど……海に居るドラゴンかぁ……ちょっと会って見たい気もするけど……50mを越えるサイズだなんて、クロちゃんの元の姿よりおっきいや。やっぱ、恐そうだなぁ?


 でも、絶滅しちゃったのなら悲しいことだよね……。ボクはちょっと感傷にひたってしまう。


「思わず長いご説明をしてしまい、申し訳ございません。さぁ、それでは姫さま、長旅でさぞやお疲れでしょう? 湯浴みの準備が出来ておりますので、どうぞこちらへ」


「はえっ?」


 ボクはフェリさんのその一言に一瞬言葉を失った。


 ゆ、湯浴みって? お、お風呂のことだよね?

 ここにもお風呂ってあるんだ? へ、へぇ~。


 現実逃避をしたボクをフェリさんは容赦なく引っ張っていった――。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「なんて綺麗なお肌をされてるんでしょう! きめ細かくて、しっとりとして……ほんとに透けるように真っ白なお肌……。さすが姫さまです」


 フェリさんが、はだかになったボクをなんかうっとりした目で見ながら言った。


 ううっ、お母さん……ボクもうお嫁にいけない……。はうっ!

 な、何考えてるのボク。お、お嫁にだなんて……。


 元男の子なのに……なにげにショックだよぉ。


 ボクは地球から出て以来、ずっと着ていたゴスロリ衣装をたいした抵抗をする余地もなく素早く脱がされ、あっという間に一糸まとわぬ……生まれたまんまの姿にされていた。

 その手際の良さにボクほんともう、為す術もない……。


 緋炎宮の侍女さんオソルベシ!


 ちなみにボクがメイドさんとずっと思ってたフェリさんは、正しくは侍女さんなんだそうで、しかもそれには貴族の娘さんしかなれないらしい。

 フェリさんのミディって名前がその位を表すらしくって、エカルラートの人の間ではけっこう有名な貴族さんらしい。フェリさんはその貴族であるアリエージュ家から行儀見習いのためこの宮に奉公にきてるんだそうだ。


 で、なんでそんなことをボクが知ってるかっていうと……、


 今の状況になったとき、教えてもらったのだ。この状況を作ってくれてる……この子たちに。


「やんっ、くすぐったいよぉ~、お願い、自分でやるから~」


 服を脱がされたボクは、やたらと広い浴場の入り口で控えていた、申し訳程度の薄い衣をまとった二人の女の人に預けられ、またも抵抗する余地もなく連れ込まれて一角にある滝みたいにお湯が流れているところに連れられ、その流れ落ちてくるお湯を体に浴びる。


 久しぶりに浴びたお湯は正直すっごく気持ち良かった。けど、そんな気分も少しの間だけですぐ非常事態になる。だって……、


 ボクを連れてきた二人もお湯を浴びるから、着ていた薄い衣なんてもうスケスケもいいところなんだもん! 二人が二人ともお顔が美人さんなのは当然で、……それよりもなにより、モデルさんのようなプロポーションで、それはもう出るとこが出たうらいやましい……ごほん、女性らしいスタイルで、背の低いボクだとちょうど目の前ににその胸がきちゃって……。ううっ、これって絶対、はだかでいるよりかえって恥ずかしい! もう……色っぽいっていうか、なんというか……ほんとかんべんして欲しいです。


 まぁ、とは言っても別にそれを見て興奮しちゃうとか……もう悲しいくらい全くないんだけど。


 やっぱ女の子になって、ボク、どこか変わっちゃったのかなぁ?


「姫さま、アリエージュ様もおっしゃってましたけど……ほんとにお綺麗で、うらやましいです。それに、私たち・・・の姫さまにお仕え出来るだなんて夢のようです」

「私もです。この星に入植し宮が出来て以来、代々ライエルのスカーレット所有者がこのエカルラートを統治してましたけど……私たちの時代に、こうやって姫さまが降臨なされて……ほんと私たちは果報者ですわ」


 そう言いながらも、あわ立てたスポンジのようなものを手に二人は休みなく動き、ボクはもう恥ずかしさでどうにかなっちゃいそうだった。


「ねぇ、アネットさん、リーズさん、お願い……もう後は自分でやるから……あ、そこ、だ、ダメ、ダメだって~!」


「まぁ姫さま、私たちにさん付けなど……、私のことはアネットとお呼びいただけば結構です」

「私もです。リーズとだけお呼びください。それと……姫さまに自分でお体を洗わせるなど……とんでもないことですわ! ご観念いただき、私たちにすべてお任せいただきますよう♪」


 丁寧に言葉を返してはくれるものの、その表情はなんかすっごくうれしそうで……なんか思いっきり楽しまれてるような気がするぅ!


 ううっ……お、お母さん……、やっぱボク、もうお嫁にいけない……。


 全身くまなく……恥ずかしいとこまですべて……丁寧に洗われちゃったボクは、もうすでに抵抗する気力も無くなり、彼女たちの思うがままに任せてしまってる。そんな中で二人はフェリさんのこと、そして自分たちのこともお話ししてくれたわけ。


 フェリさんが侍女、そしてアネットさんとリーズさんももちろんそう。ただ二人よりもフェリさんの家のほうが位階が上なんだって。

 この緋炎宮で一番高い位階なのは執政官であるアリオスさん。あの出迎えてくれた銀髪の紳士さんはレアルって地位らしい。

 次に偉い地位なのがフェリさんのミディ。で、アネットさんたちの家はその下位であるウェスって位階なんだって。


 とはいえ、要はみんな貴族さんなんだ。なんか一般庶民の出のボクがそんな人たちにこうやってもてはやされちゃっていいんだろーか?

 そんなことを考えて恥ずかしさを誤魔化してたボク。


 そしてようやくその恥ずかしい苦行が終わり、今度はプール並みに広い浴場へと誘われたボク。でも、今までの恥ずかしさもそのお湯で満ちたそれを見れば幸せな気持ちでいっぱいになる。

 やっぱ、日本人ならお風呂だよね!

 

「はぁ~気持ちいい!」


 残念ながら肩までしっかりつかれるような深さはなく、半身浴みたいな感じになっちゃうけど……それでも久しぶりにお湯に浸かってついそんな言葉が口から出てしまう。


「お気に召していただいたようで何よりです。それにしても姫さま。その御髪もとても綺麗ですし、なによりその神秘的な色をした瞳、ほんとうにうっとりしてしまいます」


 アネットさんが、また褒め言葉を語りだす。

 でもそんな言葉ももうどうでもいいくらい、ボクはリラックスしだしていた。


 そしてそんなとき、それは起こった。


 『ふぁさっ』


 そんな絹の衣がすれるような軽い音と共になんだか慣れ親しんだ感覚が背中から伝わる。


「ふぇ?」


 ボクは呆気にとられ気の抜けた声を出す。


「「ひ、姫さま! き、綺麗です……」」


 もう何回聞いたかわかんないくらいの言葉をまたかけてくれる二人。でも今回のは今まで以上に気持ちがこもってる気がする。

 ボクの背中をそれはもう食い入るように見つめる二人。


 二人が見つめてるのは……ボクの翼だった。


 まばゆいくらいに白い……半分透けて見える……そして、きらめく羽毛で覆われた、とってもキレイなボクの翼。


 ボク、キーワードも唱えてないのにどーして翼が展開しちゃったんだろ?

 あとでディアに聞いてみよ。でも……これってたぶんボクがリラックスして気が抜けちゃったせいもあるのかな? ま、いいか、ついでに羽も洗っちゃおっかな? 最近、酷使しちゃったし……。


「あ、あの、驚かせちゃってごめんなさい。なんか勝手に翼、飛び出しちゃった。えへへへ」


 とりあえず、急に出ちゃったことを二人に謝る。


「いーえ、いえ! そんな謝る必要などありませんので! というより、このようにお綺麗な翼、初めて見ました。もう、姫さまってばっ! 何から何までお綺麗で、かわいくって……い、愛おしすぎますっ!」


 今までのかしこまった言葉からすると、ちょっとぶっちゃけた発言と共に、お湯をかきわけボクに思いっきり抱き付いてきたアネットさん。


「あっ、アネットずるい~! 私も~♪」


 そう言って、これもまた勢いよく抱き付いてくるリーズさん。


「はわわぁっ! ちょ、ちょっと、二人ともっ、お、重い、重いよぉ!」


 そうやって抱き付いてきた二人の顔はほんとうれしそうで、ちょっと恍惚とした表情になってる気がする。そしてふとその背中を見やると……、


「ふ、二人とも、せ、背中! つ、翼、翼が生えてるっ!」


 二人の背中からは見事に翼が生えていた。

 も、もしかして翼って、すっごくリラックスしたときとか、異常に興奮して、我を忘れちゃったときとか……そんな場合に、こうやって展開してしまうんじゃなかろーか?


 淡い茶色がかった色をした翼を持つ、アネットさん。そしてちょっと灰色がかり、所々黒っぽい色の入ったリーズさん。

 翼ってやっぱ、人によって色々なんだ?


 それにしても……話はとりあえず聞かされてからわかってたはずなんだけど……やっぱ、実際見ると驚いちゃうよ。だって人の背中から翼だよ?

 自分もそうだとはいえ、やっぱビックリだ。


「ねえ、ちょっと二人ともぉ、いい加減離してよぉ?」


 驚いてしばらく呆然としていたものの、今の状況にはたと気付き、そして小さなボクのカラダにのしかかってる豊満な……二人の感触が伝わってきて……もうなんともいえない心持なボク。


「ねえってば~!」


 つい声を荒げてしまったボク。


「はぁ~ん、もう少し、もう少し姫さまの感触を味あわせてください~♪」

「私もですぅ~♪」


 さっきまでの様子がウソのようにだらしない二人。いや、それまでも十分怪しい行動だったような気もするけど、とりあえず理性を保ってたよね?


「もう、二人ともどうしちゃったの~? 重いってばぁ、それに、は、恥ずかしいからぁ」


「「姫さまぁ、ああん、かわいいです~」」


「ううぅ……」


 ボクはなかなか離れようとしない二人にしびれをきらし、もう実力行使しちゃおうかと思いだしたところにふと気配を感じたボク。


 相変わらず恍惚とした表情でボクに抱きついてる二人はそれに気付かない。


 そしてその気配の主はボクの目の前、大小の綺麗な石で組んであるおっきな浴槽の淵までやって来て……、


「アネーット! リーーズ!」


 高い天井の浴場に、それはもう大きく響きわたる……フェリさんの声。

 そこには仁王立ちして二人をにらむ、恐ろしい顔をしたフェリエル=ミディ=アリエージュ……その人の姿があった。恐い、恐いよ、フェリさん。


 途端、ボクから今までの様子がウソのように飛び跳ねるように離れ、そして今度は二人抱きつくようにして震え上がり……恍惚とした表情から一転、泣きそうな表情の二人。



 こうしてボクは、ようやく二人の抱擁攻撃から解放されたのだった。

 そしてボクはフェリさんは怒らせてはいけない人だと……心の中に書き留めた。


 そしてアネットさんとリーズさんがこの後、フェリさんからた~っぷりお説教を食らったのは言うまでもないことだよね?


 ちなみに二人はフェリさんより二つ年上なんだそうだ。

 貴族社会は位階がすべてなんだろうけど……それにしたって二人とも……弁護も、援護もしようがないです。


 しっかり叱られてください! そして反省してください。


 

 更にちなみに、ボクが二人にそんな大変な目に合わされてたとき。クロちゃんはといえば……。


 おっきな石作りの浴槽で、それは気持ち良さそうに泳いでた。


 く、クロちゃん……おまえってば……。



 久しぶりにプラズマボールぶつけてやろうかって思ったのは、ナイショだ。



まったくお話しが進んでいないという……

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