第十四話 オーブの秘密と新しい友だち
当初12話程度と思ってスタートしてみたものの、いつの間にやら14話。でもあと少しだけ続きます。
「フォリン。例の……ティエ家のジェネリック船ですが、残念ながら補足することは出来ませんでした。拘束した男とのリンクをジャミングするところまでで手一杯で……追い詰めていたインスタンス船も、どうやらドッキングして回収したようで、すでに反応はありません。少しこの第7世界線に渡って来るのが遅過ぎました。……力及ばす申し訳ありません」
めずらしく意気消沈した声で(AIにそんな人の機微があるのかあやしいが)フォリンにそう告げたディア。
「……うん。決定的証拠を掴むチャンスではあったが……まぁ、仕方ない。蒼空のこともあったしな。それにドラゴンや、とりあえず拘束した男に埋め込まれていた偽造王玉……これの偽造元をたどれば、やつらを十二族長会議で糾弾することも可能になるかもしれないし。とりあえずディアはそちらの調査を進めてくれ。
それと、例の件のよろしく頼む。これで更に蒼空の魔法少女らしさが増すってものだ」
真面目な話しをずっとしているかと思いきや、また変なことを話し出すフォリン。
「はぁ、ほんとあなたの地球原住民の文化への染まり具合にも困ったものです。まぁ、協力することはやぶさかではないのですが……。嘆かわしい」
「ディア。おまえからそんなことを言われても何の説得力もないが……。では、今から蒼空にこれまでの経緯を説明しがてら、それも引き渡すからよろしく頼むぞ!」
何をたくらんでいるのか? 怪しさ全開のフォリンとディアなのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
月の裏側。
地球から死角となるその場所に、アレイとそのインスタンス船の3隻が静かに佇んでいる。所属不明船によるインスタンス船の被害の修理も無事終えて、今は何かを待っている状態のようである。
そこに忽然と現れたのは、薄っぺらな長方形をしたなじみの形。実際のサイズは全長400m以上はある巨大な星間宇宙船ではあるのだが、宇宙の中においてはそんなサイズはチリほどの意味ももたないだろう。
まぁ当然のことながら、アレイがまっていたのはディアであった。
ようやく第7世界線よりこの蒼空の世界の地球に戻ってきたディアである。もちろん、迷子になってしまっていた蒼空を伴って――。
「じゃ何? ボクのカラダの中に……その緋色の王玉っていうのが埋め込まれてるっていうの? でもって、それを欲しがってる人たちがサーニャちゃんたちのあの世界まで……追っかけてきて、あの騒ぎを起してくれちゃったってわけ?」
ボクは今、ディアに乗ったときいつも使ってる、お願いして地球風にアレンジしてもらったお部屋(ちょっとしたホテルのお部屋みたいな感じでバス、トイレ付きなのだ)で、フォリンのお話しを聞いてるところなのだ。
「そう、一度死んでしまった君を復活させるためにはどうしても必要なことだった。スカーレットは命の理を司る王玉。それを使えば、消えてしまった命であろうとも、そのありし時の組成状態を認識し再構成をし……元の状態に戻すことが出来る。そしてその効果に終わりはない。オーブに滅びはなく、その存在は世界が無くなろうと消えることはないだろう。そしてそれは宿主である蒼空、今の君にも言えることだ」
フォ、フォリン……なに言ってるの? 何なのソレ。そんなのものがボクに埋め込まれてるだなんて……。それにボクにも言えることって……それ、どういうこと?
ボクはフォリンのそのわけの分からない説明に絶賛大混乱中だ。そしてそんなボクを尻目にまだまだ話しを続けてくフォリン。
「スカーレットは、私たちの世界では非常に希少で代々十二族長が所有し、次代へと引き継がれていた。私の一族であるライエルもその中に入ってて、父であり、我が星系の現在の王でもあるハーメランはウィスタリア(藤色)、そして息子である私がスカーレット(緋色)、姉のフェアリンはアンバー(琥珀色)、まだ若い弟のリシェリンは今は持っていないがゆくゆくは父から相続することになるだろう。
……残り九つのオーブも過去には存在していたそうなんだが、長い歴史の中で行方知れずとなってしまったり(宇宙での事故などだろう)、今回のように簒奪や権謀などによる奪い合いによって……いつしか世の中から消えてしまったものもあったりしてね。
今では我々ライエル一族にしか本物のオーブは存在していない。まぁ、オーブに関しては君の頭の中にもデータとして入ってるはずだから、興味があれば後でじっくり確認してみてくれ」
そこまで言っておいて最後は説明を放り出すフォリン。
「ちょ、ちょっとフォリン、なにげにさっきからとんでもないこと言ってると思うんだけど? お、王さま? フォリンのお父さんが? じゃフォリンは王子さまなの? で、フォリン、そのオーブをボクに使っちゃって大丈夫なの? っていうか、結局ボクはその十二族長って人たちの誰かからちょっかいかけられてるってこと? ああん、っていうか、ボクこれからどうなっちゃうの~?」
もうほんと何がなんだかわかんない!
もうアタマん中、パンクしちゃいそうだよぉ。いくらディアにアタマいじくられちゃったって、わかんないものはわかんないよ!
「そ、蒼空、落ち着いてくれ! ちゃんと説明するから! 冷静に……」
ついつい興奮してしまったボクをなだめようと必死になってるフォリン。
そんなフォリンの隣りにいきなり転移してきた人影。(ほんと転移って心臓に悪いよ。せめて前フリしてほしいよ、ったく)
「まったく。フォリン! あなたがたが後先考えずに行動するからこんなことになってしまうのよ!」
いつもながらいきなり転移してきたのはフォリンのお姉さん、フェアリンさんだった。
ここからはお姉さんも交えての大説明大会が始まった。
ボク、もうアタマ溶けちゃうかと思った……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ボク、そんなの困る。死なない……死ねないカラダだなんて……。そりゃ死ぬのはいやだけど、だからって……不老不死だなんて。……元に戻して? 男の子に戻せとまでは言わないから……せめて普通に家族と一緒に年取って死んでいきたいよ」
二人から説明を受けたボクは、あんまりの内容に愕然とし……ついそんなコトを言ってしまった。
その、反ライエル派? ティエ家の人たちがオーブを狙ってるっていうなら、ボクからそれを取り出してボクを巻き込まないで……フォリンたちだけでやればいいことじゃん。しかも、ティエ家ってフォリンの伯父さんの家だってことだし……。
結局一族の骨肉の争いってやつなわけじゃん? なんなのさそれ!
「蒼空。ほんとにフォリンのバカがあなたに取り返しのつかないことをしてしまって申し訳ないのだけど……。元の姿に戻してあげたいのだけど……。スカーレットを取り出してしまったら、あなたはその姿を維持することは出来ない。
その姿はスカーレットの力によって再構成されたものが基礎になっていて……もちろんディアも色々手を加えて、ナノマシンやピコマシンによる強化もされてるようだけど。どれもこれもスカーレットによって再構成された体があってこそ。抜き取れば即、死が待ってるわ。……それからね、移植とかを考えてもだめなの。そもそもあなたの全身がその再構成の対象になってるから、そう……たとえば脳を体から切り離したとたん、脳は溶けてしまうことになるでしょう……」
フェアリンさんの、その人形じみた表情、そして子供のような姿から発する、ボクにはとても受け入れがたい内容のお話しに絶句してしまう。
じゃあボク、この先どうやって、どうやって生きていけばいいの? お母さんや春奈、お父さんともこんな化け物みたいなカラダじゃとても一緒に生きてけないよ。
年取らないボクと一緒に生きていける人なんて絶対いやしないもん!
ボクは話しをかみ締めればかみ締めるほど、あまりに残酷なその事実に……思わず涙が溢れてきて、それは頬を伝って次々と落ちていく。
「蒼空、ほんとにすまない。ただ、蒼空の体は君の世界ではまだ子供のものだ。だから完全な成体になるまではまだしばらく成長をしていくとは思う。スカーレットはその宿主のピーク、絶頂状態を維持しようとするから、今しばらくは君にも……こう言ってはなんなんだが……ご家族と一緒に居られる時間はあると思う」
フォリンが申し訳なさそうな顔をして(そんな顔をしてるはずだ)ボクにそう言う。
「ボクが大人になるまでってこと……なら、あと5・6年……まぁ、年とっても見た目若い人ってけっこういるし、10年くらい誤魔化せる?」
ううっ、なんか小手先で誤魔化されてるのみえみえだけど……今すぐ死ぬのも絶対いや。
結局受け入れるしか、ボクに選択肢なんてないじゃんか。
「蒼空、私の差し上げたペンダントもぜひ活用してください。あなたがたが何をそんなに悩んでいるのかいまいち理解に苦しみますが、年をとって見せたいのならそのペンダントを使えばとりあえずは誤魔化せるのでは? この先、更に改良を加えることも出来ますし、原住民をだますことなどたやすいことだと思われますが?」
今までずっと黙ってたディアがついに口を挟んできた。確かにペンダントを使えば見た目はばっちり誤魔化せちゃうだろうなぁ? でも改良してくれるっていうからには……、
「じゃあ、今このペンダントの最大の弱点の、触られたら終わりってのもなんとかなるの?」
ボクは、ボクの悩みに無頓着でいつも自身たっぷりなディアに突っ込みをいれてやった。
「おっと、なかなか痛いところをついてきますね? でも蒼空、私を甘く見てもらっては困ります。元々即席で造ったものですから色々機能に制限がついてしまっていましたが……すでにバージョンアップの準備はしっかり整えています。
近いうちに新しいペンダントをお渡し出来ると思います。それを使えば、今蒼空が言った問題も解決出来るはずですのでご期待ください」
「えっ? そうなの。ほんとにそうならすっごいことだよ? ガッコでもみんなに触られないかビクビクしなくて良くなるんだもん。それマジで、ほんと早くちょうだいね? ディア!」
ボクはつい、今の話しのこともほっぽり出してペンダントのことをディアに念押しする。
結局、今のボクには10年も先に起こるであろう心配ごとをずっと悩んでる余裕なんてないのだ。今はそもそも、女の子のカラダになったことすら満足に出来てない状態なんだから……。不老不死にしたって、今はぜんぜん実感わかないし。
きっとこの先、悩むこといっぱい出てくるんだろうけど……今はそんなこと言ったってしかたない。
……なんか妙に割り切って考えてしまう自分に、ディアに色々いじられて、すぐ冷静になれる調整ってやつが効いてるのかな?と思ってみたり。
まぁ、どっちにしてももうボクは引き返すことが出来ないとこにいるわけで。
「「蒼空?」」
フォリンとフェアリンさんが揃ってボクに声をかけてくる。
「うん。もう仕方ないよ……。フォリンやディアが言うようにしばらくは猶予時間もあることだし……これからどうするかはゆっくり考えてみる。とりあえずは今の生活で精一杯だしね。でも、また何かあったら相談にのってね?」
ボクはそう言ってディアに問いかける。
「も、もちろん! 私に出来ることならいかようにも。今でもディアには協力は惜しまないよう言ってあるし、これからも何かあればいつでも相談に乗る。交感も出来るんだから遠慮せず言ってきてくれ!」
フォリンがどこかホッとした面持ちでボクにそう告げる。ふふっ、異星人でもやっぱ焦ったり慌てたりするんだ。そんなとこ、地球人とあんまり変わんないよね。
「蒼空……あなたにこんな思いをさせてしまうなんて、ほんと申し訳ないと思う。この先、フォリンの姉として私も出来ることは協力を惜しまないから……」
フェアリンさんがそう言いながらボクのアタマを撫でてきた。
あはっ、なんかお母さんみたいだけど……背格好がボクよりちっちゃい子供サイズだから……なんかおかしいや。
「うん、ありがとう! フォリン、フェアリンさん、それからディア、これからもよろしくね!」
ボクの言葉に二人は笑顔でボクを見つめてきてくれた。(きっとそう。あれは笑顔で間違いないはずだ……うん)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ちょっと話しが重くなってしまってなかなか言い出せなかったんだが……蒼空。君に見せたいものがある。というかぜひもらって欲しいんだが?」
「はぇ? いったい何見せてくれんの? ボクにもらって欲しい?」
話しがひと段落つき、ディアに出してもらった苺ショートを食べてたら、フォリンがまたなんか怪しいことを言ってきた。一緒になんかのドリンクを飲んでたフェアリンさんもすっごく訝しんだ顔をしてる(に違いない)
「ああ、そうだ。期待してくれていいぞ? じゃ、ディア頼む」
「了解しました。蒼空、泣いて喜んでもらってもいいですからね? では……」
ボクがなおも訳がわからずきょとんとした顔をしてると、目の前になにか転移されてくる。なんかやけにゆっくり……じわじわ現れてくる影……。
「な、何? なんなの? ずいぶん気を持たせてくれちゃって……」
小さいな?
目の前に現れてきた物体。大きさはたぶん30cmあるかないか。黒っぽい……ん? なんか羽ばたいてる?
なおもジワジワ現れてくる……黒いやつ。
「あっ、はわわ~!」
とうとう完全に姿を現した小さくて黒い……羽ばたいてるやつ。
「ど、ドラゴンさん! ううん、ドラゴンちゃん! か、かわいぃ~♪」
それは、なんと、あのドラゴンだった。
でも、あのドラゴンは20m超えるような特大サイズだったのに……この子ったら30cm大。かわいらしい羽をパタパタさせて、大きかったときはちょっと怖かった金色の目も、小さな真珠サイズでくりっとしてて、とってもかわいらしい!
カラダもちょっとずんぐりした感じになっちゃって、おっきい時のスラっとしたかっこよさも良かったけど、なんかホントぬいぐるみをイメージさせてかわいさ倍増だよっ♪
「ちょ、ちょっとディア! こ、これっていったい? この子ってあの、あの世界であったドラゴンだよね? なんでここにいんの? なんでこんなにちっちゃいの?」
ボクは興奮して矢継ぎ早にディアに質問しちゃう。
そして、そうしてる間にも、ちびドラゴンがボクのトコロに寄ってきて、な、なんと、ボクのお顔をペロって舐めた!
いゃ~ん、か、かわいいよぉ~!
「どうやらお互い、気に入ったようですね? そのドラゴンは蒼空もお察しの通り、あの時捕獲したドラゴンです。このドラゴンもフォージェリオーブを埋め込まれてしまいましたので、元の世界に返すわけにはいきません。生態系を崩してしまいかねませんから。それに蒼空に殺すなといわれてしまいましたし……。
まぁ、ティエ家のジェネリック船とのリンクを切ったあとは元来の穏やかな性格のドラゴンに戻りましたし、知能の高いドラゴンですから意思の疎通も可能なはずですよ? どうやらそこの彼は蒼空、あなたに非常に感謝してるようです。
あと、そのサイズにしたのはフォリンの提案です。理由は……」
「もちろん魔法少女といえば、マスコットとなる妖精や、小動物が付き物だろう? そのドラゴンが蒼空と一緒にいればそりゃもう、絵になると思わないか? なぁ、蒼空?」
フォリン……あなたって人は、ほんとに……。
でも。
「理由はともかく、うれしい! ありがとフォリン、ディア!」
そう言ってるそばから、ドラゴンったらボクのお顔をペロペロ舐めてきて、こそばゆいったらない。
ボクはちびドラゴンを見つめ……そして、もうたまらずパタパタ羽を動かしながら浮かんでるその子をがばっと抱きしめちゃう。(相変わらず謎だよね、なんでそれで飛べちゃうの? でもそれを言うならボクもおんなじか? あはは)
始めちょっとビックリしてたちびドラゴンだったけど、その目を細め、素直にそのカラダをボクに預けてノドをゴロゴロ鳴らしてる。
やっぱ、かわいいよぉ!
「想像以上の懐きようだな? やはりこいつも、蒼空があの時自分をかばっていたことを、わかっているのかもしれないな。蒼空、交感してみるといい。会話とまではいかないまでもなんらかの気持ちの伝達くらいは出来ると思うぞ」
「うん!」
ボクはちびドラゴンと交感をかわしてみる。
<……すき……そら……かんしゃ……まもる……そら……>
ど、ドラゴンちゃん……おまえったら……。
<ボクも大好き! これからよろしくね!>
<……うれし……そら……いっしょ……すき……>
ボクはもうほんとにうれしくって、またぎゅっと抱きしめちゃった。
なんかボク、強く抱きしめすぎたのか、小さくクエって鳴き声がして小さな手でボクの腕をパタパタ叩いてきた。
「あ、ご、ごめんドラゴンちゃん」
慌てて緩めるボク。
そういや、いつまでもちびドラゴンや、ドラゴンちゃんじゃかわいそうだ。
「ねえドラゴンちゃん、ボクが名前つけたげるね? いいよね? フォリン」
「ああ、好きにするといいさ、そいつはもう君のものなんだしな」
「うん! じゃあねぇ、えっとねぇ、うんとねぇ……」
ちびドラゴンを見つめながら必死に考えるボク。こんなに必死に考えたのはガッコのテストのとき以来だよ。
うーん……。
「よし、決めた! 君は今からクロちゃん。クロちゃんだからね?」
ボクがそう呼びかけるとクロちゃんが、
「きゅい~」
かわいい声をあげてくれた。
「もうホントかわいすぎだよ~!」
ボクはまたもぎゅっと抱きしめる。(今度はちゃんと手加減したもんね)
そんな蒼空とクロちゃんの様子を見てるフォリンとフェアリン……とディア。
「蒼空って……ネーミングセンス……壊滅的だな?」
「そうね。なんか……見たまんまだわ」
「まぁ、いいではないですか? 蒼空もその……クロちゃんですか? も、納得してるようですから」
微妙にあきれてる二人とディアなのであった。
説明ばっかでつまらない?




