第十三話 さよなら
竜と遭遇した空域から全速力でサーニャちゃんたちの村の上空まで戻り……何気に村を見下ろすと、なんだかたくさんの人が村の中央に集まってる。遠目から見てもなんかあまり言い雰囲気って感じがしない……。
「な、なんだろ? なんか村の人が礼拝堂の前に集まってるっていうか、もしかして無理矢理集められてる?」
ボクはその雰囲気に、慎重に高度を落とし……村の様子を窺う。そしてやっぱり、どう見ても村の人たちは無理矢理集められてるっぽい。
礼拝堂を前に、長剣を持って馬に乗った黒ずくめの……なんだか映画で見るような騎士っぽいかっこした男たちが、村の人たちを囲むようにして等間隔で並んでる。全部で……じゅう……四人ってとこ?
「あっ、礼拝堂の前! さ、サーニャちゃん! それにレオニードさんに……ソフィアさんにユーリー!」
見ず知らずのボクをずっと親切に介抱してくれていたワルツマン家の人たち。その人たちが、黒ずくめの騎士? たちに囲まれてる。しかも……両手はどうやら後ろ手に縛られてて抵抗出来ないようにされちゃってる!
「な、何があったの? どうしてサーニャちゃんたち、あんな目にあってるの? 村の人たちまで集められちゃってるし……」
ボクは戸惑いながらも状況を把握しようと、その黒ずくめの男たちを観察する。そしてその中のひときわ偉そうに構えてる、一人だけ白いマントをまとった男から……例のいやな感覚を感じとれることに気付いた。
竜と比べれば、相当弱いけど……確かに感じる。
「こ、これってディアが言ってた、偽造王玉ってやつの反応ってことだよね。もう! これもディアたちに悪さしてるやつらの仕業ってことなの? じゃ、ボクたちのせいでサーニャちゃんたちがあんな目に?」
集められてる村の人たちの中には、不満を訴えてる人もいるようなんだけど……そんな人たちは思いっきり剣の腹で叩き伏せられてしまってる。まだ切られてないだけマシだけど……。
「くっそう、やつら一体何したいのさ? ボクが目当てなの? なんで村の人たちにあんなことするのさぁ」
そして偉そうにしてた男が……レオニードさんをその一際長い剣で打ち据えた。レオニードさんは、それでもなんとか倒れずに踏ん張ってる。
レオニードさん、あの時のケガもまだ完全に癒えてないっていうのに!
ボクはそれを見て……もういてもたっても居られなくなる。
ボクの気持ちが翼に乗って……光の粒子の濃度が急激に増す。そしてボクの姿はほぼ一瞬って言っていいほどの速さで、村の上空からかき消えた――
『いやー、父さま!』
サーニャの声が礼拝堂前に響きわたった。
いつもの領主さまとは思えない……全身から異様な雰囲気をただよわせ……長剣を無慈悲に……おれの隣りに同じように立たされていた父さんに向け、叩き付けた。
おれはなすすべもなく、父さんが叩き伏せられる姿を見ていることしか出来ない。そしてそんなおれが唯一出来ることは、その領主さまの顔を睨みつけることだけ。
領主さまの顔には、いつもの……理知的でやさしい面影は微塵もなく、その目は空ろで、口元からは荒い息が漏れ、でもどこか苦しそうな表情に満ちていた。
村の人たちを囲むリティニア騎士団の騎士たちも、どこかそんな領主さまに戸惑いの表情を見せてるように思えるけど……騎士たちにとって領主さまの言葉は絶対だ。逆らおうとする元気な村の若い男たちを容赦なく打ち据えてる。それでもみんな剣の腹で叩いてるから、死者が出てないのは幸いだけど……。
突然14人の騎士を引き連れ、村にやってきた領主さまは、おれ達をふくめ、ほとんど全ての村人を礼拝堂前に集めた。すこしでも抵抗するものは容赦なく剣で打ち据えられてる。 ……領主さまは一体、何をなさりたいんだっ?
おれは領主さまの顔を睨みつけつつも、未だにその目的も言わない、正気を失ったかのように見える領主さまに疑問を感じざるをえない。そしてそんな中、領主さまは更に父さんを叩き付けようと、剣を振り上げる。
『『領主さま! やめてください!』』
おれとサーニャが揃って声をあげる。母さんは飛び出そうとするサーニャを必死に押さえようとしてる。いつも優しい母さんの顔は、苦悩にゆがんでる。おれはそれを見てもうガマンできずに、父さんの前に飛び出そうとするけど、
『来るな! 来るんじゃない、ユーリー!』
『と、父さん……』
飛びだそうとしたおれを、怒鳴るようにして引き止める父さん。そして、無情に再度叩き付けられる長剣。いくら腹で叩かれてもその長く重い剣で叩かれれば、ただでは済まないっていうのに……。苦しそうな顔をしつつも、うめき声一つ出さない父さん。
『『『村長さま!』』』
村のみんなもそんな父さんの受けるひどい仕打ちに顔色を変える。
『くくっ、恨むならあの娘をうらむんだな。お前たち、少し前に白い娘を拾っただろう?』
ようやく声を発した領主さまの言葉におれたちは驚く。白い娘って……ソラのこと?
『その顔は、知ってるって顔だな? お前たちはそいつを釣る……エサダ。 ……エサハエサラシクナキサケビ……ワメクガイイ!』
領主さまの様子が更におかしくなり、再び手に持つ長剣を振り上げる。でも、今度は……
『いやっ! やめてぇ!』
サーニャの声がもう悲痛な叫び声に変わる。母さんも目を見開いて、声にならない声をあげる。
領主さまの持つ剣は、90度向きを変え、その刃は父さんに向いている。そしてそれは今までとなんら変わることなく、振り下ろされた。
おれも、母さんや、サーニャも、そして村の人たちも……その後起こるであろう状況を想像し、一斉に声を荒げる。
『『『やめろー!』』』
その時、みんな……一瞬なにが起こったのかわからなかった。
まぶしいばかりの光が溢れていた。
かすかに向こう側が透けてみえる、どこまでも綺麗な……ぴんと伸びあがった白い翼。
そこからは光の粒が、どこからか、まるで空から降ってくる粉雪のように……どこからともなく、止め処もなく現れて、周りの空間をさまよい飛ぶそれで、埋め尽くしてしまう勢いだ。
父さんと領主さまの間に、突然、割って入るかのように現れたその透き通るかのような白い翼を持つ……女の子。
『そ、ソラ……?』
振り下ろされた長剣は、割って入ったソラに当たる寸前、まるでそこに見えない壁があるかのように留まっている。
『ソラちゃん! 天使さま!』
サーニャがさっきまでの悲痛な叫び声から一転、喜びの声をあげる。
天使さまだって? ソラが?
そう言われれば、た、確かに……。
おれは何も無いところに突然現れたソラ、そしてその背中から生えているそのどこまでも神々しい、光の粒子を周囲に撒き散らす、そのきれいな白い翼を見て、思わず納得してしまう。
村の人たちもその姿を見て、ひざまずいてお祈りを始める人まで出てきてる。
『サーニャちゃん、ユーリーくん、遅くなっちゃってごめん。ボクのせいで迷惑かけちゃった……ね』
ソラはそう言いつつ、目の前に留まったままの長剣をその手でつかむ。
すると長剣はみるみるその色を鈍い銀色から、灼熱の赤に変え……ついに、長剣はその形を維持することが出来なくなり……解け落ちてしまった。
『ク、クククッ! アラワレタナ。スカーレットヲモツムスメ。ニンゲンハアマイ。コウスレバカナラズアラワレルトオモッテイタゾ。……ナゼライエルノコセガレデナク、キサマガソレヲモッテイルノカ? ヨクワカランガ、コレハゼッコウノチャンス。イタダカセテモラオウ』
領主さまの手は溶けた剣で焼けてしまい、辺りには肉の焼けた何ともいえない匂いがただよっているにもかかわらず、痛がるそぶりも全く見せず、ソラに向って意味不明な言葉をかけている。
そんな中、ソラがこっちを見て何かを言ったような気がしたかと思うと、おれの手を拘束していた皮ひもが、音も無く消え去っていた。それはサーニャも同じだったようで、
『兄さま! 手が自由になりました。母さまもです。今のうちに父さまを!』
サーニャはそう言うと無謀ともいえる行動で、父さまの方へ駆け出していく。おれも母さんも呆気にとられ、その行動を止めることが出来なかった。
ただ、騎士連中はソラの姿とその後の出来事に気をとられ、おれたちのことに気を回すことすら忘れ、領主さまとソラを見つめたままだ。
おれは慌ててサーニャに付いていき、倒れてしまっている父さんの元へ駆けつけ、領主さまとソラから、離すように父さんを抱えて離れる。
その時、ソラの……宝石のようにきれいに輝く赤い目と、目が合った。
『あとは任せて。村の人たちにもこれ以上迷惑かけないから』
ソラがそう言うと辺りから驚きの声が一斉にあがる。どうやら、騎士たちが持っていた長剣がみんな一瞬で消えてしまったみたいだ。これってみんな、ソラの魔法なんだろうか――
『ククッ、コザカシイマネヲ! ズイブンハヤクモドッテキタトコロヲミルト、ドラゴンハキサマノテキニハナラナカッタヨウダナ? ショセンハ、トカゲ……ヤクニハタタヌカ?』
『うるさい! 罪もない竜や、サーニャちゃんたちをひどい目に遭わせて! それに……その人もどうせお前たちが操ってるんでしょ? 解放しなよっ!』
ボクと白マントの男は相対して、にらみ合うけど……それは一瞬。直後、男のやけどでただれた両手から、ファイヤーボールが出現しそのままの流れでボクに向って打ち出された。
竜が放つファイヤーブレスとはだんちの熱量で、当たるとちょっと熱いかも? もちろんシールドがあるから絶対当たんないけどね。とはいえ、わざわざ当たってやる義理もない! ボクはすかさず飛び上がり、ファイヤーボールをかわす。かわしたと思ったら、また次のがすぐ飛んでくる。その度に縦横無尽に飛びまわってかわすボク。でも……、
「もう、うっとーしぃ! いいかげんにしてよ」
ボク案外、気が短いのかも?
「プラズマボール! 一気に10コ!」
ボクがそう言うやいなや、ボクの周囲に小さめのプラズマボールが10コ現れる。プラズマの高密度なカタマリは、ボクの気持ちを表すかのような激しい光の嵐。さぁ攻撃してやると思ったその時。
<蒼空、ちょっと状況に変化がありました。こちらに敵対勢力のジェネリック船が来ているようです。ただ所在は確認しましたのですぐフォローします。その相対している男は、そこから操っているようですが……じきそれも出来なくして差し上げます。ですのでとりあえず、なんとか破壊しないようにしのいでください。そのものは重要な証拠となりますから>
<ちょ、ちょっとディア。未だになんか状況わかんないんだけど、この人は巻き込まれただけなんだよ?なんとかなんないの?>
交感しつつも、男からの攻撃はひっきりなしだ。ボクはとりあえず出してあるプラズマボールをまず5つほど連続で打ち出してしのぐ。直撃をさけなきゃいけないからめんどくさい。
ボールは男の足元を狙って正確に着弾したけど……そいつも当然動いて逃げる。けっこう素早いな。ほんといまいましい……。
ただ空飛べるようにまではしてもらってないみたい。……でも、このまま自由にさせてたらみんなを巻き込んじゃうし。
<蒼空、その男はフォージェリオーブを埋め込まれています。そうなってしまってはもう二度と分離させることは出来ません。それは体に完全に融合してしまうからです。……もう少しでその男の精神を支配しているAIの制御から遮断しますから……殺すことがためらわれるのであれば……あと少し持ちこたえてください>
<こ、殺すって! ボクにそんな、人を殺すなんてこと出来るわけないじゃん! もう、早くなんとかしてよね!>
もう、しかたない……。大怪我させちゃうかもしんないけど……このままだと、マジ、みんなを巻き込んじゃうし……。
直撃……狙うしか……ない! もうやけだよ。
「いっけー!」
ボクは残ってた5つのプラスマボールを一斉に放つ。
それも、みんなから離れるように誘導しながらね。しかも今度は追尾アリ! 絶対逃がさないんだから。
一つ目から三つ目は誘導するのに使いだんだん広場から川に向って移動させ、四つ目は、なんとかわされて建物に当てちゃった。そして五つ目も……奴ったらファイヤーボールをボクのボールめがけて連射して威力をそぎ……それでもプラズマの方が勝ったけど……直前でまた遮蔽物をうまく使って誤爆させられてしまった。
「うそでしょー! ほんとマジしつこい。こうなったら……念動で動きを抑え込んで……」
ボクは高度を下げ、どこかに潜んでしまった奴を探す。
『ソラちゃん、危な~い!』
「え?」
遠くからサーニャちゃんの声がしたかと思ったその時、背後から思いっきり飛び掛ってきた男。
「あうっ!」
そいつったらボクの首を思いっきり絞めにきた。
そう、これがボクのシールドの唯一の弱点。エネルギーや武器による攻撃なら完璧に防ぐシールドなんだけど……人間が手を出してくる分にはシールドを通過してしまうんだ。もちろんボクが気付いて意識的に防ごうとすれば働くんだけど……今みたいに不意をつかれると……。
「くっ、このぉ」
くっそう相手をなめてた。
索敵……ちゃんとしてなかったから……。
『クククッ、ショセンテキヲコロスコトモデキナイコドモデシカナイ。ソンナヤツニワタシガヤラレルドウリモナイ。ジツリョクダケミタラ、ワタシナド、イッシュンニシテタオセルダロウニ? アマイコトダ、ククククッ』
『くぅ……。……なんてね』
ボクは苦しそうな顔から一転、首をしめられたままニヤリと笑って見せる。
『ナ、ナニッ?』
そして奴の両手の獲物である、ボクの首は……その場からかき消すように居なくなる。
そしてその直後、今度はボクが男の背後に現れて、両手で男の頭を挟むようにして……、
『お休みなさい……白マントのおじさん』
ボクの声と共に、乾いた鋭い音が辺りに響く。
へへっ、電撃を浴びせてやったもんね。
そしてようやく、崩れ落ちる男。
「はぁ、やれやれだよ……」
男が倒れ伏すと同時に、黒い騎士の人たちと村の人たち、そしてワルツマン家の人たちもボクの周りに集まってきた。
どうやらお互い、もう敵対的な行動はとらないみたいだ。っていうか、この男って結局誰だったんだろ?
最後の最後まで事情をよくわかってないボクだった。
そしてそんな中、ディアからの交感……。
<蒼空、男とAIの接続の切断に成功しました……が、すでに終わっているようですね>
ディア……もう、ほんと遅いっつうのっ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あのあと、ディアから、遅過ぎる事情説明を聞き、ここがやはり異世界だったことを聞く。言葉をアタマの中のデータベースでサーチしたときに、ある程度予測は出来てたことっとはいえ……なんてファンタジー。
そしてやっぱ、ボクっておもいっきり! 巻き込まれてるじゃん!
<戻ったら、全て! 何から何まで全て! 説明してよね?>
ボクはほっぺを思いっきり膨らませてディアに抗議する。
でもこれ、はたから見れば独り言いってる怪しい人だよね……。
<蒼空、今回のことは本当に申し訳ないと思っている。重ね重ね、申し訳ない。戻ったら隠し事せず、全て説明させてもらうから許して欲しい>
フォリンがなんとも申し訳なさそうな声でボクに交感してくる。ふふっ、かなり反省してるっぽいや。
<ほんとに、お願いだよ? フォリン、ディア>
<任せてください、蒼空。なんなら三日三晩懇切丁寧に時間をかけて説明することもやぶさかではありません>
<ううっ、でぃ、ディア! 極端すぎだから! 普通に説明してもらえばいいんだからね?>
ボクはディアの言葉に、半ば呆れながら言葉を返す。
<はい、ほんの冗談です。……それよりも蒼空。原住民があなたをずっと見てますよ? どうするんです。正直、あまりここの世界のものと長い間過ごすことは感心できません。不干渉の原則からすでに相当逸脱していますので。蒼空には申し訳ありませんがこの後、この地での事件の記憶は操作し、あなたのことも別のものに置き換え……存在しなかったことにしてしまう予定です>
<そ、そんな……でも、確かにこんな姿のボク、怪しすぎだよね。いっぱい色んな力使っちゃったし……>
ふさぎ込んでしまったボクにフォリンが、
<とは言え蒼空、今はお別れの挨拶してもかまわないから、行ってくればいい。君が去った後に、徐々に……自然な形で記憶の改変を行なうからね>
フォリンの言葉にボクはうつむいてた顔を上げ、
<うん! そうする。じゃ、ちょっとだけ、ちょっとだけ挨拶してくるから、転移はもうちょっとだけ待ってね?>
ボクはあのマントの男とやりあったあと、男と一緒にディアに転移させられちゃって……ワルツマン家の人たちとお別れの挨拶も出来てなかった。
まぁ、かといってあの場に居続けたら……さすがにボク悪目立ちしすぎてたって……自覚もあるから、まぁそれは良かったのかも知れないけど。
村の人やサーニャちゃんたちに、ボクどう思われたのか? ちょっと怖いもん……。
でも、それでも、お世話になった人たちに何も言わずに去っていくことなんて、出来ないよね。ボク日本人だし……お礼は大事だよ、うん。
<ああ、それと蒼空。どうも原住民に君は天使ってことで認識されてるようだから、そのつもりで接触して欲しい。こちらとしてもそのほうが後で情報操作しやすいから、好都合だ。宗教でいう奇跡というのは何かと都合がいいからな? こういう超常的な出来事の場合ね>
な、何それ?
天使って……まぁ、分かるけどさ、でも……。
ちぇ、……もうどうでもいいよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あっ、声がした!」
あの村中を騒がした出来事のあと、忽然といなくなった領主さまと……ソラ。
すでに半日が経つけど、ソラは戻ってこない。それでもサーニャは戻ってくることを信じて、ソラが使っていた部屋の窓から……ずっと外を見続けていた。
父さんは事件の後始末のため、村の人たちとずっと行動していて家にぜんぜん戻ってこない。母さんはケガをしたままで動き回る父さんが心配らしく、ずっと一緒についていってて今はおれたち二人、家に戻ってきてるのだ。
そんな中、ずっとふさぎ込んでいたサーニャが急に元気な声を上げ、おれを見てくる。
『ソラちゃんの声がした!』
またそう言うと、窓際まで走り寄り、窓を開け放ち外を見るサーニャ。
窓の外、サーニャの目線は上を向いてる。おれはその視線を追い、同じようにそこを見る。
そこには……神々しいばかりに輝く光の粒子をまき散らしながら、透けるような白い翼をめいっぱい広げこちらを見てる、最初に会ったときに来てた……黒っぽい上品なドレス?をまとった真っ白な天使……いや、ソラがいた。
『ソラちゃん、どうしたの? こっちへ来て? お家へ戻ってきて』
サーニャが空に佇んだままこちらを見ているソラにそう話しかける。
でも、ソラはこちらにこようとはせず、その特徴的な……左右で色の違う目で、おれたちを優しく見つめるだけだ。
『えっ、お別れ? そんな……せっかくお友だちになれたのに?』
ソラの声がおれたちの頭のなかに直接響いてくる。結構離れてるのに不思議だ。ソラはやはりおれたちとは違う……。そして魔法使いでもない……。
あのあと、領主さま直属のリティニア騎士団の人たちも落ち着いて……村の人たちとも、まぁ多少もめたけど……和解して……そして聞いた話だけど、ソラが使った色んな力。あんな強力で不思議な魔法……見たことも聞いたこともないし、そもそも空を飛ぶだなんてありえないってことを聞いた。
それに一瞬で違う場所に移動したりもしてたし、何よりあの光輝く姿は……やはり彼女は天使さまに違いないって、騎士団の人たちに……ちょっと感動した面持ちで話されてしまった。
確かに見た目はどう見ても天使さまだけど……数日間を一緒に過ごしたおれには、ソラはそんな神さまのような存在じゃなくて……ほんと普通のかわいい女の子って認識のが強い。ちょっと気弱な感じのする、どっちかといえば、守ってやりたくなるような……そんな、そうサーニャと同じ、妹みたいな感じ……。
おれは改めてソラを見る。
相変わらず神々しいばかりの光をまといながら空に当然のように浮かんでる。どういう理屈なのか? その翼はほとんどはばたくこともないのに、ちゃんとその場に留まってる。
『ソラちゃん、ソラちゃんは天使さまなの? もう会えないの?』
サーニャが必死にソラに話しかけてる。でもソラは昨日までのように、もうこの家に入って来てくれる気配はなかった。サーニャと一緒に洗濯してた、あの姿はもう見られないんだろう……。
『サーニャ、ソラはきっと自分の家に帰るんだよ。だから素直にお別れの挨拶……してあげような? せっかくソラも会いに来てくれたんだしさ』
おれの言葉にサーニャがこっちを見てくる。かわいらしい碧い目にはすでに涙がいっぱいにたまってる。
『そんなのいや。せっかく、せっかくお友だちになれたのに。数少ない歳の近いお友だち……が出来たと思ったのに……』
『サーニャ……』
おれはそんなサーニャの頭を優しくなで、ソラを見る。
彼女はサーニャの様子を見て少し寂しそうにしている。きっとソラも別れるのは寂しいんだろう……でも、ソラの居場所はここじゃないってこともよくわかる。
『ほらサーニャ、ちゃんとお別れいいなよ。ソラが困ってる……』
おれの言葉にサーニャはようやく頷き、そして涙で濡れたその目でソラを見る。
ソラは寂しそうにしていた……そのきれいな、でもまだ幼さの残るかわいらしい顔を笑顔に変え、おれたち兄妹を見つめる。
『ソラちゃん! また、また会えるよね? 天使さまにだってお遊びは必要だもんね? 待ってるから……いつでも来てくれるの……待ってるから……それまでお別れだね!』
そんなソラにサーニャが精一杯語りかけ、お別れの言葉を告げる。
そしておれたちの頭にソラの言葉が響いてくる。
『うん! 絶対また会おうね!』
『ソラ、またな! 色々助けてくれてありがとな。父さんの分まで、お礼いっとくよ』
ソラはそんなおれたちの言葉に満面の笑みを浮かべ、小さな手を胸の前で振り……さよならの言葉が再びおれたちの頭に響く。
そして、その姿がジワジワと透けだして……
『ソラちゃん! さよなら! またきっと会いにきてね? 約束だよ』
それを見たサーニャが更に必死に言葉をかける。
ソラは優しい笑顔を浮かべながらも、その姿はどんどん空に溶け込んでいき――
やがて完全に空に同化してしまったかのように……その姿は消えてしまった。
おれとサーニャは、そんな空をしばらくずーっと見つめていた。
ちょっと消化不良?
とりあえず勢いで書きました。
推敲もなしなのでいろいろ残念なところ、あるかもです……。




