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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

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夜の出来事

「努力は認めるが、まだ甘い。もう少し気配を殺す努力をしてみよ」

「気配?」

「うむ。今のままでは攻撃の意思がバレバレじゃ。自然体を作り、動きを気取られにくくしてみよ」


 夕食時。やはり上座に納まった悠華がくすくす笑う。

 ……なるほど。自然体、か。

 俺は彼女に頷きを返しつつ、おかずをゆっくりと口に運んだ。焼き魚に肉じゃが。御尾本家の食事は和食中心で、もとは母さんの実家ということもあり味付けも俺の好みに近い。

 この家で鍛えられたのなら、華澄の料理が上手いのも当然だと思ったり。


「むー。悠人さんがすごく満足げなのが若干悔しいです」

「いや、凛々子さんの料理もとっても美味しいですよ」


 何やら妙なことを口走る凛々子さんに苦笑を向ければ、紗羅が呟く。


「私も、ここのお料理教えてもらった方がいいかな」


 そういえば紗羅が料理をしているところは殆ど記憶にない。朝晩の食事とお弁当は凛々子さんが仕切っているからだ。

 家庭科の調理実習は、卒なくこなしていたような記憶があるけれど。


「それならいつでも私が教えてあげるわよ」

「本当ですか、お義母さま?」


 母さんと紗羅の間にもわだかまりはないみたいだ。ちらりとこちらを見る表情からすると、「こんないい子、悠人にはもったいない」と思われるっぽい。

 あと、紗羅のニュアンスが気になる。内容自体は嬉しいけど、悠華が「まだお主のものと決まっていまい」とか口走っていて怖い。


「ああ、でも。悠人が覚えるのもいいんじゃない?」

「俺? 考えたこともなかったな……」


 生まれた時から母さんがいて、料理をしてくれるのが当たり前だった。父さんもそうしていたから、そういうものだと思っていた。

 でも別に、男が料理をしてはいけない、なんて決まりはない。

 こういう料理を自分で作れるようになったら、楽しいかも。


「俺が母さんから、紗羅が凛々子さんから習えば丁度いいか」

「あら、お二人が両方とも覚えてもいいんですよー」

「……あ、それいいかも」


 紗羅がほわん、とした笑みを浮かべる。

 彼女がどんな光景を思い浮かべたのか、俺にもなんとなくわかった。俺たちが並んで料理をし、傍で母さんや凛々子さんが指導している……そんな感じだろう。

 それは、とても幸せな想像だ。


「じゃあ、もう少し落ち着いたら料理の勉強もしようかな」

「ふふ。絶対ですよー。この耳で聞きましたからね」


 そうして、夕食は和やかなうちに終わりを迎えた。

 女性陣が片づけを始めると、華澄のお父さんが声をかけてくる。


「悠人くん、もうちょっと付き合わないかい?」

「またですか。いいですけど、俺はお茶しか飲みませんからね」


 熱燗のとっくりを掲げて言う彼に苦笑しつつ傍に座り、話し相手になった。

 酒か。俺はどういう酒が好みなんだろうな。

 杏子さんはもっぱらワインやシャンパンを飲んでいるし、父さんはビール派。母さんはたまに焼酎を飲んでいたか。

 こればっかりは飲んでみないとわからないけど、焼いた茸や貝類を肴に日本酒を傾ける、なんて、雰囲気的には憧れる。


「……ん?」


 夕食の片づけがあらかた終わり、華澄のお父さんがお酒を取り上げられた頃。

 ふらりと廊下へ出ていく華澄の姿が目に入った。

 更に、部屋の隅で落ち着いていた悠華が立ち上がり、華澄を追っていくのも。


 ――なんとなく二人の様子が気になった俺は、そっと彼女たちの後を追った。

 追いついたのは屋敷の中庭、小さな池の前だった。月明りの下、言葉を交わす着物の少女たちの姿は、とても絵になっていた。


「少し、羨ましいと思ってしまいました」

「別に羨ましがることもなかろう。その程度の幸福、お主も望めば手に入る」

「そうでしょうか」


 近づくうちに漏れ聞こえてきたのはそんな声。どうやらシリアスな話らしい。

 そういえば夕食の時、華澄は殆ど口を開いていなかったか。もともと口数の多い子ではないものの、輪をかけて静かだったように思う。


「悠か」


 俺の接近に先に気づいたのは、やはり悠華だった。その声に華澄もこちらを振り返る。


「悠人様」


 彼女の綺麗な顔に微笑みが浮かぶが、先程の会話を聞いた後だと、やっぱりどこか寂しそうに見えた。

 俺は彼女の傍まで歩み寄って声をかけた。


「邪魔しちゃったかな」

「いいえ、そんなことは」


 穏やかに首を振る彼女。優しいな。

 だからこそ、余計に苦しんでしまうのだろうけど。彼女の苦しみの原因は俺にも、


「受け止めぬと転ぶぞ」

「え」


 翻る黒衣。華麗な足払いが華澄のバランスを崩し、彼女は俺の方へと倒れこんでくる。

 慌てて受け止めたが、自動的に至近距離で目を合わせる形となった。

 ぱっと目を逸らしつつ、華澄をしっかり立たせてからそっと身を離した。


「ご、ごめん」

「い、いえ」


 お互いに顔を真っ赤にしつつ言葉を交わすと、悠華は何やら含み笑いを漏らす。きっと睨みつけても効果はなさそうだ。


「この通り、男に抱いてもらうのなど容易いぞ、華澄」

「な」

「ゆ、悠華様」


 抱くって。いや、確かに抱き留めたけど。


「わらわなら、悠もお主も、あの紗羅も。まとめてものにするがの」

「一夫多妻どころの騒ぎじゃないな、それ」

「神となった身で、性別だの一夫一妻だのを気にする必要もなかろう」


 まあ、確かにそうなのだろう。あの真夜ですら、子を孕んだことも孕ませたこともあると言っていた。

 悠華はその真夜や真昼と比べて、ずっと人懐っこく見えるのだから。


「全員まとめて面倒見る……って、俺は面倒見られるつもりはないからな」

「ふむ。なら、お主が面倒見るか? 人の身では複数と契りを結べずとも、事実上そうなることはできよう?」

「できるか! 俺にそんな甲斐性はない!」


 ……なんか今、ものすごく残念な台詞を吐いてしまったような。

 後悔しても過去の修正はきかず、悠華はもちろん華澄までがぽかん、と俺を見つめた。


「ある意味、大物というべきか? そこまではっきり言い切るとは」

「悠人様は不思議な方ですね」


 褒められてないよな、これ?


「ありがとうございます」


 と、華澄が微笑んだ。


「やはり華澄は、皆さんを見守らせていただきます」

「そっか。俺は何にもしてないけど、少しでも気が晴れたなら良かったよ」


 華澄が味方についてくれれば鬼ごっこは楽になるが、考えないでおこう。

 少なくとも、悠華を捕まえれば終わるのは変わらないのだ。


「っと、やっぱ駄目か」

「狙いどころは悪くなかったがな。精進を続けてみよ」


 不意に悠華へ飛びついてみたら、やっぱり避けられた。


 * *   *


 華澄たちと別れた俺は紗羅たちの部屋を訪れた。

 目的は杏子さんと世羅ちゃんへ連絡するためにスマホを貸してもらうこと、だったのだが――申し出てみると少し意外な結果となった。


「だったら、これを使って」

「これ、俺の?」


 渡されたのは、俺が悠奈だった頃に使っていた端末だった。別れ際に凛々子さんが言っていたように日用品等はまだ整理されておらず、これも解約しないまま残っていたらしい。

 電源を入れると電池残量が心もとなかったが、それは充電すれば問題ない。


「ありがとう。後で返すから」

「うん。あ、でも、持っててくれてもいいよ」


 うーん。男が使うにはちょっと可愛すぎるからな……。

 ボディは桃色とか桜色系で、形も少し丸っこい。それに、清華のクラスメートたちともアドレス交換をしてしまっているし。

 ともあれ、スマホを持って離れを出た。電話をかけるのに都合がいいのは……やっぱりまた中庭か。


 杏子さんは幸い、数回のコールで電話に出てくれた。

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