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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

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試行錯誤

 屋敷の縁側に三人で座ると、身体からふっと力が抜ける。

 今が春や夏だったら、ここで昼寝するのもきっと気持ちよかっただろう。


「難儀なものじゃな。元の身体に戻るのは念願だったのだろうに、戻ってみたら勝手が掴めず苦労するとは」

「まあな……」


 悠華の言葉にも苦笑を返すしかない。

 実際その通りだ。まあ、約二か月の女の子生活が案外、板に付いていたということで、それはそれで嬉しくもあるし。


「多分、そのうち慣れるとは思う」

「そうだね。もともと男の子だったんだし、すぐ慣れるよ」

「さあて、それはどうじゃろうな……」


 俺の隣でぽつりと悠華。ちょっと待て、それはどういう意味だ。

 むっとしたので、不意打ちで彼女へ手を伸ばすと、身体に触れる前に地面へ飛び降りてしまった。

 なんだか遊ばれているような。

 これまでの攻防を思い返してもそうだ。身体能力がずば抜けている感じはしないのに捕まえられない。

 このまま何の策もなく挑んでいても同じことの繰り返しじゃないだろうか。


 他の方法。

 そう考えて真っ先に思い浮かんだのは紗羅との再契約。

 身体強化した紗羅は俺よりずっと速い。二人分の魔力を全開にすれば、きっともっと速くなるだろう。


「……でも、駄目か」

「? なあに?」

「いや、何でもない」


 紗羅に微笑んで首を振る。

 不義理をやらかしたばっかりで、という意地もあるが、それだけではなく。紗羅に頼りっきりになるのは違うんじゃないかと思うからだ。

 真昼の試練は協力ありと明記があったし、最後の戦いは杏子さんや紗羅、凛々子さんにとっても無関係ではなかった。何より、手段を選んでいて勝てる相手でもなかった。

 けれど今回は違う。男性機能が使えないからって死ぬわけじゃない。

 いや、紗羅が積極的な理由もわかっているし、大きな問題だとも思うが。この鬼ごっこは基本的に俺個人で完結してもいい話なのだ。

 ……って、これ、結局つまらない意地か?


 でも、案外、悠華もそのつもりで仕掛けたんじゃないかと思ったりする。


「ん?」


 本当は何百歳なのか想像もつかない小柄な少女が、尋ねて答えてくれるか怪しいが。

 よし。

 とりあえず、午前中は何も考えずに頑張ってみるか。


「何度やっても同じだと思うが」

「やってみなくちゃわからないだろ」


 自然体で立つ悠華に俺は精いっぱい嘯いてみせた。

 そして……昼食の時間になっても、俺と紗羅は悠華に指一本触れることができなかった。


 *   *   *


「……随分、お疲れのご様子ですね」

「あはは。お蔭さまで、ちょっとね」


 心配そうに眉を顰める華澄に笑顔を返す。……疲労で足が思うように動かないのを誤魔化しながら。

 身体強化が可能な紗羅は幾分かマシな様子だが、それでも表情に疲れが見えた。

 午前中いっぱい動き回った俺たちは、冬だというのに全身に汗をかいていた。


「あの、後でシャワーをお借りしてもいいですか?」

「ええ、もちろんです。離れの浴室をお使いください」


 ……服の中もべとべとで、夜までこのままなのは抵抗あるもんな。

 食事中、少女二人が話すのを聞いてそっと頷く。

 俺も着替えようかな。いっそ紗羅の後にでもシャワーを借りようか。そう思って食事を終えると、凛々子さんに囁かれた。


「お嬢様と一緒にシャワーを浴びてきてはいかがですかー?」

「いや、それはちょっと」

「そうですかー? 今なら間違いも起きませんし、お互い合意の上なら遠慮する必要もないと思いますけどー」


 この人、ちょっと性格変わってないか? いや、素で話せるようになったから羽目を外しているだけか。


「それはそうですけど……。逆に生殺しですよ」

「あー。そういえば『男性機能』って微妙な表現ですよね。いやらしい気分にはなっちゃったりするんですかー?」

「なりますよ。なりますから離れてください」


 背中に軽く胸を押し付けられると辛い。紗羅もむっとして見てるし。

 ……結局、俺は紗羅の後にシャワーを浴びた。汗を洗い流し、すっきりしてから部屋へ戻ると、紗羅が待っていてくれた。


「御尾くん、午後はどうするの?」

「うん。俺は少し作戦を変えようかと思ってる」

「作戦?」

「ああ。このままじゃ駄目そうだから、奇襲を試してみようかと」


 二人で闇雲に挑んでも悠華は平然としていた。つまりただの同時攻撃では無駄。

 何千回、何万回やればまぐれで捕まえられるかもしれないが、それを期待するのもどうだろう。

 だから、悠華の注意が薄くなる瞬間を狙う。

 屋敷内や中庭でのんびりしているところに忍び寄ったり、誰かと会話中を狙ったり。制限時間を設けないと言い出したのは相手の方なのだから、まさか文句が出ることもないだろう。


「そっか。……私はどうしたらいい?」

「紗羅はそのまま続けてくれて大丈夫。あ、それとも疲れてるなら休んでくれても」

「大丈夫」


 俺の言葉を遮って首を振る。


「早く御尾くんを治したいもの。頑張るよ」

「……ありがとう」


 紗羅の気持ちが嬉しい。

 だからこそ、俺も頑張らないと。


 *   *   *


 というわけで作戦開始。

 まずは、午前中と同じように悠華を中庭に連れ出す。ただしフォーメーションは異なり、俺はやや遠巻きに見守るポジションについた。

 それを見た悠華は小首を傾げる。


「少し小細工をする気になったか?」

「まあ、そんなところ」


 俺の返事が終わりきらないうちに、紗羅が動き出した。

 やや前傾姿勢で地を蹴り肉薄する彼女を、悠華はこれまで同様、ぎりぎり捕まらないラインでかわそうとする。

 そこで。


「む」


 悠華が避けた方向に紗羅の手が伸びる。それを避けるため、再度地面を蹴る悠華。それを追うように紗羅も最小限の動作で方向転換する。

 秒単位で互いの位置が移動する、ハイレベルな鬼ごっこが展開された。


「ふむ。悠と二人がかりの時より手ごわいかもしれん」

「うるさい」


 俺も今、同じことを思ったっての。

 ――そう。ぶっちゃけた話、紗羅の身体能力を十二分に発揮するには俺はいない方がよかったらしい。自分と相手だけを見ればいい分、行動が単純化され、対戦に集中しやすくなる。

 ただ、それでも悠華には届かない。一度目の交錯以降は悠華も移動距離を長めに取るようになったので、紗羅のフェイントも効果を発揮しづらい。

 二人の動きを俺はじっと観察し続け、


「ここか……っ?」


 悠華が紗羅の攻撃を避け、こちらに近づいたところで攻めに転じる。

 今なら攻防に集中して警戒が薄くなっているはず。そこへ、とにかく全力で飛びついて指を伸ばす。

 あと三センチ、二センチ、一センチ……。


「っと。残念じゃな」

「御尾くん、大丈夫?」

「ああ、平気」


 すかっ、と伸ばした手が空を切った。俺はそのまますっ転ぶが、厚手の服を着ているので問題ない。

 紗羅もそれをわかっているので、動きを止めずに悠華を追撃した。


 ……足りなかったか。

 二人の攻防を見つつ身を起こす。

 でも、前よりは手ごたえがあった。とりあえずこのまま続けてみようか。

 俺は再び紗羅たちから距離を取りつつ、タイミングを計った。


 *   *   *


 他にも色々「奇襲」を試した。


 紗羅が休憩に入ったところで、悠華の死角から歩み寄って飛びついたり。

 悠華に話しかけ、話が盛り上がってきたところで急に手を伸ばしたり。

 様子を見に来た華澄に悠華が気を取られた隙をついてみたり。

 果ては屋敷の廊下に潜み、通りかかった悠華を襲ってみたり。


 鬼ごっこじゃなかったら絵面的にアウトなことまでやったが、結局、悠華に触れることはできなかった。

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