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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
二章 俺と彼女と天使の企み

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かすかな進展?

 直接的な方法というのは単純だ。

 俺が杏子さんなり深香さんなりに真っ向から尋ねる、ただそれだけ。


「でも、それで教えて貰えるかな?」

「さあな」

「さあな、って……」

「そこまで僕がわかるわけないだろう」


 何を言ってるのか、という顔で肩をすくめられる。


「まあ、可能性は低いかもしれないな。それで答えてくれるようなら、前回の騒動は起きていなかっただろう」

「……うん」

「じゃあ、そこで間接的な方法を使うんですね」


 澪ちゃんの言葉に、慎弥が「そうだ」と頷く。


「悠奈。調べたいことがあれば言ってくれ。可能な範囲で僕たちが調べておこう」

「……いいの?」

「もちろんですよ」


 力強く頷いたのはやっぱり澪ちゃんだった。


「というか、お兄様。もう勝手に調べ始めてますよね?」

「そうとも言うな。まあ、前に調べた続きのようなものだ」


 さすがオカルトマニア。気になったら調べずにはいられないのか。

 ……でも、それはありがたいかもしれない。


『危険を回避するためには近づかない、以上の方法はありません』


 杏子さんに言われたあの言葉が間違いだとは思わない。やっぱり無暗に詮索すべきではないのかもしれない。ただ、


『貴方自身や、あのお嬢ちゃんが優しく大事に扱われてるって本当に言い切れるの?』


 真夜から聞いたあの言葉も頭の隅に引っ掛かっている。

 確かめられるなら、確かめておくのも悪くはない。


「じゃあ、頼んでもいいかな? もし何もわからなかったり、私が知るべきじゃない内容だったら、教えてくれなくてもいいから」

「わかった。調べる内容は?」

「……羽々音家について。杏子さんや深香さんがどういう人なのか、かな」


 羽々音家の事情は深香さんからも少しだけ聞いた。

 でも、本当にそれだけだろうか? 澪ちゃんが言ったように、羽々音家の人間が魔法に通じている理由はわからないし。

 もしかしたらまだ、重要な「何か」が隠れているかもしれない。

 ……例えば、紗羅が疎まれている本当の理由とか。


『とっとと家を出てしまえばいいんです』

『悠奈さん。あなたが今、一番望むことはなんですか?』


 それがわかれば、深香さんや凛々子さんへの答えも出せるかもしれない。


「いいだろう。何かわかったら連絡する」

「ありがとう、慎弥」


 とりあえず、直接杏子さんたちに尋ねるのは保留とした。慎弥たちが何らかの調査結果を出してくれれば、それを以て尋ねた方が話がしやすいはずだ。

 黒崎家を出た俺が屋敷に戻ったのは夕方だった。ちょうど玄関付近にいたらしい凛々子さんが出迎えてくれた。


「お帰りなさいー。寒くありませんでしたか?」

「ただいま戻りました。そうですね、結構寒かったです」


 答えつつ、ふと彼女のメイド姿を見て思う。


「凛々子さんって、メイドの妖怪だったりしますか?」

「何ですかー、それ」


 あっさり流された。「せめて座敷童とか、既存の妖怪にしてください」とのことである。まあ、そりゃそうか。

 サキュバスがいたんだし、そういうのが居てもいいかな、と思ったんだけど。


 それから、あっという間に夜。

 夕食時に「今日から運動着でお願い」と深香さんに命じられた俺は、スポーツウェアの上からジャージを羽織って待った。


「それでは、始めましょうか」

「はい、お願いします」


 特訓開始から一週間。ようやく次の段階に進む時が来たらしい。


「といっても、基本的にはそう変わりませんが。今日からは火の扱いを中心に行っていきましょう」


 これまで多種多様な属性をイメージしていたのを、「火」に絞っていくということらしい。だから念のため、ジャージで全身を保護しておく。火の粉が飛んで火傷でもしたら大変だからだ。

 ……火、か。ちょっと怖い気もするけど、戦闘にはうってつけの属性だと思う。マンガとか見ても割と主人公イメージあるし。


「悠奈さんが火に適性があったのは幸いでした。実は、わたくしの適性も火に偏っていますので」


 同じ属性であれば教えるのも教わるのもやりやすいという。

 拘束なしで椅子に腰かけさせられ、深香さんに背後からそっと囁かれる。


「日常生活で役に立ちづらい属性で、少し残念ですけどね」

「……っ、そうですね」


 耳元で彼女の声を聴くと、どうしてもぞくりとしてしまう。

 ここ一週間の特訓で毎日、何度も何度も聞いてきた声だから。反射的に身体が反応するのだ。


「耳、すっかり弱くなりましたね」

「からかわないでください……」

「ふふ。すみません」


 こういうやりとりにもすっかり慣れた。

 なんだかんだ言って、この人は悪戯以上のことをしてこない。そういう意味では安心して身を預けられる。

 これで妙な性癖さえなければいいのだけれど。


「では――『落ちてください』」


 声と共に、意識が深くに沈む。

 俺はもう、深香さんの一声だけで体内の魔力を感じれるようになっていた。おかげで特訓は多少やりやすくなっている。

 もっとも、平常状態でこれができるようにならなければ実用には程遠い。


「始めます。これから私の言う通りにしてくださいね」

「はい」


 ……右腕を上げ、手のひらを上に向ける。全身にある魔力が手に向かって流していく。集まった魔力は手のひらから外へ吹き出し、同時に小さな火へと変わる、そんなイメージ。

 けれどうまく魔力が集まらない。すると深香さんは静かに指示を出す。


「もう一度、最初から」


 いったんイメージをすべて解除し、最初からやり直す。魔力を集めて火のイメージ、それを何度も繰り返す。

 以降もやはり簡単には成功しなかった。


 一度目と同様、魔力を集めるのに失敗したり。

 魔力を集めても、手のひらから放出できなかったり。

 うまく火に変換できず、くすぶった煙のようなものだけが現れたり。

 一瞬火花が現れたかと思えばすぐに消えてしまったり。


 ようやく、ライターを使ったのと同程度の火を出すのに成功した時には、俺の全身は疲労しきっていた。

 けれど、今の状態では自分の意思で身体を動かせない。

 黙ったまま深香さんの指示を待つと、やがて耳に声が届いた。


「では、今日はここまでにしましょう。私の指示に従って意識を覚醒させてください。……まずは一旦、深い眠りに入ってください」


 そこで身体が楽になり、同時に記憶が途切れた。

 次に気づいた時には意識は鮮明になっていた。閉じていた瞼を開くと、正面に深香さんが立っている。


「お疲れさまでした。気持ち悪いとか、そういうことはありませんか?」

「はい、大丈夫です」


 頷き、彼女に微笑みを返した。


「良かった。……疲れたでしょうから、ゆっくり休んでください。魔力の扱いについては焦っても仕方ありませんから、着実に進めていきましょう」

「ありがとうございます、深香さん」


 片づけを終えて深香さんを見送った時には就寝時刻をだいぶ過ぎていた。

 寝間着に着替えてベッドへ横になり、なんとなく天井へ手を伸ばしてみる。


 ほんの少しずつ特訓は進んでいるけど、まだまだ先は長い。


「紗羅と儀式を再開できるのはいつになるんだろうな……」


 やっぱり少しだけ、彼女との距離が遠くなってしまった気がする。

 ……せめて明日はどこかへ紗羅を誘ってみようか。

 どこがいいだろうかと考えながら、俺はゆっくり眠りについた。

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