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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
二章 俺と彼女と天使の企み

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27/202

早朝の訪問者

「おはようございます、悠奈さん」

「おはよう、世羅ちゃん」


 翌朝、朝食のために食堂へ向かうと、世羅ちゃんが笑顔で挨拶してくれた。杏子さんも見た感じいつも通り。

 ……よかった。昨日のことは尾を引いていないみたいだ。

 既に食堂へ来ていた紗羅と視線を合わせ、軽く頷きあう。


「それじゃあ、いただきましょう」

「いただきます」


 そうして朝食が始まった、のだが。

 半ばまで食べ進めた頃、珍しいことが起こった。

 不意に玄関の呼び鈴が鳴らされ、給仕のために控えていた凛々子さんが食堂を出ていく。彼女はしばらく経った後、微妙な困り顔で戻ってきた。


「どうしたの?」


 顔を上げて問う杏子さんに、凛々子さんは小さく答える。


深香みか様がいらっしゃいました」

「……そう」


 深香、という名前を聞いた杏子さんはため息をつき「通してあげて」と指示を出した。それを受けた凛々子さんが再び退室していく。


「あの、お知り合いですか?」

「ええ、私の妹の娘――紗羅たちから見れば従姉妹に当たる子よ」


 従姉妹か。

 ということは、設定上はその子も俺と親戚同士になるのだろう。顔を合わせることになるなら、挨拶くらいはしておかないと。

 ……話しやすい子だといいんだけど。

 俺がそんなことを考えていると、紗羅がこちらに視線を向けてきた。


「悠奈ちゃん。ご飯、今のうちに食べておいた方がいいと思うよ」

「へ? ああ、うん」


 お客さんが来ると慌ただしくなるから、かな?

 言われた通り、俺は残った食事をできるだけ詰め込む。行儀が悪いが、三十秒と少しの時間で皿の上を空にし、グレープフルーツジュースに手を付ける。

 そこに食堂のドアがノックされた。


「深香様をお連れいたしました」


 凛々子さんに促され、一人の女性が入室してくる。

 大学生くらいだろうか。同年代かそれより下を予想していたが、意外にも大人びた立ち姿に驚いた。服装は清潔感のある、きりっとした装いだ。

 立ち上がった杏子さんに出迎えられると、彼女はにっこりと微笑んだ。


「お久しぶりです、杏子伯母様」

「こちらこそ。……でも、どうしたの? 突然やってくるなんて」

「ええ、少々用事がありましたもので」


 言って、彼女は俺たちの方へと歩いてくる。

 ……え、用事ってこっちに?

 深香と呼ばれた少女は、俺が動揺しているうちに傍までやってくる。テーブルと椅子を迂回し、俺たちの背後で立ち止まると、


「うふふ。こんにちは、世羅ちゃん」


 ――椅子の背もたれ越しに、世羅ちゃんの身体をぎゅっと抱きしめた。

 びっくりしたのか、世羅ちゃんは一瞬びくりと身を震わせる。彼女が視線を上に向けると、深香、さんは満面の笑顔で世羅ちゃんの頭を抱え込む。

 ぎゅー、っと。そんな擬音が聞こえてきそうな抱擁。


「しばらく会いに来れなくてごめんなさい。元気にしていてくれた?」

「は、はい。深香さんもお元気そうで……ふあっ」


 再び世羅ちゃんがぴくんと跳ねる。深香さんが今度は頭を撫で始めたせいだ。

 えっと、なんだろう。両脇にいる俺と紗羅はお邪魔というか、猛烈に蚊帳の外な雰囲気なのだが。

 一方の紗羅はというと、何やら諦めたような表情で椅子に腰かけていた。

 と、深香さんはようやく俺たちの存在に気づいたように、


「あ」


 小さく声を上げて世羅ちゃんを解放した。


「挨拶が遅れて申し訳ありません。こんにちは、紗羅さん」

「……はい。お久しぶりです、深香様」


 にっこりと笑いかけられた紗羅が静かに頭を下げる。

 それから深香さんは俺へと向き直って再び口を開く。


「貴女が悠奈さんですね? わたくしは羽々音はばね 深香みか。貴女にとっても従姉妹、ということになります。以後お見知りおきを」

「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 すっと右手を差し出されたので、こちらも立ち上がって握り返す。併せて軽く頭を下げて友好の意を示した。

 ……うん。まあ、悪い人ではなさそうかな。

 そう思って顔を上げると、深香さんと正面から目が合った。

 彼女の瞳がすっと細くなる。

 まるで品定めをされているような視線に、少しだけぞくっとする。


「ふうん」

「あの、何か?」

「いえ。……案外、悪くないかな、と思いまして」


 具体的に何がどう「悪くない」のだろう。


「深香。用事というのは?」

「ええ。少し、人払いをお願いしてもよろしいですか?」


 杏子さんの声に、深香さんは表情を戻して振り返った。

 ふう、と杏子さんが息を吐く。


「わかりました。……紗羅、世羅、悠奈さん。部屋に戻っていてください」


 そう言われ、俺たちは杏子さんと凛々子さん、それから深香さんを残して食堂を離れた。


「えっと、どうしようか」

「うん。……言われた通り部屋に戻るのがいいと思う。一応、お話が終わるまで外出はお預けだね」

「どっちにしろ、まだちょっと時間も早いしな」


 何しろまだ朝食の時間だったのだ。店も開いていないし、ついでに言えば親戚とはいえ他の家を訪ねるにも早い時間である。


「じゃあ、三人で悠奈さんのお部屋に行こうよ」

「そうね」


 と、世羅ちゃんが言い出し、紗羅も頷いた。自分の部屋に戻るわけじゃないのか。いや、別にいいんだけど。


「……で、あの深香さんって人なんだけど」


 部屋に戻り三人でテーブルを囲んだ後、俺はまず二人に尋ねた。それに答えたのは世羅ちゃんだった。


「お母さんが言ってた通り、私たちの従姉妹ですよ。今、二十歳だっけ」

「二十一歳だよ。夏が誕生日だから」


 ってことは、紗羅さんより随分早く産まれた子供なんだな。杏子さんが旦那さんと結婚するのが遅かったのかもしれない。


「あの人って、その。世羅ちゃんのこと?」

「うん。深香様は世羅のことを溺愛してるの。可愛いものが好きらしいんだけど、その中でも特に」

「へえ。本人は男装したら似合いそうな雰囲気なのにな」


 何の気なしに呟くと、紗羅が「それ、本人に言わない方がいいよ」と苦笑した。


「たぶん気にしてると思うから。本当は女の子らしいのに憧れてるんだよ」

「なるほど。……でも、それなら紗羅に目をつけるだろうに。実は節穴なんじゃ?」

「もう。悠奈さんはお姉ちゃんのことばっかりなんですから」


 ……そう言われても、本当のことだしなぁ。


「そういえば、悠奈さんたちは今日、お出かけするんですか?」

「うん。新しいコートを買いにね」


 すると世羅ちゃんは「へえ、いいですね」と顔を輝かせながら手を合わせた。

 それを見た紗羅が微笑む。


「世羅も一緒に来る?」

「いいの?」


 聞き返した世羅ちゃんはちらっと俺の方を見た。

 うん、別に俺の方も構わない。デートではなくなるけど、世羅ちゃんが相手なら邪魔されたという感情は浮かんでこない。

 頷いてあげると嬉しそうな表情になるが、


「……ううん、そういうつもりで言ったんじゃないから」


 顔を引き締めてそう言った。律儀だなあ。

 そこへ、部屋のドアがノックされた。「はーい」と返事をするとドアが開く。入ってきたのは深香さんだった。


「あら。三人ともここにいらしたんですね。丁度良かった」

「深香さん。お話は終わったんですか?」

「ええ。だから、こちらに悠奈さんたちを呼びに来たの」


 そう言って深香さんは微笑む。

 ……俺たちを呼びに? どういうことだろう、と俺は首を傾げる。

 すると、得意げに立った彼女は堂々と、


「わたくし、しばらくこの屋敷に滞在することになりました」

「……へ?」


 ちょっと意外なことを俺たちに告げた。

 そして、彼女の意外な宣言はそれだけで終わらなかった。


「悠奈さんたちは今日、外出されるそうですね? そちらにはわたくしもご一緒しますので、よろしくお願いします」

「なっ!?」


 マジですか?

 突然の話にぽかん、と口を開けてしまう俺と紗羅。それを見た世羅ちゃんは何やら真面目な表情になりつつ、一同に告げた。


「……だったら、私も一緒に行きます」


 ……一件落着? じゃ、ないよなあ。

 せっかくのデートが、なんだか波乱の様相を呈してきたしまったことに、俺は密かにため息をついた。

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