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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
一章 俺とあの子と悪魔の呪い

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20/202

決着

 夜闇を切り裂く光に目が眩む。思わず顔を覆い、動きを止めると――どん、と正面から強く身体を押された。

 紗羅が俺を逃がした。

 振り返って、視線を真夜から外してまで。


「紗……」


 無数の光が紗羅に向けて飛来した。

 紗羅は視線を戻して必死に防御したようだったが、数が多すぎた。次々と光弾がぶつかり、彼女の身体を焼いていく。


「紗羅!」


 慌てて俺は駆け出した。数歩の距離が遠く、追いつく頃には殆どの光弾は着弾してしまっていたが。

 それでも、幾つかが飛来する前に紗羅の前へ出ることができた。

 せめて残りは俺が受ける。そう覚悟しつつ光弾を待ち受ける。

 しかし、覚悟していた痛みはやってこなかった。着弾の度に不可視の防壁が俺を守り、光弾を防いだからだ。

 紗羅?

 不思議に思って振り返ると、彼女は呆然と俺を見つめているだけだった。

 ならばこれは一体、と考えて気づく。胸のペンダントがぼんやりと光を発している。


 そして、俺は光弾を防ぎ切った。

 最後の一発を防ぐと同時に、ペンダントが完全に砕け散った。それを見た真夜は感嘆の息を漏らす。


「……あら。まだ隠し玉があったのね」

「まあな。……で? そっちもそろそろ息切れか?」


 先の吐息は疲れの表れ――だといいなあと思いつつ挑発すると、苦笑が返ってくる。一応、ある程度は図星ということか。

 ……まあ、勝機が見えるほどの疲労じゃなさそうだけど。

 あらためて紗羅を見る。彼女の傷は真夜の比ではなかった。防寒具に無数の穴が開き、紗羅の白い柔らかな肌に無数の火傷ができているのが見て取れる。

 それでも気丈に立ってはいるが、こんな状態の彼女を戦わせられるか。


「紗羅、傷って治せるのか?」

「できる……けど、そんな事したら攻撃も防御も」

「いいから。できるだけ治してくれ。その間、俺が持ちこたえるから」


 一方的に告げて真夜を振り返る。そうして一歩踏み出すと、そこに真夜の声。


「へえ。なら、防いでみるといいわ」


 再び虚空に生まれる光弾。先ほどより数が少ないのは節約か、あるいは遊んでいるのか。

 一つ。光が瞬く。左足に熱い痛み。

 二つ。右腕と首筋。

 三つ。左腕と右足、脇腹。

 痛い。熱い。焼けたフライパンを皮膚に押し付けられたような感覚。


「……おい。普通この流れだったら一発ずつじゃないのか」

「別にそんな決まりがあるわけでもないでしょう?」

「そりゃそうだけどさ……」


 などと、強がりを言っていなければ耐えられない。

 そこへ更に、四つの光が飛来し――。


「悠奈ちゃん!」


 紗羅の叫び声と共に光弾が空中で消失した。

 馬鹿、治してろって言ってるのに。

 振り返りそう告げる前に、紗羅の腕が俺の胴体に回された。絶対に守る、とでもいうように。

 あるいは――一人では死なせないというように。


「美しい愛情ね。……じゃあ、そろそろ絶望してもらいましょうか」


 三度目。

 最初の光弾よりも多い、もはや確かに『絶望』としか言いようのない数の光が、俺たちに降り注いだ。

 そして視界と意識が暗転。


 気づいた時には、俺は紗羅と一緒に地面へ転がっていた。全身からは強烈な痛み。それでも思ったほどではないのは、紗羅がある程度防いでくれたからか。

 無理ばっかりさせちゃったな……。

 目の前にある彼女の顔を見て思う。幸い、顔には殆ど傷がなかった。しかし意識はないようで、両目は閉じられている。


 そこへ地面を蹴る音。視線を上に向ければ、真夜が俺たちをじっと見降ろしていた。

 終わり、か。

 よくやった方だと思うけど。でも、悪魔とやらにはやっぱり勝てなかった。

 最後に、何か言っておくことはないだろうか。真夜の憎たらしい顔を見ながら俺はぼんやりと考え――ああ、そうだ。


「あの事故、あれもお前の仕業だったのか?」


 こいつと会ったのはこれが三度目。正確に言うと一度目の事故の時は姿を見ていないが、二度目の時にあんな悪夢を見た、おそらくは『見させられた』ことを思えば、あれもきっとこいつの差し金だったはずだ。

 すると案の定、真夜からは満面の笑みが返ってきた。


「私としてはどっちでもよかったんだけどね。結果的にはまあ、上々かしら」


 紗羅が轢かれても、俺が庇っても……ってことか。

 俺が紗羅を庇った結果、紗羅は恋を知ってしまった。呪いのために決して叶うことのない恋を。

 紗羅が轢かれて死んだら……羽々音家は長女を喪い、紗羅は幸せになれないまま人生を終えることになる。


「……やっぱりお前、悪魔だな」

「悪魔じゃない、なんて一言も言ってないけど?」


 うわ、可愛くねえ。紗羅が言った通り、悪魔とサキュバスって全然違うな。

 紗羅が自分の楽しみのためだけに他人を貶めるような真似、するわけないし。

 そんな俺の思考を読んだのか、ハイヒールの踵が俺の頭を蹴った。


「ねえ? 今からあなたを殺そうと思うんだけど、どう思う?」

「……好きにしろよ。こっちには抵抗する力なんて残ってないんだ」


 せめてもの反抗としてそう答えると、真夜は実に楽しそうに、


「そう。じゃあ、お嬢ちゃんには想い人のいなくなった世界で生きて貰いましょうか。『自分の意思で死を選ぶことを禁止する』とでも呪いをかけて」


 ……前言撤回。例え余力がなかろうと死ねなくなった。

 気力を振り絞って腕を上げ、真夜の足へと伸ばす。と、腕はあえなく蹴り飛ばされた。

 駄目だ、こんなんじゃ。どうにかなるわけがない。


 ――考えろ。何かないか、何か。


「ふふ、必死になっちゃって可愛いのね。でも、あなたが生き残っても同じよ? この子は力を使い過ぎた。不足した生命エネルギーを吸収するのに、これまでの比じゃない性衝動に襲われるはずだもの」

「な、に?」


 ――そうか。サキュバスは性行為によって力を補充するんだもんな。

 なら、ほんの少しだけ、俺が紗羅にできることがまだある、か。


「……何、笑ってるの?」

「別に」


 訝しげに尋ねてくる真夜にそう答えると、俺は間近にある紗羅の顔へと顔を近づけた。

 ごめんな、紗羅。意識のない時にこんなことして。

 そう思いつつ、彼女の柔らかな唇にキスをする。

 キスが性行為の一環に含まれるのかどうかはわからないけど。身体的接触を行っている以上、少しくらいはエネルギーを移せるのではないかと思ったのだ。

 そして案の定、キスをした直後から全身に残る力が抜けていくのがわかる。


 ――構わない、全部持って行ってくれ。それで紗羅が楽になるなら。


 どうせ死ぬならこれくらいの役得、なんて打算も含めつつ。


「なるほどね。無駄な足掻きをしちゃって」


 確かに無駄だ。だけど、それでいい。

 俺は人間だから。悪意や打算だけで動けるわけじゃない。


 ……ああ、だんだんと意識が薄れていく。

 頭を固定していた力すらもなくなり、唇が離れる。そして俺はごろんと地面に横になった。

 そんな中、視界の端で紗羅が目を開くのがわかった。


 良かった。思った直後、強烈な光が弾けた。


 *   *   *


 そこからの『戦い』については、本当にぼんやり眺めるしかできなかったので詳細は語れない。

 ただ、立ち上がった紗羅がこれまでと違う、漆黒の羽毛の翼を生やしていたこと。

 彼女の力に圧倒され、真夜が吹き飛ばされたこと。

 そこから数度の攻防が繰り広げられたこと。それらはなんとなく覚えている。


 意識がはっきりと戻った時には戦いは終わっていて、何故か俺の傷は全て癒えていた。目の前にはぼろぼろの服を着た、けれど無傷の紗羅がいた。

 身を起こせば、少し離れた場所に傷だらけの真夜が座り込んでいて。

 彼女は心底悔しそうに、けれどはっきりと俺たちに告げた。


「降参よ」


 次の瞬間、隣の紗羅が息を飲み、そして微笑んだ。


「悠奈ちゃん。私の呪い――解けたみたい」

「……本当か?」

「うんっ」


 そして彼女は俺に抱き着いてきて、両目からとめどない涙を溢れさせた。俺は苦笑しつつそれを抱き返し、ついでに少しだけ、ほんの少しだけもらい泣きしたのだった。

次回、第一章エピローグです。

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