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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
一章 俺とあの子と悪魔の呪い

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16/202

時限性の呪縛

 『誰かと両想いになったら、相手に災いが降りかかる』。

 その呪いを紗羅が受けた理由が羽々音の家柄にあることは事実だが、しかし別にもう一つ、大きな理由として紗羅がサキュバスであることが関係しているのだという。


「サキュバスの性欲……吸精の欲求は相手を選ばないの。これはわかるよね?」

「……あ、ああ。いわゆるビッ……ええと、好きな相手じゃなくても構わない、ってことだよな?」

「そう。でもね、逆に言えば相手は恋人でもいいの。実際、好きな人とだけしか『そういうこと』をしないサキュバスもいるみたい。ただ、私の場合はそれができなかった」


 呪いのせいだ。恋人を作れば相手が不幸になる。それがわかっていて恋愛に向かうことが紗羅にはできなかった。

 となると、吸精の欲求を満たす方法は限られてしまう。

 つまり、好きでもない相手との行為だ。


 紗羅がきゅっと唇を引き結んだ。


「それが私は嫌だった。恋をすることも許されず、好きでもない人と関係を持たなくちゃいけない。しかも、交わった相手を好きになることもできない」


 だから紗羅は我慢した。吸精の欲求を、殆ど意地だけで抑制し続けた。


「でも、いつかは限界が来るのもわかってた。種族的な本能を、理性だけで一生押さえ続けられるわけないんだから」

「……もし、限界が来たら」

「今まで抑えていた分、欲求が爆発すると思う。そして、一度楽な生き方を覚えてしまったら絶対に戻れなくなる」


 おそらく悪魔の狙いはそれだ。紗羅が呪いと体質に苛まれ、限界まで苦しんだ挙げ句、人として越えてはいけない一線を越えること。

 真っすぐな魂が深い闇へと落ちていく様を観察すること。


 あの交通事故があった時、紗羅は既に限界寸前だった。思春期を迎えたことで欲求が強くなり、周囲に男性がいるだけで理性が揺さぶられるようになっていたのだ。

 それでも共学に通っていたのは、できる限り普通の生活がしたかったから。

 だから、二度目の学園祭を終え、定期テストを終えたあのタイミングまで転校を遅らせていた。


 ――結果、紗羅は事故に遭った。俺が庇ったことで本人に怪我はなかったが。


「嬉しかった。その前にお話した時から気になっていたけど――あの時、御尾くんに助けてもらった時、生まれて初めて胸が温かくなったの」


 こうして、発動させるつもりのなかった呪いがその効力を発揮した。

 女の身体へ変わり、羽々音悠奈となった俺と、紗羅は同じ家で生活することになった。

 どきどきしたよ、と紗羅が胸に手を当てる。


「好きな人が傍にいるのがこんなに幸せだなんて初めて知った。毎日が楽しくて仕方なかった。悠奈ちゃんの気持ちを考えたら、そんな風に思うのがいけないことだってわかってたけど」


 でも、抑えきれなかった。


「女同士なのに?」

「そんなの関係ないよ。私は御尾くんの、悠奈ちゃんの心を好きになったんだもん。男の子でも女の子でもどっちでもいいの」


 紗羅の瞳が潤み、熱っぽい視線が俺を射抜く。

 殺し文句。それもこれ以上ないくらいの。

 好きな女の子から直球の好意を向けられた俺は、湧き上がる言いようのない感情に叫びだしそうになった。

 しかし、続けられた冷たい声に意識を引き戻された。


「だから、許せない。悠奈ちゃんの記憶を消すなんて」


 そう、それだ。気になっていた杏子さんの言葉。


「杏子さんたちもサキュバスなのか? 俺の記憶を消そうとしているのはどうしてなんだ?」

「ううん。お母さまも、世羅もサキュバスじゃない。私はお母さまの娘じゃないから」

「な……」


 杏子さんの子供じゃないって事は、亡くなった旦那さんと誰かの子供?


「羽々音家の長女がサキュバスなんて隠したいから。だから、お母さま達は穏便に話を済ませたかったの。悠奈ちゃんの記憶が消えてしまえば全部丸く収まるから」

「いや、丸くって。それじゃあ紗羅は」

「……大学進学と同時に勘当されるんじゃないかな。それ以降は何があっても羽々音家は関係ない、って」


 それでも「お母さま達が悪いわけじゃないよ」と紗羅は微笑む。

 異質な存在。それも大きな爆弾を抱えた子供の扱いに困るのなんて当たり前だ。だから、杏子さんたちの対応が間違っているわけではないのだと。

 ただ、それでは紗羅の意思とは相反するから。だから逃げ出した。


「悠奈ちゃんのペンダントに触れた時、サキュバスとしての衝動が溢れてきて、姿が変わっちゃったでしょ? あれから私も部屋に閉じ込められてたの」


 しかし食事だけはきちんと運ばれてきていた。その際、凛々子さんが俺の記憶消去についてうっかり漏らしたらしい。


「私はどうなってもいいけど、悠奈ちゃんの記憶が消されるのは嫌だから。だから一緒に逃げて……呪いを解いてしまおうって思ったの」


 呪いを解く。

 そうすれば俺は男に戻れる。紗羅を縛る呪いもなくなる。

 トラブルの種は小さくなり、俺の俺の記憶を今更消す意味も薄くなる。


「……それに、全部終わった後なら、悠奈ちゃん、御尾くんと恋人同士にだってなれるから。もちろん、御尾くんが私のこと許してくれれば、だけど」

「……紗羅」


 俺は小さく呟いて紗羅を見た。

 許すか許さないかって、そんなの決まってる。

 不安そうに俺を見つめ、所在なげに手を彷徨わせる彼女に、俺はそっと手を差し伸べた。


「あの時、紗羅に告白した気持ちは変わってないよ。だから、呪いを解こう。一緒に」

「……うんっ」


 紗羅の瞳から涙が溢れ出す。俺たちは手の指を絡めながらテーブル越しに見つめあった。

 ……邪魔だな、このテーブル。これが無ければキスするところなんだけど。

 いや、いいか。身を乗り出せば。

 思い、俺は紗羅の手を引く。と、意図を察した紗羅がはにかみ。


「今は駄目だよ」


 そう言って絡めていた指を離した。

 え、なんで?


「今、そんなことしたら歯止めが利かなくなっちゃうから。するのは全部、終わってからにしよう?」

「……そっか。そうだよな」


 そういうことなら仕方ない。物凄く残念だけど我慢するしかない。

 はぁ、とこっそりため息をつくと「やっぱりそういうところは男の子だよね」と笑われた。全くその通りなので返す言葉もなかった。


「じゃあ、作戦会議だな」

「うん」


 俺たちは頷きあい、気分を切り替えると、まず簡単に打ち合わせをした。詳しい今後の方針は何やら準備? をしてくれている慎弥たちを呼んだ方がいいだろうから、先に開示できる情報とできない情報を整理する。

 結果、俺の性転換と紗羅の体質以外は明かすことにした。既に俺が慎弥に話してしまっているし、悪魔関連の話をしないことには作戦会議にならない。


 二階にいる慎弥と澪ちゃんを呼び、再び居間に四人で向かいあう、本格的な作戦会議が始まった。

 今日か、明日中に紗羅の呪いを解くために。


 ……って、本当にそんなこと可能なのか?

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