表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
一章 俺とあの子と悪魔の呪い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/202

脱出

 地下室の入り口から階段を上がると小さな部屋だった。屋敷の隅にあたるらしいその部屋の窓から、俺は紗羅と一緒に外へ出る。

 夜闇の中、音を立てないよう庭を駆け抜け、外壁を乗り越える。俺は紗羅に持ち上げてもらって上り、紗羅はジャンプだけで壁の淵に手を届けてみせた。

 ――つくづく物凄いな、紗羅の力は。


 一緒に逃げよう。

 そう聞かされた後、俺はもちろん紗羅に事情を問いただした。しかし彼女は首を振り、俺に言った。


「このままここにいたら、悠奈ちゃんの記憶が消されちゃう。だから気づかれる前にここから逃げないと」

「……わかった。けど、詳しい話は後で必ず聞かせてもらうからな」


 時間がないという指摘に、俺はいったん納得することにした。だから着替えをする短い時間に聞き出せたのは、ほんの僅かな情報だけだった。

 紗羅は普通の人間ではないこと。呪いと悪魔は実在すること。

 もちろん、それすらも嘘だという可能性はあるのだが。そんな事を言っていたらきりがない。

 なら、少しでも可能性のある方に賭けるしかない。そう思った。


「何か宛てはあるのか?」

「……ううん。ただ、一日ちょっと時間が稼げればどこでもいい。それだけあれば全部終わらせられると思うから」

「わかった。なら任せてくれ」


 夜道を二人で歩きつつ、俺は紗羅が持ってきてくれたスマートフォンを取り出した。ディスプレイを表示すると数件の着信履歴。……ちょうどいい、そのまま折り返そう。

 そうしてコールすると数回で、慎弥は電話に出てくれた。


『もしもし。今、どういう状況だ?』

「話が早いな。これから行くから、一晩匿ってくれ」

『……わかった。着いたらまた連絡しろ。説明はそれから聞く』

「ありがとう、本当に助かる」


 短い会話を交わして通話を切った。「誰?」と尋ねてくる紗羅には「友達だよ」と答える。


「口は堅いし、もうある程度の話は通してある。それに、親元を離れて暮らしてるから、騒ぎになる可能性も低いと思う」


 この前知った妹さんの存在は微妙だけど、そこはもう仕方ないだろう。紗羅も「……わかった。悠奈ちゃんに任せる」と言ってくれた。

 慎弥の家まではタクシーを拾った。さすがに徒歩だと遠すぎるからだ。俺は財布までは持ってきていないので、料金は紗羅が支払ってくれる。


「ごめん、紗羅」

「気にしないで。それくらいは予想してたから」


 家の前まで着いたところでコールすると、玄関のドアが開いて慎弥が顔を出した。


「悪い、恩に着る」

「ああ……っと、一人じゃないんだな」


 近づいて声をかけると、慎弥は答えてからすっと目を細めた。しかしすぐ納得したように頷く。


「ともかく、二人とも入ってくれ。なるべく静かに……と言いたいところだが、その必要はないから安心してくれ」

「は?」


 わけのわからない旧友の言動に、思わず紗羅と顔を見合わせたが……その意味はすぐにわかった。家の中に入り靴を脱いだところで、廊下から女の子が顔を出したからだ。


「こんばんは、お二人とも。……って、お兄様。こんな綺麗な女性が二人も来られるなんて聞いてないんですが。どういう関係ですか?」

「友人とその知り合いだ。少なくとも詮索されるような関係じゃない」

「あ……えっと」

「こんばん、は?」


 いわゆるゴスロリというのだろうか。黒っぽいふりふりした服を纏い、髪をツインテールにした女の子だった。俺たちににっこり笑いかけたかと思うと次の瞬間、慎弥へと矛先を変えてしまったので、果たして挨拶は届いたかどうか。

 ぽかん、とするしかない俺と紗羅を見た慎弥が苦笑しつつ説明してくれた。


「妹の澪だ。迎え入れの準備をしてる時に見つかってな。……澪、二人は羽々音紗羅さんと羽々音悠奈さんだ」

「黒崎澪です。えっと、お二人は姉妹なんですか?」

「ああ、うん。まあ、そんなところかな」


 礼儀正しく頭を下げて挨拶してくる彼女に、ぎこちない笑顔を返した。

 ……とりあえず悪い子ではなさそう、なのかな。


「まあ、こうなった以上は居間に案内しよう。それと悠奈、スマホの電源は切っておけよ」

「へ? ああ、わかった」


 よくわからないが慎弥の言う通り電源を切る。と、横で紗羅も「そういえば、そうだね」と呟いてそれに倣っていた。

 四人そろって黒崎家の居間に移動する。ちなみに慎弥達の部屋は二階だ。


「どうぞ、お茶です」

「ありがとうございます」

「で? いきなり匿って欲しいって、何があったんだ?」

「えっと……」


 ちらりと澪ちゃんを見る。彼女がいる場でどこまで話していいものか。


「ああ、心配するな。こいつもその手の話は大好物だから」

「はい。口外するつもりもありませんのでご心配なく」


 するときらきらした目で頷く澪ちゃん。ああ、それでゴスロリとか着てるのか。

 しかし兄妹揃ってそんな趣味って……いろいろ業が深いな。


「……ああ。実は俺たちもまだ詳しい話はしてないんけど」


 例のペンダントを使ったところひと悶着あり、地下に監禁されていたこと。そのまま羽々音家にいると記憶を消されそうなので逃げてきたことを話す。

 と、そこからは紗羅が話を引き継いだ。


「こうなってしまった以上、私は今晩か明日中に決着をつけるつもりです」

「決着……やりあうつもりなのか? 例のアレと」

「……ご存じなんですね」


 まあな、と慎弥が息を吐いた。それから彼はおもむろに立ち上がる。


「成程。なら、ひとまず僕と澪は準備をしてこよう。多少は協力できることもあるだろうし」


 そう言って澪ちゃんと共に居間を出ていく。落ち着いたら部屋まで呼びに来い、とのことだ。

 ……正直、その気遣いは助かる。まだ俺と紗羅の間でも話ができていなかったから。


「紗羅。話してくれるか? 何がどうなってるのか」

「……うん」


 二人きりになり、静まり返った居間で俺たちは向かい合う。階上では何やらどたばたと物音が聞こえてくるが、まあ、それは一旦無視する。

 俺に話を促された紗羅は息を吸い込み、それから話し始めた。


「まず、私のことからだよね」

「ああ。紗羅は悪魔、なんだよな?」

「……えっと。そうだといえば、そうなんだけど」


 困ったような苦笑が返ってくる。

 俺としては核心をついたつもりだったのだが。

 紗羅が立ち上がり、軽く目を閉じる。と、彼女の身体が一瞬発光し、あの翼や尻尾、角を伴った姿へと変わる。


「正確に言うと、私は淫魔。サキュバス、と呼ばれる種族なの」


 サキュバス。その名前も何かで聞いた事くらいはある。


「エロい事をする悪魔の種類、だったっけ」

「……うん。でも、基本的に淫魔と悪魔は別の存在。姿や性質には似通った部分が多いんだけどね……」


 言うと、紗羅は姿を元に戻す。どうやら変身は自由に行えるらしい。


「悪魔は長命で、奔放な種族なの。生物的な三大欲求も存在しない……ううん、もしかしたら生物ではないのかもしれない。でも、淫魔は違うの。何もしなければ人と同じ程度の寿命しかないし、肉体に縛られて生きている」


 サキュバスには人間と同じく食欲や睡眠欲、性欲が存在するらしい。ただし、人と違うのは、食欲と性欲がほぼ直結していること。


「サキュバスは他人の精気を吸って生きるの。その方法が性行為。……そのために、私たちの身体は異性を惹きつけるようにできている」


 ……紗羅の容姿、校内の生徒を惹きつける魅力の原因はそれだったのか。

 なら、紗羅も人の精気を吸って?


「ううん。精気……生命エネルギーを得るだけなら、普通の食事でも大丈夫だから。私は一度も、その。そういうことをしたことはないよ」


 恥ずかしそうに呟き、紗羅が俯きがちにこちらを見つめる。

 ……そっか。

 紗羅はあらゆる相手からの告白を断っていた。あれはやっぱり間違いではなかったのだ。そう思うとなんというか、ほっとした。


「……でも。それって辛くないのか? 要するに食欲だけで、その。性欲は満たされないってことだろ」

「そうだね。でも、仕方ないの。私にはできない理由があったから」

「理由?」

「呪いだよ。あの呪いが、私をそういう風に縛ってきたの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ