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聖女の妹、『灰色女』の私  作者: ルーシャオ


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第二十話

 とはいえ、このままでは何が起きたか、誰も把握できないままだ。


 私は、信頼できる人物にある程度の説明をし、私がやったことを密かに後世に伝える必要があると思った。


 もしかすると、あの老婆の呪文がどこかからか流れてきて大事件に発展することや、マナの『流れ』を管理しなければならない大災害が将来起きることだって考えられる。『灰色女(グレイッシュ)』が少なくなった未来、何者かが『灰色女(グレイッシュ)』を悪用する可能性だってあった。


(候補としては、私の復讐の内容を知っても『灰色女(グレイッシュ)』を利用しようと考えず、教訓として残す意義を理解してくれる人物。魔法とは関わりがなく、むしろ魔法を嫌悪する側の人間でなくてはならず、かといって王侯貴族たちにへりくだるような地位の低い人物であってはならない。これに該当するのは今のところただ一人——王城騎士団団長、第二王子殿下だわ)


 私は『マナの大渦(おおうず)』の調整をしつつ、アイメル様を通じて第二王子殿下に面会の約束をこぎつけたのだ。


 その手筈としては、私は正式な儀礼書簡の書式に則り、アイメル様に一通の手紙を渡したのだ。


 アイメル様はその意味が分かったらしく、いつになく表情を固くしていた。


「これを第二王子殿下にお渡ししてほしい、と?」

「はい。アイメル様はもちろん、第二王子殿下も事の重大性をご認識くださるかと存じます」

「……貴族が王族へと正式な儀礼書簡を送るのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と聞いたことがあります」


 王城騎士団副団長として、アイメル様もその手の儀礼を知っているようだ。


 ならば話は早い。


 私は、しっかりと頷く。


「はい。もちろん、その意味合いを含んでおります」

「失礼ながら、私には話せないことですか?」

「いいえ、第二王子殿下との面会が叶った暁には、アイメル様も同席していただきたいのです。その場でお話しします」

「それほどのことですか。あなたがそこまでの覚悟をしなくてはならない事態に陥ることのないよう、全力を尽くしましょう」

「ありがとうございます」


 その日のうちに、アイメル様は第二王子殿下へと私の手紙を手渡してくれたらしい。


 アイメル様が帰宅した際に「翌日早朝、家の紋章を隠した馬車で夫婦揃って王城へ来るように」との伝言が伝えられ、私は用意していたいくつかの書類を封筒へとしまい、封蝋を押した。


 あくる朝、まだ朝日も上らぬうちから私とアイメル様は王都へ向かう。シェプハー家の紋章付きの馬車から紋章を外し、窓のカーテンをしっかりと閉め、王城から派遣された御者二人に馬車を任せた。


 口頭で説明する以外に、私が行った復讐の内容を記した書類を用意し、膝の上で抱え持つ。馬車の振動はそれほどないはずなのに、私の手は震えていた。


 私の隣に座るアイメル様が、そっと私の手の上に自らの大きな手を覆い被せた。


「緊張するなというのは無理でしょうが、私は何があってもあなたを守ります。あなたの告白がこの国のためであるかぎり、この国の騎士である私にはその義務があります」

「……ありがとうございます」

「それに、第二王子殿下……レオナルド様は話の分からない方ではありません。あなたの手紙を読んだ上での召喚命令です。あなたと危機感を共有した、それは間違いないでしょう」


 ええ、と相槌を打ちたかったが、私は緊張しすぎて声が出ず、ただ頷いただけだった。


 第二王子殿下に私の復讐内容を話すと同時に、アイメル様に私のやってきたことが知られてしまうというのは、私にもリスクのあることだ。


 第二王子殿下やアイメル様は、私がなぜそのようなことしたのか、と知りたがるだろう。


 私は「復讐のためです」と答えるしかない。


(魔法ばかり重視するこの国で、『灰色女(グレイッシュ)』である私を蔑み、見下したすべてへの復讐が私の動機。私は復讐したかった、その結果が魔法からの依存の脱却という風潮を生み出した。決して、この国のため、誰かのために復讐を企んだわけではない。あくまで……誰かのためになったのは偶然でしかない)


 そんな女を、第二王子殿下は、アイメル様はどう見るだろう。


 そればかりは、予想もできない。この復讐の内容を説明し終えたら口封じに殺害されるかもしれないし、アイメル様からは離縁を切り出されるかもしれない。


 私は、ひたすらに最悪の未来を考えてしまう。


 こんなこと、しなければよかった。復讐なんて誰にも言わずに黙っておけばよかった。


 でも、もう私は決めたのだ。


 私の復讐は、最後まで完遂する。


 そのためには、避けては通れない道なのだ。


 馬車はまもなく王城へと入る。


 未だ、日は昇っていなかった。

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